髙柳雄一館長のコラム

土星と地球のツーショット

 太陽系の中で目立った輪を持つ土星ほど姿が印象的な惑星はないに違いありません。ガリレオが手製の望遠鏡で、1610年に人類で初めて土星を観測したとき、望遠鏡の性能もあまり良くなかった為でしょうか、私たちにすっかりお馴染みの土星のトレードマークになっている輪がはっきりとは見えず、土星には両側に衛星があるようにも見えました。それを耳があるとも書いています。さらに、1612年に観測したときは、丁度、地球から見て土星の輪が消える時だったせいで、耳に見えた部分が消え失せ、また1613年に輪が現れるとすっかり混乱して、土星は悪魔の星だとされたという話を思い出します。


 望遠鏡の性能がその後はるかに良くなり、1655年にはオランダの科学者クリスティアーン・ホイヘンスが土星の輪の存在を確認しました。1675年、土星の輪を詳しく調べ、土星の輪の間には隙間がいくつもあり、土星の輪が複数の輪で構成されていることを発見したのがフランスの天文学者ジョバンニ・カッシーニです。土星の輪の観測は、地上の望遠鏡から、現在では土星を回る土星探査機カッシーニへと引き継がれ、さらに詳しい構造、近くを回る衛星との関係など今も新しい発見が続いています。


 土星探査機カッシーニが撮影した数々の美しい土星の輪の姿は私たちに一層、この惑星を魅力的な存在にしているはずです。そんなカッシーニが7月19日に土星と地球のツーショットを撮影し大きな話題になっています。カッシーニのカメラが撮影した画像を見ると土星の美しい輪の外れにぽつんと青白く輝く光の点が地球です。撮影時のカッシーニと地球間の距離は14億4千万キロ。この距離は太陽と地球間の距離の凡そ10倍です。それだけに土星本体を外し地球画像の部分だけにしても、地球は依然小さな点に見える画像ですが、カラー画像をさらに処理し、地球の傍に月が写っている画像も発表されています。



 カッシーニの探査活動を行っているカリフォルニアロサンゼルス郊外のパサデナにあるNASAのJPL(ジェット推進研究所)は、今回の土星と地球のツーショット撮影時が、アメリカでは昼間であることを活かして、地上からカッシーニのカメラへ手を振るなど合図を送ろうと言ったキャンペーンを実施した。その様子をNASA-JPLのWEBから紹介して置きます。地球の画像は撮影時、カッシーニのカメラから見た地球のシミュレーション画像で、集合写真は土星の傍にあるカッシーニのカメラに向けて手を振る人々です。原理的には、この光景が放つ光が土星と地球のツーショット画像の中の地球画像に含まれる期待が持てるところが愉快です。




 宇宙から地球を撮影した写真はいつも話題になりました。1968年、アポロ8号が初めて宇宙から撮影した地球の姿、1990年、地球から60億キロ彼方でボイジャー1号が撮影した太陽系家族惑星の中の地球の薄い青い点状の姿、2010年、水星探査機メッセンジャーによる太陽系内側から撮影した惑星たちの画像の中の地球。実は今回、カッシーニによる撮影時にも、水星探査機メッセンジャーは地球と月の白黒写真を同時に発表しています。



 これまで話題になった地球画像がどちらかと言うと地球のワンショット画像であるのに対し、今回のカッシーニが撮影した画像が異なる点は土星とのツーショットが基本となっていることです。何故だかわかりますか?カッシーニのカメラは地球を撮影するために土星を効果的に利用しているのです。地球と太陽のツーショットは太陽の光が明るすぎて不可能なのは良くわかるでしょう。じつはカッシーニのカメラは土星本体で太陽を隠して地球を撮影したのです。土星の画像がバックライトで逆光になっていることに注目してください。


 今回の土星と地球のツーショットはよく考えると愉快な画像です。アメリカでカメラに向けて手を振った人々にも、土星と並んで集合写真を撮るような喜びを感じた人もいたかもしれませんね。皆さんも、土星とツーショットが取れる時代に、自分たちが宇宙に住んでいると考えると、今夜の夜空で、土星を探すのも楽しくなるでしょう。

画像出典:NASA

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939年4月富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフ・プロデューサーなどを歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)