髙柳雄一館長のコラム

陽ざしに見る多彩な秋を楽しもう

秋分の日、私たち多摩六都科学館のスタッフ数人は天高く晴れた秋の空で、真昼に近い太陽のまわりにできた光の輪を見ることができました。太陽に薄い雲がかかった際、その周囲に現れる光の輪は日暈(ひがさ、にちうん)と呼ばれ、虹のようにも見えることから白虹(はっこう、しろにじ)とも言われています。この日は空高く浮かぶ「すじ雲」に、光の輪で生まれた虹にも見える部分を確認することができました。「彩雲が見える!」の掛け声に誘われて科学館の外へ飛び出して眺めた私にとっては、この秋の思い出の一つとなりました。



天文スタッフが捉えた素晴らしい画像をご覧ください。この画像でも分かるように、虹のように色彩を帯びた雲を、「彩雲」と呼ぶこともあります。高い空に浮かぶ「すじ雲」や「うす雲」は、太陽の光をたくさん跳ね返すので、日中は白く見えますが、氷の粒でできている高い空の雲は、太陽の位置によって、入射する太陽の光を氷の粒で屈折させ、さまざまな光の色が目立つ現象を引き起こします。私たちが秋分の日に眺めた光の輪が彩った「すじ雲」も、秋の陽ざしが秋晴れの高い空に浮かぶ雲で生み出した作品でした。

秋の陽ざしの贈り物と言えば、秋になって弱まってきた日光に対応して植物たちが見せる紅葉も見逃せません。作詞家サトウハチローさんが、東京文京区の自宅の庭にあったハゼノキが、秋が深まって紅葉で赤く染まった光景を眺め、有名な童謡の一つ『ちいさい秋みつけた』を作詞したことを思い出します。紅葉の色など、季節の変化に富む日本に住む私たちは、季節を特徴づける色を互いに共有して、四季の移ろいを生活の中で楽しんできました。

季節を特徴づける色には、古代中国の陰陽五行説から生まれた季節の色も良く知られています。青春、朱夏、白秋、玄冬などの言葉を皆さんも聞いたことがあるでしょう。
秋を示す白秋は有名な童謡『この道』の作詞家である北原白秋さんの名前にも使われています。他にも陰陽五行説から生まれた言葉では、万物を構成する五行(木、火、土、金、水)に基づいた世界観で秋は金に該当し、秋の風を金風と呼ぶ表現も知られています。

歌人の与謝野晶子さんが、秋の夕日がさす岡で、はらはらと銀杏の葉が散っている光景を見て、「金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に」と詠んだ短歌があります。この銀杏の葉がちる夕日の岡にも、秋の風として金風が吹いていたと想像すると、夕日の中で映える金色の小さい鳥は金風が描いた光景にも思えるから不思議です。

この10月、陽ざしが見せる夜空の天体も見逃せません。私たちが夜空に見る満月も赤い惑星と言われる火星も、太陽の光、陽ざしに照らされた姿であることには変わりません。
陽ざしで見る10月最初の天体は、1日の夜に出会う「中秋の名月」です。この日が旧暦の8月15日に当たっているからです。面白いことに、この日は満月ではありません。10月最初の満月は翌日の2日です。「中秋の名月」が満月にならない理由は、ご自分で調べてみてください。それよりも、ここで10月最初の満月が2日と知り、「あれ?」と思った方もいらっしゃるでしょう。10月、夜空が晴れていれば、私たちは10月2日と31日に満月を二度も眺めることができます。今年の秋の陽ざしの素敵な贈り物かも知れません。

秋の陽ざしが夜空で提供する今月ならではの光景は、赤い惑星として有名な火星が10月6日に地球に最接近、木星よりも明るく夜空で見えることです。その詳しいお話を知りたい方は、是非ともプラネタリウム生解説「火星~赤い惑星~」をご覧になってください。

これまで陽ざしに見る秋の多彩な世界について書いてみました。虹の色からも知られるように太陽の光には様々な色の光が含まれています。陽ざしが生み出す世界が多彩であるのは当然かもしれません。私にはまだ見たこともない光景もたくさんあります。

10月31日には今月二度目の満月を迎えますが、この月に二度目の出現する満月を英語で「ブルームーン」と呼んでいます。月の満ち欠けは平均約29.5日で繰り返され、月に1回は満月を迎えます。ところが、満月の周期(平均29.5日)と1ヶ月の日数(28日、30日、31日、時には29日)の重なり方によって、同じ月に二度目の満月が現れることもあります。「ブルームーン」は「青く見える月」ですが、見えるチャンスが滅多にない、ごく稀な現象と考えられ、同じ月に二度目に見える満月の表現にも利用されたように思われます。

これまで私は同じ月に現れる満月を何度も見たことがあります。しかし、「青く見える月」にはまだ出会ったことがありません。今回の「ブルームーン」は、果たしてどんな色で夜空に見えるのか、そんなことも期待しながら陽ざしが描く多彩な秋を楽しみたいと思います。

 

 


高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)