髙柳雄一館長のコラム

季節の移ろいを楽しもう

夜半を過ぎると星の世界にも冬の星々が目立つ季節となりました。
季節の移ろいが見えるのは空ばかりではありません。
地上では、ようやく色付いた木々の紅葉が目に付く季節となり、秋から冬への時の流れを気づかせてくれます。
日常生活に追われて身の周りの世界に注意が限られているせいか、生活の中で季節の推移に気付かされるのは、日頃は見逃している世界を、ちょっとした機会に注意して眺めた時が多いようです。

uid000120_201211131720344a2547c1秋の気配に気づいたのはいつからだったか、考えてみるとはっきりとは思い出せないものです。
いつの間にか、公園や戸外で出会う木々の緑に、これまでとは違う紅葉の色合いを感じる機会が増えて、秋だなと感じるようになった気もします。          

もっとも、私が利用する京王線では、高尾山の紅葉まつりがはじまったという駅や車内の広告を至る所で目にするので、今年の秋の紅葉に気づかされたのは自然環境からだけではなく、社会的環境からの情報も無視できません。


現代の都市で生活する人間にとって身の回りの環境変化を知る機会は、自然界よりも、例えばマスメディアの紙面や画面で目にする季節のイベント情報、11月7日に迎えた立冬を伝える情報など、社会的環境の方が多くなっているのも肯けます。          

その点で、自然界の細やかな季節変化を楽しみ、同時に季節の移ろいをいち早く知ることが生活を豊かにする「生きる知恵」となっていた、お爺さんやお婆さんたちの頃に比べて、季節の変化に対する態度も生活の営みの中で変わってきているのかもしれません。

 季節の変化を、自然界だけでなく社会の動きの中でも知る時代に住む私たちですが、変化する季節がもたらす自然の恵みを楽しむことでは昔の人と変わりません。
紅葉狩りへの案内ポスターを見て、初冬の自然に触れる旅の計画を立てる人も多いでしょう。

uid000120_20121113172122eed0122f宇宙の話題から地上の話題へ変わる今月のコラムを書きながら、自然の中で季節の移ろいに気づき楽しむ人間の習性にあらためて気づかされました。
考えてみると、太陽の周りを回る地球にすむ生き物たちは、生命誕生以来、巡る季節の変化の中で、子孫を残し生き延びる知恵を育んできました。
その中で、季節の変化を楽しむ習性を身につけた人間の営みに思いをはせるのも紅葉狩りの楽しみを広げてくれるような気もします。

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髙柳雄一館長

髙柳 雄一 (たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学 系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフ・プロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)