髙柳雄一館長のコラム

2018年10月一覧

読書の秋に思うこと

朝夕の冷え込みを感じる日々が続き、秋の訪れを意識して過ごす季節になりました。これからは冬にかけて昼間に比べて夜の時間が長くなっていきます。「秋の夜長」と言われていますが、この長くなった夜の時間に読書をする人々が昔から大勢いたのかも知れません。秋になると、子どもの頃から「読書の秋」という言葉を聞かされてきたことを思い出します。

読書とは手元の辞書でみると「書物を読むこと」と記されています。書物とは一般には書籍とか本を指していますから、「読書の秋」は、素敵な本に出会い、時間をかけた読書の成果が期待できる楽しい季節だとも言えそうです。

情報社会と呼ばれる現在、私達は朝から寝るまで様々な形の情報に接しています。テレビやラジオの画像や音声、新聞の活字、道や駅で出会うポスターや標識、私たちは情報の海の中をたどりながら、生きてゆく上で必要な情報だけを受け取り、ほとんどの情報は無視しています。そんな情報源の中でも、私たちが接する書籍や本は特別な存在です。

本に記載された活字情報は読み手が、まず本を取り上げて表紙を開きページをめくり、先へ読み続けながら理解を進める考察をしなければ受け取りは完了しません。本に記載された情報の伝達は本と読み手の共同作業が不可欠になっています。活字という文字情報が紙のページに組み込まれた本と言う情報源の特徴的な様式の素晴らしさにも気付かされます。

その意味では、記録された文字による情報伝達の歴史で、活版印刷技術の出現が導いた書物の誕生が人類の文化の歴史を大きく変えたことが頷けます。

先月、「世界を変えた書物」展が東京で開かれていました。コペルニクスの「天球の回転について」や、ニュートンの「自然哲学の数学的原理」、ダーウインの「種の起源」など科学の歴史で人類の自然観を大きく変えた書物の貴重な初版本の数々を拝見することが出来ました。この会場で一番印象に残ったのは、「知の連鎖」と名付けられた研究者の書庫に似せた書棚を組んだ一角でした。それを見た時、ロンドンにいた当時、ダーウインの生家を拝見した際に見た書庫の様子を思い出しました。書物が醸し出す空間には人類が集積した知識が書物という形で物質的存在を誇示しているように感じたことを思い出しました。

書物は、それが紙という物質として存在するとき、手に取れる知識の存在を感じさせてくれるように思います。紙媒体の書物、本は現在、電子書籍への移行も進んでいますが、手にする書物が、紙の書籍である本から電子書籍になったとき、「秋の夜長」に人類が手にする書物はどんな感じになるのでしょうか。そんな未来の「読書の秋」を想像できるのも今年の秋の楽しさかもしれません。

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