髙柳雄一館長のコラム

2017年04月一覧

今年の花見を振り返る

 桜我が家の近くを流れる神田川沿いの道も、咲き誇っていた桜の木々が、たびたび風に吹かれて花びらを水面に落とし、すっかり葉桜を数える散歩道になりました。多くの皆さんも、最近では、花見に出かけた思い出を振り返ることが多くなったと思います。

 皆さんは、どんな花見をされましたか? 今年は、いち早く開花宣言が出されたにもかかわらず、仲間と花見に出かけようという日は、しばらくやってこなかった記憶が残っています。

 開花宣言後、確かにあちこちで桜の花と出会う機会も増えました。しかし、桜の木々が連なり、例年なら花見の舞台となっている場所も、早咲きの枝垂れ桜を挟んで多くの桜が咲き揃うまでになかなか至らず、今年の桜は一斉開花とは行かない不安まで感じたこともありました。

 花見の舞台の多くは一斉開花の桜を見に行くべき場所です。一斉開花がなかなか期待できない今年は、色々な咲き方をした桜を楽しめる場所を探して歩くことにしました。そこで、前回のコラムでも触れましたが、近年連れ立って花見に行く小学校時代の同級生と、まずは4月5日に上野公園に出かけました。

 上野公園と言うと、毎年、テレビのニュースなどで紹介されるように、花見の人々が集う沿道の桜並木が有名です。しかし、一斉開花の花見を避けた今年は、あえてそこには行かず、上野公園でも沿道の突き当たりにある東京国立博物館の庭園に出かけました。この庭園は東京国立博物館本館の丁度真裏に位置し、昔は寛永寺の内庭と言われている、中心に大きな池が占める周りの森林の間を巡る遊歩道で散策を楽しめる場所です。この散策の道筋に沿ってあちこちに桜の木が花を綻ばせているのが印象的でした。

 庭園散策中、多様な木々の緑が織りなす林間で、緑陰とも言える背景に包まれて咲き誇る桜の姿は、色が一段と映えて、背後に抜けた空に浮かぶ白い雲との対比も楽しむことが出来ました。この日は、その後、近くに寺が集う根津から千駄木に至る谷中の街歩きもしました。そこで発見したのは、墓地が連なる灰色世界の寺町にも、あちこちに目立つ枝垂れ桜の大木が、桜の季節を特徴づけていることでした。

 森林や寺院の中で眺めた今年の花見ですが、4月19日、今年の花見の締めくくりとして、高尾山の麓にある多摩森林科学園に出かけました。ここは広大なサクラの保存林があることで有名です。保存林には総数1400本の日本全国各地から集められたサクラが植えられていて、種類によって開花時が異なることでまだまだ咲き誇る桜の木々と出会う事ができました。

 ここでも、谷を挟んだ森林の中に咲く桜の花は、全体として山を包む多様な緑の世界の中に浮かぶ桜の花びらの連なりを見せていて、今年の花見で目論んだ、風景の中での桜の花見を楽しむことができました。

 日本人は昔から、春になると何時も、出会う桜の花を愛でてきました。おそらく生きている限り、日本では誰もが春の桜との出会いを楽しむのだと思います。出会う花も、それを見る人も、時の流れに従って変化を続けていることを考えると、どの花見も、花にとっても見る人にとっても生きている間に一度しかない出会いです。今年の花見も、人生の貴重なひと時の思い出になるかもしれません。皆さんの今年の花見は如何でしたか?