年末になると、年内に残された日々にも気づかされ、予定した事柄がどれだけ果たせるかなど不安になることもあり、時の流れを意識する機会が多くなりました。そして、年始に繋がる年末は、過去にも未来にも繋がる時の流れに幅広く思いを馳せる機会をもたらすことにも気づかされると、太陽の運行に基づいたカレンダーで生活する世界中の人々にとって、年末から年始に至る12月がもたらす時の効果にも興味が湧きます。

▲吉祥寺駅前イルミネーションの風景。このコラムでもお馴染みとなりました。
今回は地球に住む人類の未来にまで思いを馳せた宇宙の話題を取り上げてみます。来年のことを言えば鬼が笑うと言うことわざがありますが、来年よりも未来の事柄にまで触れたいのは、この話題が地球文明の持続とも係る人類全体の課題でもあるからです。
皆さんは、NEOと言う言葉をご存知ですか?NEOはギリシャ語の「新しい」を意味する接頭語でNEOを頭に付けた言葉も色々ありますが、これから紹介するNEOは、英語でNear-Earth Objectと記された天体で、地球に接近し、時には衝突する可能性も無視できない天体を示しています。ウィキペデイアでNEOを調べると日本語で地球近傍天体とも表記されています。ここでは、地球に衝突する可能性もある天体として話を進めます。
地球の歴史をみると、地球形成時の月の誕生や、中生代末の恐竜を含む生物大絶滅は、地球に衝突した天体が生み出しています。記録に残る最近の天体衝突では2013年2月15日、ロシアのチェリャビンスクに落下した大きさ約17mの隕石が南北180㎞東西80㎞に及ぶ建物被害と約1500人の負傷者をもたらしています。天体衝突が地球にもたらす大きな自然災害を防ぐ対策をとることは地球文明の持続にとって不可欠な課題になっています。
天体の地球衝突から人類を守ろうとする活動は、一般にプラネタリーディフェンスと呼ばれています。英語で、planetary defenseですが、この活動で天体衝突を事前に知り、避ける対策をとるにはNEO観測で衝突可能のある天体を早期に発見する必要があることは言うまでもありません。最近のNEO観測の事例を紹介し、国際的に取り組まれているプラネタリーディフェンスの一端にも触れてみたいと思います。
今年の1月29日、国際小惑星警報ネットワーク(IAWN)は、小惑星「2024YR4」が2032年12月22日に地球に衝突する確率が1.3%と発表しました。小惑星の標識につけられた2024から分かるように、この小惑星は2024年12月27日に、アメリカ航空宇宙局(NASA)でNEO探査を実施している小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)を担う南半球チリにある望遠鏡で発見されました。地球衝突確率が1%を超えていることで、その後の観測から詳細な衝突リスクと被害の影響についての評価もされています。興味をお持ちの方はWEBで調べてみてください。

▲ESO(欧州南天天文台)の超大型望遠鏡(VLT)が撮影した小惑星2024 YR4の画像 ©ESO/O. Hainaut
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の3月27日の観測から、この小惑星の直径は60m±7mと推定され、アメリカのジェット推進研究所内に設置された地球近傍天体研究センタ(CNEOS)の6月4日発表によると、2032年12月22日に地球に接近しますが、地球への潜在的な衝突リスクは排除されています。
地球への脅威はなくなったものの、この小惑星の軌道研究者から、2032年12月22日には月への衝突確率が最大4.3%あるという6月12日の報告もあります。その場合、月面に直径2㎞程度の衝突クレーターが形成され、その様子は地球上からも観測できるとみられると言う予測もあります。2032年、現在アルテミス計画などで月面を利用した有人宇宙開発計画が進行しています。地球文明の持続で宇宙開発が占める役割を考えると、プラネタリーディフェンスの重要性にも気づかされます。
今回は、地球への天体衝突の危険性について監視を実施している組織の活動の一端を紹介しました。NEO天体の衝突確率と衝突後の被害状況を、強度に応じて0から10まで11段階で示した専門家たちの「トリノスケール」では、現在、発見されているNEOでは、「地球衝突の可能性は0と言っていいほど低い。もしくは大気中で燃え尽きるか、たとえ隕石として落下したとしてもほとんど被害が出ないほど小さい天体である。」とされる「危険なし」の0段階しか報告されていません。興味をお持ちの方はお調べください。
年末に当たり、鬼も笑う??7年後の話題を取り上げてみました。素敵な年末年始をお迎えください。

全編生解説プラネタリウム「地球防衛最前線!」が1月10日(土)から始まります。どうぞご覧ください。
髙柳雄一(たかやなぎ ゆういち)1939 年4月、富山県生まれ。
1964年、東京大学理学部物理学科卒業。
1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。
1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを歴任し1994年からNHK解説委員。高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)。











