髙柳雄一館長のコラム

「たまろく駅」は科学の旅の始発駅

2018.07.26 11:26:07
テーマ:館長コラム 

 夏休みが始まりました。子どもたちには待ちに待った季節の到来です。一年で最も長いお休みが取れる夏休み。日ごろ行けない場所へ旅することが出来る季節です。多くの皆さんは夏休みならではの素敵な旅に思いを馳せていらっしゃることでしょう。

 夏休みは、私たちにとっても一年で最も多くの方々が来館される大切な季節です。今年は、夏休みの旅先としても多摩六都科学館を入れて頂こうと、館内に夏休み期間限定の臨時駅を開設しました。「たまろく駅」です。今回は、鉄道の路線上には無いユニークな「たまろく駅」利用のご案内をいたしましょう。

 「たまろく駅」には、私たちが鉄道を利用する際、どんな駅にも必ずある列車の発着時刻表示や列車に乗り降りするプラットフォームは見当たりません。鉄道の路線上に無い駅ですから当然ですね。その代り、この駅には、普通の駅では見ることができない、私たちが日頃接している鉄道に関わる色々な世界を見たり触れたりできる展示が配置されています。

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▲会場のようす

 鉄道の発着駅では無い「たまろく駅」は、今年の夏の特別企画展である「鉄道展2018・たまろくステーション~駅からみえる まち・ひと・技術~」の会場そのものなのです。

 会場の臨時駅長からの「ごあいさつ」にも書きましたが、陸に住み、そこで活動する人類は陸上での活動範囲を広げ現在の文明を築き上げるために様々な道をつくり、それを発展させて来ました。その中でもレールのある道・鉄道は人類が鉄の利用を活かした文明の素晴らしい成果のひとつに違いありません。鉄道の利用が私たちの生活とどれほど深く関係しているかは、今回の西日本豪雨の災害で鉄道が不通になった地域で、被災地の復興に鉄道の復旧が急務となっていることからも良く分かります。

 私たちの生活にとってこんなに重要な鉄道の役割、それがどのように地域と人々を結びつけ、私たちの日常の活動を支えているか、そこで使われている技術、それを活かしている人々、そんな日ごろ気にしていない鉄道を支えている世界に触れて、皆さんの鉄道の見方も変わるかもしれません。そんな体験をこの夏は皆さんに楽しんでいただきたいのです。

 「たまろく駅」には発着時刻表は無いと書きました。開館から閉館まで皆さんにご自由に利用できます。発時刻が無いからどこにも行けない駅だと思う方もいらっしゃるかも知れません。でもここは科学館の中にある駅です。皆さんの興味で科学の色々な世界に触れられる場所がまわりにいくつもあります。この駅はそこへ出かける始発駅にすることもできます。「たまろく駅」は科学の旅の始発駅なのです。

 最後に「たまろく駅」始発経由で楽しむ、この夏の多摩六都科学館への旅で優れもののコースを紹介して終りにいたします。まず入館後、「たまろく駅」では毎日先着100名様には「来場記念きっぷ」を差し上げています。つぎは「たまろく駅」始発の科学の旅でも遠くを見たい人にはプラネタリウムの「星を見に行こう」がお勧めです。夏の素晴らしい思い出となる旅となるに違いありません。この旅でも皆さまにお会いできることを願っています。

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▲当館オリジナル来場記念きっぷ

 

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OLYMPUS DIGITAL CAMERA高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)

 

梅雨明けに思ったこと

2018.07.16 17:19:11
テーマ:館長コラム 

 梅雨明け後の各地では連日猛暑が続いています。テレビや新聞で、西日本豪雨による水害被災地で実施されている炎天下の復興活動の様子を見る度に、今年の梅雨前線が西日本にもたらした豪雨被害の稀に見る凄まじさを思い出し、亡くなられた多くの方々のご冥福と、今後の被災地での復興活動の推進を祈念しています。

 前回、個人的な梅雨の思い出を書きました。今年の梅雨は沖縄、さらに奄美に次いで、先月、関東地方でいち早く明けました。しかし7月になっても、梅雨前線の影響が九州、四国、中国、近畿、東海の地域には残りました。関東の梅雨明け後も、西日本で梅雨が続くという例年と異なる気象状況に不思議な気もしていました。そして大規模豪雨の後に訪れた西日本の梅雨明けは、猛暑日の炎天下に甚大な水害を受けた被災地を残したのです。

 西日本豪雨をもたらした梅雨前線の状況は、西日本が豪雨に見舞われるかなり前からテレビやラジオ、新聞などのマス・メディアで広く一般社会に伝えられてきました。日本全国の人々がテレビなどで、その成り行きを見ていたに違いありません。この史上稀にみる記録的豪雨は、気象庁によると梅雨前線の停滞と活発化、それに向かって暖かく湿った空気が多量に流れ込んだことが要因となったと言います。
詳しくみると、7月5日から8日頃の気象情報ではオホーツク海高気圧と太平洋高気圧に挟まれた形で西日本上空に梅雨前線が停滞していました。この停滞した梅雨前線が活発化したのは、台風7号から変わった温帯低気圧の影響と太平洋高気圧の勢力が強まり、南風に伴う暖かく湿った空気が流入し、同時に東シナ海付近の水蒸気を多く含んだ空気が南西風に乗って流れ込んだためだと言います。

 当時の気象情報でも指摘された積乱雲が線状に連なって豪雨をもたらす「線状降水帯」が発生した気象状況はこのように梅雨期特有の日本列島を取り巻く気圧配置に加えていくつもの要因が重なった結果、大量の雨を西日本に局地的にもたらしたことがわかります。
今回の豪雨、上空の気象状況の要因はまとめて説明されていますが、地上の水害による被害状況は地域ごとに大きく異なっています。堤防の決壊などで町の全域を占める家屋の一階部分が水没した被災地、大量の土石流の侵入により破壊された集落など、地上の被災状況は被災地ごとの山や川の配置など地形に大きく影響されていることが分かります。

 気象情報によって前もって予測された豪雨も、そこに住む人々にとって地域ごとに被害を避ける手段は大きく異なっていて、短時間で対応する避難対策の難しさが想像できます。上空ではある特異な気象状況の推移が、地上では地域ごとの地形に対応して異なる水害をもたらしているのです。地上に住む私たち人間には、上空の気象情報は共有できても、それが地表にもたらす災害を予測し、それに備えるには、自分たちが住む地域の地形など地域特有の情報が不可欠であることが分かります。

 西日本豪雨の甚大な被害を残した今年の梅雨明けは、地上に住む私たち人間にとって、足元を知ることの大切さとその困難さを改めて思い出させてくれた様な気もしています。

線状降水帯_s気象衛星ひまわりの画像(7月6日14:30)

 


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