髙柳雄一館長のコラム

クイズから学べること

 桜並木も花の季節が終わり、青葉を広げた木々の枝々が覆う並木道は緑のトンネルのように見える季節になりました。花見を楽しんだ遊歩道の両側にはツツジやサツキの赤い花が点々と咲き乱れ、梅雨を前にして紫陽花の葉が群れをなして開花に備えています。新年度になって新しい環境に出会い緊張した生活を送られた方々も、春の大型連休で春から夏に移りゆく自然に触れてリフレシュされ、心をほぐされた方もいらっしゃるのではないでしょうか? 大型連休も終わり、子どもたちも含めて日常の行事に戻る季節の到来です。

 この連休、私は毎年、夏休みに回答者をしているNHKラジオの「子ども科学電話相談」で、昨年放送された内容を活字にして抜粋後まとめた本が出版されることになり、本のあとがきを頼まれました。その本は、子どもたちから放送中に電話で受けた質問とスタジオにいる回答者の説明を編集したものです。今年の本では、どの質問にも答える内容に合わせて、読者のみなさんにクイズを答えてもらうスタイルを取っていました。これらのクイズは、質問の回答を読み進める上で基本となる知識に関係した簡単なものです。正しい答えを発見した人は自信を持って後に続く説明を読めるでしょう。また、間違った答えをした人は、続く回答をより丁寧に注意深く読むことになると思います。いずれにしても、クイズを通して続けて説明される答えが読者のみなさんにより印象的になるように編集してありました。

 私たちは何かを決めるとき、何時もそれについて知っていることを思い出し、判断に利用しています。多くの場合、短時間で判断が必要な状況に出会うことがほとんどです。そんな時は思いついた知識だけを利用せざるを得ません。役立つ知識をあまり持っていない時や、始めて体験する事柄など、判断に使える知識がない時、なかなか自信を持っては決められません。時には判断を間違えて後悔したこともあります。絶えず行動して生活している私たちは、考えてみると、どんな行動をする時も、その状況で可能な行動の中から、自分がしたいことを探す時、自分が知っている知識を使って判断しています。こう考えると、日常生活では、短時間で限られた知識から正しい知識を拾い出して判断するそんな営みは誰もが絶えず無意識にしていることにも気づかされます。

 限られた情報から選択して回答を見つけて行動することは普段は意識しないようですが、考えてみると選択肢から回答を見つけ出すクイズでは、逆にそれを意識して行っています。
みなさんもこれまでに様々なクイズに出会われたことでしょう。三択の簡単なクイズは気楽に挑戦できますね。正解が必ずあるということは正解率も高く、それだけ自信をもって参加できます。正解にたどり着けなくとも失望することはありません。簡単に思えたことが何故、間違ったのだろうと、自分が持っていたこれに関係した知識のあいまいさに気づく良い機会にもなるはずです。正解をした人も、良かっただけでで終われば、後には何も残りません。どうして正解できたのか、自信を持ってさらに正しかった知識を詳しく掘り下げて行く機会にすれば、このクイズで手に入れたものが確実に後に残ります。
みなさんも今後どこかでクイズに出会い、それに参加する際、クイズは人間の営みの基本にも通じる行為であると考えてそれを楽しみながら有効に活用して頂きたいと思います。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)