髙柳雄一館長のコラム

ちいさい秋 みつけた

最高気温が25℃以上になる夏日が終息せず、秋らしい季節はいつ来るのだろうかと気になる10月中旬でしたが、下旬に入ると関東でも最低気温が12月並み、または11月中旬並みの朝を迎えています。二十四節気で霜降(そうこう)と呼ばれる23日には、寒気がもたらした富士山での初冠雪が話題になりました。気象台では、平年より21年遅い観測だったと発表しました。長い夏が終わるともう冬がやって来たのかとも思いたくなります。

暑さ寒さを事前に知り、服装で備えて生活している私たちにとって、新聞やテレビで知る気象情報では、日々の最高気温や最低気温は重要な情報です。季節の移り変わりを気象情報で確認する日々を過ごしてもいる私たちにとって、気象情報だけでみる限り、今年は長く暑い夏と冬に挟まれた短い秋の存在を意識する年にもなったように思います。

今年、私が秋の訪れを身近に感じた機会は、秋分の日の翌日、千葉県の柏にある東京大学宇宙線研究所へ出かけた際、キャンパス内の林間で彼岸花を目にしたときです。木陰の遊歩道に沿う路の片側に、曼殊沙華といわれる赤い彼岸花が列を作っているのを見つけ、子供の頃から彼岸花を見て秋を感じていた思い出が蘇りました。その後、我が家の近くで白い花びらの彼岸花が歩道に沿って咲く姿も発見し、そこでも秋の深まりに気づかされました。

季節の推移を地上に生み出しているのは、太陽から地上に届く日差しが季節によって変化するからです。秋の日差しの変化は、秋分を過ぎて昼間より夜が長くなり12月21日の冬至の日まで、夜をもたらす夕方の太陽が地平線に沈む時刻が日に日に早くなってゆくことに注目すれば体験できます。釣瓶落としと表現されてきた秋の夕方の太陽です。


季節を生み出す日差しが秋の植物たちにもたらす変化の一つに、人間にとって秋を楽しむ上でも忘れられない現象に樹々の葉の紅葉があります。気象情報で秋の到来を求めていた10月中旬、我が家の庭先でも、秋の到来を証拠付ける紅葉の姿を目にすることができました。玄関先の花壇に植えてある赤く紅葉したコキアの存在に気づいたからです。我が家にも秋が訪れていると知り、裏庭でも秋の気配を探すと金木犀の黄色い花も発見し、この日は「ちいさい秋 みつけた」と、家族で大喜びをしました。

「ちいさい秋 みつけた」は、ご承知のように詩人のサトウハチローさんの童謡に使われた言葉です。私は、大学生のとき文京区の根津神社近くに下宿していました。氏が住んでいた家が通学路に近く、そのせいか、秋になって根津神社の境内にある樹々の紅葉に気づくと、この歌を思い出していました。以来、秋の紅葉に接すると必ず思い出している言葉になっています。今年も我が家の紅葉に気づき、真っ先に思い出した言葉は「ちいさい秋 みつけた」でした。

 


地球温暖化のせいでしょうか? 近年の短い秋の登場で、日常生活で「ちいさい秋」を楽しむ機会も減ってきたかもしれません。秋から冬へと移る、二十四節気で霜降から立冬を経て小雪までの日々を含む、霜月ともよばれている11月を迎えました。「ちいさい秋」をみつけて、短い秋を楽しめればと願っています。

 


1939 年4月、富山県生まれ。
1964年、東京大学理学部物理学科卒業。
1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。
1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを歴任し1994年からNHK解説委員。高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)。