髙柳雄一館長のコラム

2017年01月一覧

「日読みの酉」に思うこと

 新年あけまして、おめでとうございます。新しい年を迎え、気持ちも新たに今年実現したい目標を定め、それを目指して計画を立て始めた方もいらっしゃると思います。元旦に頂いた年賀状をみると、今年は暦(こよみ)の十二支では酉(とり)の年に当たり、それを意識した文字や画像のレイアウトも楽しむことができました。

 暦(こよみ)で使われる酉(とり)を示す漢字は、私たちがよく使う鳥(とり)に比べて形も印象も異なる文字です。この文字は十二支と関係したときに登場する漢字です。日常生活で、時刻や方位を示す十二支をあまり使っていない現代の私たちにとって、酉(とり)と言う漢字はそれほど馴染みがありません。しかし、漢字には、この文字を組み合わせた酒という漢字など、色々な漢字の中に酉は登場しています。そんな時、この部分を「日読みの酉(とり)」と呼んでいます。神社のお祭では「一の酉」、「二の酉」と呼ばれる行事が行われる特別な日もあります。「日読みの酉」はまさにピッタリの表現です。
 十二支はネズミにはじまり、イノシシに終わる動物たちが登場するサイクルです。注意してみるとそれらの動物を示す漢字の多くは馴染みの薄いものが使われています。ネズミは子、ウシは丑、トラは寅、ウマは午、・・などを思いだして下さい。十二支の動物を示す漢字は、それが時刻や方位などの情報を持っていることを目立たせているのかもしれません。

 方位を示す十二支の例では、多摩六都科学館で昨年秋に展示されたキトラ古墳の壁画を思いだしてください。そこには四つの方位を示す聖なる神獣として東に青龍、北に玄武、西に白虎、南に朱雀が描かれており、その下に十二支の動物の顔をした人身が描かれていました。但し、古墳内部の保存状態の劣化で展示された十二支の人身像では寅の顔だけしか明確に見ることができませんでした。勿論、壁画が描かれたときには西壁の白虎の下に酉の顔をした人身像があったに違いありません。
 天体の運行を方位で知り、季節や時の流れを知った古代の人々が、方位と結びつく時の流れを、誰もが知っている動物を利用して仲間と共有できる知識としたことに気づくと、十二支は古代人の知恵の素晴らしさを物語っているようにも思えます。

 私たちの住む世界には目には見えないものがいくつもあります。時間の流れや、空間の方位もその一つです。「日読みの酉」が示す時の流れや方位は、目では見えないものを心で知る人間の知恵の表れかもしれません。
 「日読みの酉」は動物としては時を告げる鶏を示しています。それでは鶏はどのようにして時の流れを知るのだろうか?・・など、好奇心旺盛な人間は今年も新たな「ふしぎ」の解明と新たな「ふしぎ」の発見に努めるに違いありません。そんな科学の世界に触れられる場所として、皆さんに今年も多摩六都科学館をご利用頂ければと願っています。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)