髙柳雄一館長のコラム

アジサイの花が咲く頃、思い出すこと

 新緑の映える季節になりました。自宅近くを流れる神田川の岸に沿った桜並木も、すっかり新緑に覆われて、緑の陰が連なる素敵な散歩道になっています。桜の後、この道では所々で出会った白いハナミズキの花が印象的でした。それが今では濃淡の緑に包まれた遊歩道になってしまいました。そんな道を外れて住宅街の路に入ると、家々の周りで目にする花は生垣に植えられた白い十字の花びらが目立つヤマボウシです。ヤマボウシにはミルキーウエイと言う品種もあると知ってから散歩で出会うと注意深く眺めることもあります。

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▲科学館のヤマボウシ

 散歩道で出会う花々は、私たちに地上での季節の移ろいを楽しませてくれます。ヤマボウシの花だけではありません。アジサイの葉群の中に、いくつも枝先を占めたつぼみを見つけると、アジサイの花が咲き揃う季節も直ぐそこまで来ていることに気づかされます。我が家の庭にもアジサイが植えてあります。白い花びらが目立つガクアジサイですが、梅雨になる前に既にほころび掛けた花を見つけることが出来ました。

 春先の連休も終り、これから夏休みまで、春から初夏、そして夏を迎える日本では梅雨の季節が到来します。アジサイの花は、日本の梅雨の季節を特徴づける草花の一つと言ってよいでしょう。春から初夏へ、道端で出会う花のお話から梅雨の到来に話題が移るのも日本に住む私たちにとっては自然の成り行きかもしれません。

 四季の変化に富む日本で、梅雨の存在は日本の季節変化を特徴づける気象現象になっています。それだけに私たちの忘れられない思い出や体験の中には、梅雨の季節と切り離せない出来事も存在するはずです。今回はアジサイの花が咲く頃、私が何時も思い出す印象深い思い出に触れてみたいと思います。

 私はかつてテレビ局に勤めていたことがあります。その際、長く仕事をしたのは、番組演出・制作現場でした。そこでは宇宙をテーマにした特集番組をいくつも担当して放送しました。中には、子どもたちも含めた家族向け夏休み特集番組もありました。宇宙に関係した夏の特集番組ですから、番組の舞台は夜空です。そこに輝く月や惑星、星が描き出す星座を鮮明にテレビカメラで美しく鮮明に捉えることができなければ番組は作れません。

 私が担当した夏の特集番組制作には、晴れた夜空を撮影できる時間が必要であることは皆さんにもよくご理解頂けたと思います。そこで問題になったのは、夏の特集番組の制作時期でした。春先に提案した番組が、夏休みの放送日時を定められ、制作許可がでると撮影計画を立て、いざ夜空の撮影と言う時期が何時も梅雨の時期と重なったのです。

 日本の梅雨は、例年では6月初めから始まり、7月中頃まで続きます。この時期に晴れた星空を撮影する必要のある特集番組を制作することの困難さは大変なものでした。雨の中の草花の美しさを楽しむ余裕も必要ですが、予定通りに星空撮影の時間が手に入らないと心配がつのり、空を仰いで晴れ間の到来を願ったものです。

 印象深い思い出では、「月への招待」と言う夏の特集番組を京都大学飛騨天文台にある屈折望遠鏡の空き時間をお借りして月面撮影を実施した時です。現在と違って大きな録画装置を大量に積んだロケ用の車で、一週間近く滞在して月面が観測できる晴れ間を待ち望んだことがあります。大学施設の利用ですから期日を指定して滞在したのですが、滞在中は梅雨の最中でもあり、曇りと雨の日が続きました。東京へ戻る前日の夜、ようやく星空が見え始め、夜半過ぎまで月面の撮影を実施して、ようやく番組を完成できる素材が手に入ったことは忘れられません。

 仕事柄、アジサイの花が映える梅雨になると、昔、夜の晴れ間を求めて仕事をしていた当時の思い出が何時もよみがえります。梅雨の入りは田植えの季節とも関係していて、梅雨の雨を必要としている職業の方がいらっしゃることも良く知っています。梅雨に関しては色々な体験や思い出をお持ちの方もいらっしゃるに違いありません。今年の梅雨は皆さんにどんな思い出を残してくれるのでしょうか?そんなことを想像すると、梅雨明けの夏休みにも期待が膨らみます。

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▲咲き始めたアジサイ(科学館の西門ちかく)