髙柳雄一館長のコラム

年の瀬に気づく世界と科学の「ふしぎ」

 年の瀬を迎えると、時の流れは巡るものとして目立つような気がします。人間が時間の流れを意識する際、昼夜や、季節の変化に現れる周期性を利用していることを考えると、私たちが年の瀬の時の流れに注目する理由も頷けます。年の瀬の時の流れで、もう一つ特徴的なのは、これも周期性と関係しますが、一年も終わりに近づき、そこに残された時間が目に見えて意識されることです。目に見える時はカレンダーだけではありません。クリスマスやお正月街の雰囲気が漂う街角の飾りつけまでもがその意識を高めてくれます。
 時間を意識する人間が、意識する状況で時の流れ方に異なる印象を持つことに気づくと私たちの世界は、それを見る人間の状況によっても見え方が異なる「ふしぎ」な世界かもしれません。今回のコラムは、子どもたちに科学の話題を話す際、いつも私が感じる「ふしぎ」な世界に迫る科学の営みに登場する「ふしぎ」について触れたいと思います。

 私たち人間は好奇心を持った生き物です。好奇心は、世界の多様な仕組みに潜んでいる「ふしぎ」を発見する心ですから、人間は世界に「ふしぎ」を発見する生き物であるとも言えます。そう考えると、私たちが住む世界に「ふしぎ」がいっぱいあるのは、人間がそれらを発見するからかもしれません。科学の営みは好奇心によって導かれます。その意味では、科学は世界に「ふしぎ」をいっぱい発見する営みにもなっているのです。
 科学は「ふしぎ」を発見するだけではありません。一般に科学は、これまで人間が出会った「ふしぎ」を解明し、その結果、人間が獲得した知識をまとめて発展してきました。科学の営みには「ふしぎ」を解明して人類が共通して利用できる知識を獲得することが重要な役割として課せられているのです。一般に科学の成果として知られているのは、科学が「ふしぎ」を解明した結果をまとめた科学的知識とそれを活かした技術の現れとも言えるでしょう。

 歴史的には、「ふしぎ」を発見し、「ふしぎ」を解明して発展してきた科学ですが、科学と「ふしぎ」にはさらに不思議な関係が伴います。科学が「ふしぎ」を解明すればするほど、一方で科学は、絶えず新しい「ふしぎ」を発見するからです。科学の歴史を人類が出会った「ふしぎ」の発見と「ふしぎ」の解明が互いに働き合ってきた成果の歴史とみることもできるでしょう。この過程で人間が世界でであう「ふしぎ」の数が減って来たのか、増えてきたのかは興味ある問題です。しかし、現在までの科学の歩みをみるかぎり、科学の歴史では、いつも新しい「ふしぎ」が登場して来ました。
 人間が科学と言う営みを続ける限り、科学が出会う「ふしぎ」は今後も絶えず増え続けるような気がしてなりません。科学館に来る子どもたちには、「ふしぎ」を解明した科学の知識に興味を持ち、同時に科学の発展に寄与する新たな「ふしぎ」も発見できる、そんな態度を身につける機会を少しでも多く提供したいと願っています。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)