八月下旬になっても厳しい夏の暑さが一向に衰えず、ようやく日差しの弱まる夕方に戸外を歩くとき、涼しい秋風の訪れを期待し、「九月になれば」と願う気持ちも高まります。
道端で夏の暑さに耐えながら緑陰を保ってきた樹々の間に、紅一点といった風情で咲く百日紅(サルスベリ)の赤い花を見ても、昨年までは残暑の名残を感じて秋の始まりに思いを馳せていました。しかし今年は、テレビの気象情報で熱中症警戒レベルを示す赤紫色(最高気温の予想分布)を思い出し、猛暑の記憶が鮮明に蘇ってきます。
赤い百日紅の花に感じる季節の移り変わりも、地球温暖化による夏と秋の気温差の変化に影響を受けていることにも気づかされ、秋の訪れへの期待はそれだけ大きくなっています。
毎年九月を迎えると、朝夕の日差しが弱まり、昼の時間が短くなって夜の時間が長くなっていきます。秋分を過ぎると、夜が昼間より長い日々が続きます。九月は旧暦で「夜長の月」を意味する「長月」と呼ばれましたが、新暦でも秋分を含む九月を迎えると、いよいよ秋の深まりを感じます。
近年の夏の気温上昇は、産業革命前に比べ、人間活動によって地球大気中の二酸化炭素が1.5倍にまで増えたことによる温室効果が原因だとされています。それだけに、大気中への二酸化炭素排出削減の実施は、地球文明の持続にとって大きな課題となっています。現時点では、猛暑の夏をエアコンの利いた環境でどうにかしのぎ、それに続く秋の気配をもたらす日差しの変化に期待し、九月の到来を願うばかりかもしれません。
地表が受ける太陽光による日差しの変化は、太陽をめぐる地球の運動である自転と公転が原因となっています。地球の公転は太陽を一つの焦点とした楕円軌道で説明されますが、軌道が楕円のため、地球と太陽の距離は季節によって異なります。ただ、地表における季節ごとの日差しの変化には、地球の自転軸が公転軌道に対して傾いていることの影響のほうが大きく作用しています。地球の運動による日差しの変化が、日本などの地表にもたらす季節変化に興味をお持ちの方は、ぜひご自身で調べてみてください。いずれにしても、日差しの変化は地球大気を離れた空高い宇宙にその原因があることも、忘れてはならない面白さです。
日差しの弱まった夕方の晴れた空を見上げて、高層に浮かぶ雲の群れを見ると、そこに「小さな秋」を見つけたように感じられ、素敵な秋が宇宙からの贈り物であることにも深く頷けます。
九月に入ると、空の雲だけでなく虫の声など、身近な生活環境でも小さな秋を感じる機会が増えてきます。九月という季節は自然環境の変化以外でも実感できます。子どもたちの長い夏休みが終わって新学期が始まるほか、転勤や職場の異動など、社会活動においても大きな変化がある時期です。諸外国では入学や新学年の始まりを九月に定めている国も多く、九月は人間の社会活動においても大切な一つの節目の季節となっています。
猛暑の夏を乗り切った皆さんにとって、今年の秋も実り多い季節となり、素敵な秋の深まりを楽しむ機会が数多く訪れることを願って、今回のコラムを締めくくりたいと思います。
髙柳雄一(たかやなぎ ゆういち)1939 年4月、富山県生まれ。
1964年、東京大学理学部物理学科卒業。
1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。
1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを歴任し1994年からNHK解説委員。高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)。












