髙柳雄一館長のコラム

2020年06月一覧

今は6月!巡りくる時のお話

コロナウイルス感染拡大で緊急事態が続き、その間、私たちは不要不急の外出を避ける生活に取り組んできました。外出しているときは、散歩にしろ、買い物にしろ、自分がしていることが、今必要な行為なのか、絶えず意識させられたことを思い出します。これまでと大きく異なった点は、戸外で出会う人間同士の距離を常に意識する必要がありました。

こんな体験は、今どこに居て何をしようとしているのか、足元も含めて常に自分の今の行動を意識して生活することが、この世で安全に生きる大切な営みであることに気づく機会となりました。自分を意識できるようになって以来、今を意識した時、私たちは何をするか、何をすべきか、これからはじめる行動を無意識にしても考えているはずです。そんな日常では無意識となっていた行為までも、今回の緊急事態では、他人との距離を配慮することで明確に今を意識する必要を迫ったと言えます。

今を意識する機会が多くなったからでしょうか? 私たちが出会う今には、状況に応じて、様々な今があることにも気づかされました。今ならできる、今こそすべき、今はできない、今もできる、今からできる、今は無理、・・・、緊急事態で私が意識した、それぞれの今を振り返ると切りがありません。緊急事態が解除された今、制約も少なくはなり、今からは、これまで以上に多彩な今を意識できるはずです。そして、今は6月!

どんな今が6月には期待できるのか? 巡りくる6月の時をいくつかを書いてみます。

今は昔、大和の飛鳥から都を近江の大津に移された天智天皇と言う方がおられました。日本古代の歴史を記録した『日本書記』によると、天智天皇は現在の暦で671年6月10日、大津で漏刻と呼ばれる水時計を造って時の経過を調べ、鐘や太鼓を打って都の人々に時を告げさせました。

祝祭日が無い6月のカレンダーで目立つ「時の記念日」は、この故事により、100年前の1920年、時間の大切さを尊重する意識を広めるために、東京天文台と財団法人生活改善同盟会によって制定されました。100年も、人々に意識され続けてきた6月を特徴づける記念日になっていると考えると、6月を巡る時のお話では外せない話になっています。

「時の記念日」は日本に限られたお話ですが。6月には、世界中の人々に地域ごとに影響は異なりますが、地上の季節の移り変わりと関係する時があります。それは夏至と呼ばれています。国語辞典で夏至を調べると、「太陽が夏至点を通過するときで、北半球では昼が最も長く、夜が最も短くなる。」と記されています。夏至点は太陽が運行する軌道が地球の赤道を宇宙へ広げた平面から最も北へ離れた点を指していますが、興味をお持ちの方は、ご自分で調べてみてください。いずれにしても、夏至は太陽の周りを一年で回る地球で、太陽から降り注ぐ光の量で変わる季節の節目となる時に当たっています。ですから、地上では6月21日、あるいはその前後の日のいずれかには夏至となり、夏至となった日を夏至の日としています。そして、今年の夏至の日は6月21日(日曜日)です。

夏至の日は、6月に巡りくる日として毎年恒例ですが、今年の夏至の日は、今年ならではの特別な時も迎えます。最後に、そんな時のお話を述べて今月のコラムを締めくくります。

今は新月、地上から見える月は太陽の影に覆われています。皆さんは新月の時、太陽と地球をむすぶ直線上に月が位置すると、地上に月の影が届き日食となることをご存じですか? 日食は地上で昼間の太陽に重なった新月の姿と言ってもよいかもしれません。そんな宇宙のドラマが、今年の夏至の日には、地球で見られる場所があるのです。

今年の夏至の日に起こる日食は、新月が太陽を完全には隠さず、最大でも金環日食です。皆既日食で出現するコロナは見えません。今はそれが良かったようにも思えます。この金環日食をつくる月の影は、エチオピア、パキスタン、インド、中国、そして台湾を通ります。

2019年1月6日の様子
(写真:2019年1月6日の様子)

 

日本では残念ですが、晴れていても夕方の空で部分日食を見ることしかできません。日本で見える部分日食の詳細は多摩六都科学館の天文チームが素敵なご案内を用意するでしょう。

(参考)2020年6月の星空案内

今は6月。今も先行きの見えない今に直面する機会は少なくありません。皆さんが、緊急事態後の新しい生活の中で、これから確実に巡りくる時に触れてみました。その時に、皆さんが素敵な今を体験されることを願っています。




高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)