髙柳雄一館長のコラム

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夜空にみる寿老人・福禄寿

あけましておめでとうございます。皆さまはお正月を如何お過ごしですか?
文化も習慣も異なる地球に住む多くの人々が、お正月だけは、誰もが未来への様々な思いを新たにしていると想像すると不思議な気もします。誰にとってもお正月は無事に歳を重ねた喜びと新しい出発の可能性を確認できる大切な機会となっています。人間にとって、お正月は、幾つになっても記念し、お祝いすべき人生の節目になっているに違いありません。

歳を重ね、未来に思いを馳せる機会となるお正月。季節の行事にはない独特の風習も含まれています。日本では初詣がその一つでしょう。新しい年の幸せを願い、その願いが少しでも実現するよう家内安全などの護符を求め、一年を占うおみくじを引く風習はお正月独特です。初詣に七福神を巡って幸せを願う試みもお正月らしい日本人の営みと言えますね。
これから迎える未来に色々な福を期待する人間にとって、福の神さまにも色々なタイプがあるのは頷けます。
中には天空の星が地上に姿を現したと言われる神さまもいます。七福神の中の寿老人と福禄寿です。

星空に昇るとこの神々が同じ星に辿りつくのも愉快です。この神々は中国の道教の神、南極老人から派生したと言われていますが、その南極老人は夜空に輝く南極老人星を神格化した呼び名です。星に南極という名前がついているのも不思議ですね。冬の夜空に観察されたこの星、中国では南の地平線すれすれにしか見えないこの星の出現状態から付けられた名前です。
星座でお話すると、南極老人星は「りゅうこつ座」の一等星「カノープス」です。一等星ですから、明るく見つけやすく、地球の南半球では容易に観察できますが、北半球の日本では東北地方南部より南の地域でしか見ることができません。東京でも南の地平線が開けた夜空で地平からは2度ばかり、京都でも3度ほどと言う高さにしか上がりません。また、この星の出現が、お正月を境にして見やすくなることも特徴です。

「除夜の鐘が鳴り終わる時に南の地平に姿を現す一等星がある。・・日本では地平線すれすれにしか上がらず、よほど条件のそろった時でなければ見えないので、古来「南極老人星」とよばれ、この星を見たら長生きをするなどと珍重されてきた。」(石田五郎著「星の歳時記」)と書かれたようにお正月を過ぎると、出現は夜半過ぎから夜半前に移行し、2月上旬ですと夜の10時から9時頃へと移ります。
南極老人星は地平すれすれにしか出現しませんが、見ると長い生きをすると言われれば、誰でも一目見たいものですね。皆さんも、今年の冬は南の地平線が開けた場所で、南極老人星を探してみては如何ですか。参考までに多摩六都科学館の屋上で撮影した南極老人星、夜空の寿老人、福禄寿をお見せしましょう。
この今年も良い年となりますよう多摩六都科学館関係者一同全員で祈念しております。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)