髙柳雄一館長のコラム

春雪に思う

 この2月、土曜日は二度も大雪に見舞われました。多摩六都科学館へご来館を予定されていた方々には大変ご迷惑を掛けました。雪のせいで予定変更を余儀なくされた方、交通の不便を体験された方、そして、何よりも春を待っている多くの人々にとって、近年では稀な大雪に見舞われる忘れられない事件に出会い、誰にとっても思い出の深い月になったことでしょう。

 この大雪を体験し、これまで自分には2月にどんな思い出があったのか振り返ってみました。四季の変化に恵まれた日本に住む私たちの思い出には必ず季節の行事に関係したものが含まれます。2月と言うと、毎年、節分の豆まきは忘れないで実行してきました。今年は、誘われて恵方巻きを食べる体験もしました。しかし、昨年は、そのまた前の年には、子ども時代は、・・と遡ると、この季節行事に参加した思い出も薄れ、2月では娘が生まれた誕生日の出来事以外にはっきりと思い出せる記憶があまりありません。

 お正月で始まる1月と年度末で終わる3月と言う、思い出の多い月に挟まれ、2月は印象が薄くなる月のせいでしょうか、いつも駆け足で通り過ぎて行く月のように感じていたことに気づかされます。2月以外の月は30日以上もあるのに長くても2月は29日しかありません。すぐ終わってしまう月と思うのは無理もありませんね。また、冬と春の二つの顔をもつ2月と言う季節の印象が重なり、はっきりした四季の思い出として残りにくいせいかもしれません。

 子どもの頃、何故2月だけ日数が少なくなっているのか気になっていました。大人になって、ローマ皇帝アウグストゥスが紀元前8年に自分の名前を付けた8月(オーガスト)を31日にする際、2月から1日を取り除いたという話を聞き、また、それ以前のローマの暦では現在の3月が年の最初の月であり、年の最後に置かれていた2月は、天体の運行から導かれる1年の正確な時間と日数を合わせるため通常年は28日、閏年は29日にしたと言う説明を知り何となく納得してしまいました。天体の運行で決まる地球の公転と自転に合わせた暦にも、地上の人間の思惑が絡んでいると想像すると愉快になります。

 2月の大雪に出会って星座の世界を想像するのも面白いですよ。皆さんも良くご存じの星占いの星座に触れてみましょう。2月の星占いの星座はご存じですか?2月18日までは「みずがめ座」19日からは「うお座」となっています。どちらも天に広がる星座ですが、水と深い関わりを持っているのに気づくと不思議な想像が働きます。2月の大雪は「みずがめ座」から流れ出した天の水が冬の寒気に触れて雪になったのかもしれませんね。勿論、これは人間の馬鹿げた勝手な想像です。

 大雪に見舞われ、室内に閉じ込められたせいか色々と想像を愉しんでみました。皆さんは大雪に見舞われて何を思い出されたことでしょうか。いずれにしても誰にとっても春が待ち遠しいですね。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学 系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフ・プロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)