髙柳雄一館長のコラム

「アジサイ」にみる「墨田の花火」

北半球で下旬には夏至を迎える6月、日本では北海道を除いて梅雨の季節に入る月です。

6月は、真夏の前に梅雨と呼ばれる雨季の季節を必ず迎える日本独特の風土を意識してそれを楽しむ季節かもしれません。月はじめには、雨の季節の到来を待ちかねたように、戸外のあちこちで「アジサイ」の花が目につきはじめました。よく見ると「アジサイ」の花は色と言い、花びらの集まり方などが大きく異なる様々な姿をしていることに気づかされます。

 

先日、ご近所の方から頂いた「アジサイ」は、葉の形が柏に似ていることから「カシワバアジサイ」と呼ばれる、花びらが円錐状に群がった形状をした「アジサイ」でした。初めて目にした「アジサイ」でしたので、他の人にもお見せしたく玄関の花瓶にしばらく生けて、来客の方がそれに気づくと話題にして会話を楽しみました。

 

我が家の庭には、花びらの形と広がり方の特徴から「墨田の花火」と名付けられた「アジサイ」が咲き始めています。これまで、花びらと言ってきましたが、「アジサイ」の場合、本来の花は小さな粒状で中心に集まっていて、周りに広がる花びらの部分は、中心の花を支えるガクに当たっています。本来の小さな花を周りで飾るこのガクを装飾花と言っています。ですから「墨田の花火」は「ガクアジサイ」と呼ばれる仲間なのです。



私が初めて「墨田の花火」に出会ったのは、やはりご近所の方から生け花用に頂いた3年前の6月でした。夜空に大玉の花火が光の花を咲かせた姿を連想させる、この「アジサイ」の装飾花が散らばった配置は、「アジサイ」の名前を聞いたときに、素敵な名前と姿がぴったり一致してとても印象深く感じました。早速、我が家の庭に移植し今に至っています。

 

「墨田の花火」と言う表現ですが、この「アジサイ」を見て花の開き方が夜空の花火に似ている事は容易に気がつくと思います。この表現で素晴らしいのは花火に掛かる「墨田の」と言う形容詞だと思います。私自身は残念ながら、これまで隅田川で開催される花火大会に行ったことはありません。しかし、テレビなどでその様子は何度も目にしています。そして、花火そのものは、色々な機会に素晴らしい場面を何度も見たことがあります。それだけに「墨田の花火」と聞くと、「アジサイ」を見てその光景まで想像できる気もいたします。



夏の季語である「アジサイ」に夏の夜空の行事を代表する墨田川の花火大会はぴったり合っています。季節的には真夏の前の梅雨の「アジサイ」を見る頃は、隅田川の花火大会はまだ想像だけの存在です。この時間のずれの効果も、私には「アジサイ」に、やがてくる夏の隅田川の花火を期待してみることもできる「墨田の花火」が「アジサイ」を見る人にさらなる楽しみを与ええてくれるような気もしています。

始めにも触れましたが多様な花を見せる「アジサイ」には、印象的な名前を付けられた「アジサイ」がいくつもあります。興味をお持ちの方は調べてみてください。そんな名前には「夏の雪」、「モナリザ」、「紫式部」など花の色を強調したユニークな名前も登場しています。

そんな中で「墨田の花火」は花の名前に夏の風物誌からとったユニークさが目立ちます。皆さんも、6月は、色々な「アジサイ」をみて、花の姿に潜む想像の世界を重ねて楽しむ機会として頂きたいと思います。





高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)

令和を迎えて知る時の役割

我が家の近くを通る神田川沿いの桜並木も、今ではすっかり葉桜となり、晴れた日には緑陰が連なる道となりました。道沿いで目立つ花はサクラからハナミズキに受け継がれ、所々で見かける白とピンクの花が散歩の楽しみを用意してくれています。春から夏へ、身近に体感する日本の季節の移ろいです。

時の流れを、身近に接する草花の変化で気づかされ、必要ならばカレンダーや、テレビ、新聞などで日付を確認して、時の経過を知る人間の営みでは、その時々で便利な時の経過を示す表現を利用しています。時刻を意識するときに使う、秒、分、時。日付を意識するときに使う日、月、年。日数を意識する生活設計では、何時も必ず7日でめぐる週と言う表現も曜日と共に不可欠な存在です。人間が使っている時の経過を示す多様な表現は、何れも時の流れに合わせて生活してきた人間の知恵が生み出した時の捉え方だと思います。

平成から令和へ年号が移行したゴールデン・ウィーク。今年は10連休にもなり、過ごし方に関しても大きな話題になりました。連休前の出来事には、平成最後という言葉も使われていたことが印象的でした。この表現を見習うと、今年のゴールデン・ウィークには、令和最初の思い出を既に手に入れた方々も大勢いらっしゃるに違いないと想像しています。



過ぎゆく時の流れの中で私たちが手に入れる思い出には、それが生まれた時間を特定できる固有の時があるに違いありません。その証拠に、私たちは思い出を引き出すとき、それが何時の体験だったかをまず確認することから始めます。そして、思い出を体験した時が明確になればなるほど、思い出の内容はそれだけ鮮明になるような気もします。思い出を楽しむ上で、思い出を生み出した時の役割の重要性に気づかされます。

思い出は全て過ぎ去った体験ですが、それを思い出す時と思い出す立場で、思い出に結びつく時の呼称も変わってきます。人生を振り返っての思い出では、小学生の時とか、高校生の時、人によっては還暦の時などと、個人的に決まる時の呼び名を使うこともあります。しかし、一般には、社会的な出来事と結びつく、他人とも共有できる時の表現を利用しています。年号も日本人として共有できる思い出を語り、意識するときには最適な表現になります。

前回のコラムでも触れましたが、この春、平成最後に皆さんと共有できた思い出は多摩六都科学館が開館25周年を迎えたことでした。平成6年に開館し、平成31年に開館25周年を迎えた多摩六都科学館は、平成と呼ばれた時代の未来への贈り物として意識することができるかもしれません。

この5月、ご来館いただく皆さんの、新たに歩み出した多摩六都科学館で生み出される令和の時代の思い出が、これまで以上に豊かな未来へと導くものとなることを願っています。

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高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)