髙柳雄一館長のコラム

月見る月の月のお話~その2、表と裏の違いが語るもの~

中秋の名月、皆既月食、この秋は月の話題が重なりました。寒さもそれほど気にはならない秋の夜、暮れるのも早く、晴れていれば月を眺めて楽しむ機会を与えてくれます。今回も、現代の科学が宇宙から発見した月の話題をいくつか紹介しましょう。

前回のコラムでお話ししたように、月の表面は表と裏で地形が大きく異なっています。そればかりではありません。月面を覆う岩石の厚さも、表側に比べ裏側の方が分厚いなど、月の表と裏の違いは際だっていることが宇宙からの観測で発見されています。こんなに月の裏と表での違いが生まれたのは何故でしょうか?
月の裏表が出来たのは、月が誕生した後、地球の重力の影響を受け月の自転の周期が、地球を回る公転の周期にどんどん近づいていき、ついにはほとんど同じになったからです。月と地球が重力で結ばれている以上、これは明白ですが、地球の影響は重力だけでは無いと言う見方もあります。

月の歴史は地球の歴史と深く関わっています。現在、月の起源として、多くの科学者が認めているのは、地球が誕生しつつあったとき、火星ほどの大きな天体が衝突して、宇宙に放出された岩石質の物質が集まって月になったというシナリオです。衝突された地球も大きな衝撃を受けたに違いありません。地球も巨大な衝突を経て誕生したと言えるのです。
宇宙に放出された物質は集まり月となり、やがて重力の影響で地球を常に向く面が表、それに対して裏側が誕生します。このとき地球の表面がまだ熱い溶岩の海で覆われていると冷たい宇宙に晒された裏側に比べて月の表側は温度が高い状態に保たれます。このため現在の月の高地を生み出している斜長岩の層が裏側の方が分厚く成長していったと考えるのです。この見方では月の裏表の違いは地球の熱の影響で生まれたと言うのです。

月の表側の月の海の地形については、最近月内部の重力分布を観測したNASAの月探査衛星の結果が出されて話題になっています。それによると兎の形を生み出したのは月面が冷えて岩石の層が収縮して大陥没した場所に内部から黒色の玄武岩質の溶岩が溜り、そこへいくつもの衝突でクレータが重なって出来たと説明されています。
グレイル月探査衛星が捉えた月面(青が低地、赤が高地に対応):NASA提供
グレイル月探査衛星
見慣れた月の写真と比べてみてください。月にはまだまだ謎がいっぱいあり、科学者は様々な工夫をして月探査を進めていることがお分かりになったと思います。秋の夜長の月見る月も、時代によって見え方がどんどん変わって行くのに気づくのも愉快ですね。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)