髙柳雄一館長のコラム

いくつで一回り?

 木枯らしが話題になり、秋も深まりました。冬支度の季節がやってきたことに気付かされます。それを確認させるように、多摩六都科学館への行き帰りに乗る電車やバスの車窓から見える木々の葉っぱにも紅葉模様が混じりはじめました。季節の移り変わりを感じさせるのは、木々や植物ばかりではありません。つるべ落としと言われる秋の夕日の沈み方も、長い夜の訪れを予感させ、いよいよ冬の到来かと言う思いを強くさせます。

 秋も終わりに近づくと、季節の移り変わりを他の季節よりも強く意識するのは、年の移り変わりと結びついていることにもあるのでしょうか。11月になると、カレンダーも今年が残り少なくなってきたことを強調しているようにも感じます。こんなことを考えていると、私たちの世界はいくつもの巡る時間に包まれているように思えます。季節も月も、そして年まで視点を変えると、巡りながら流れる時の歩みを発見した人間が意識して生み出した表現かもしれません。

 巡る時の中で私も年を重ね、今年は何人もの知人や友人が亡くなりました。何人かの方の偲ぶ会にも参加しました。そんな中、ある高名な彫刻家の偲ぶ会では、その方が午年生まれの方だったことも知りました。今年は午年でしたから、今年誕生した子どもたちとの年回りにも気づかされ、人間が過ごすこの世で巡る時の歩みに思いを馳せたこともあります。

 以前、夏休みのラジオ子ども科学相談の時間で、子どもから「10はどうして3では割り切れないのですか?」と言う質問に答えた際、人間は生きる上で便利な数の数え方をいくつも使っているという話をしました。例えば時間や角度などは3で割れる12進法を使っています。そんな経験を思いだしましたが、巡る時間の表現である月、季節、年、さらには干支などを考えると人間はさらに便利ないくつもの数の数え方を利用していることに気づかされます。 「いくつで一回りになるか?」と問いかけると、生活の中で、人間が利用している便利な数の数え方はさらにいくつもあることを発見します。週の曜日や、野球の打順、さらには一定の数ではない月の日数までも一回りで巡る数の数え方の例になるかもしれません。時の巡りが意識される秋の夜長に、皆さんもそんな事例を探してみませんか。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)