髙柳雄一館長のコラム

言葉が紡ぐ人の和に触れた旅

2018.11.09 10:58:15
テーマ:館長コラム 

 泊りがけの長い旅が出来ない事情が数年以上も続き、ようやく今年の夏以降、遠出の旅が可能になりました。そんな機会を活かそうと、10月末、思い切って一週間、ニューヨークへ行ってきました。10年以上も経っての海外旅行だったからでしょうか、ニューヨークでは過去の滞在では気づかなかった発見もしました。

 ホテルの高層階に泊まった最初の朝、エレベータに乗ってロビーに行くときです。降りてきたエレベータを止めて乗り込むと、既に乗っていた人々から英語で「おはよう」の言葉が飛び交います。私も自然に英語で受けて、その仲間入りを果たすことが出来ました。自分が海外に居ると実感できる瞬間でした。ある場所に居る人々が場所を共にするとき自然に会話をすることは日本でもお馴染みでしょうが、海外ではこちらが母国語意外の言葉に敏感になっているためか、ちょっとした言葉のやり取りでも印象深く感じます。

 海外でタクシーに乗ったとき、何時も体験するのはタクシー・ドライバーに行き先を告げた後、必ず道中はお互いの会話が必要になります。たいていはドライバーの方から、何処から来たのか、何処に住んでいるのかなどと尋ねられ、こちらはそれに答えながら、相手の生まれた国や育った文化も知ろうと意識した話題を繰り広げることになります。

 昔、首都ワシントンの空港で乗ったパキスタン出身のタクシー・ドライバーとは街のホテルに着くまで、当時の国際情勢について見解を聞かれて困ったこともありました。無事、目的地に運んでほしいので、英会話の練習のつもりで一生懸命対応したことを思い出します。

 タクシー利用だけではありません。レストランなどで店員と接するときも、用件のみの会話以外に、お互いの接点を探し、親密さを互いに生み出す会話は不可欠です。支払う際のチップの額には見事にそれが反映されます。こんな体験を海外では何時も重ねてきました。

 今回も勿論そうした会話が必要でした。ただ、これまでは、それが海外からの旅行者だから必要なのだと感じていました。しかし、今回の旅では、ニューヨーク在住のアメリカ人、さらには40年以上もニューヨークに住む日本人と一緒に行動する機会があり、ニューヨーク在住の人々も同じように、タクシーではドライバーと冗談も入れた会話を試み、レストランやカフェでは、初対面の店員と互いに言葉を交わし、気持ちよいサービスを受ける環境づくりに励む場面に何度も接することが出来ました。

 ニューヨークに住む人々にとっても、タクシーやレストランなどで出会う、初対面の人どうしで親密さを育む会話が必要不可欠な振る舞いでもあることを知らされました。アメリカ合衆国の歴史をみると、この国は世界中の国々からの移住者やその子孫が住む世界であることが分かります。特にニューヨーク市ではそれがはっきりと見て取れます。ニューヨーク市の居住区で最大面積を持つクイーンズ地区では、居住者のうち半数はアメリカ国外出身者で、100種類以上の言語と国籍が混在していると言われています。そこを通るニューヨーク地下鉄7番線は「インターナショナル・トレイン」と呼ばれることを今回お会いしたクイーンズ在住の日本人の方からも伺いました。

 ニューヨークで泊まったホテルはニューヨーク市中心にあるグランド・セントラル駅の直ぐ近くでした。この駅は鉄道、地下鉄が集中した巨大な総合駅で、駅中央ホールの広い天井には、太陽が一年で巡る12星座が美しく描かれていることで有名です。その下を通り過ぎる大勢の人々を眺めると、同じ星空の下に住むとは言え、顔つきも姿も多様で、世界中の様々な国々から移り住んだ人々であり、それぞれが育った文化の違いまで想像できます。

 今回の旅行は、多様な民族が同じ場所で共に生活するとき、互いに存在を意識し、時には親密さを言葉で確認する会話の必要性と重要性を印象深く知る機会となりました。

Grand_Central_Terminal グランド・セントラル駅

OLYMPUS DIGITAL CAMERA12星座が描かれた天井

 

 

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OLYMPUS DIGITAL CAMERA高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)

 

読書の秋に思うこと

2018.10.08 09:25:05
テーマ:館長コラム 

 朝夕の冷え込みを感じる日々が続き、秋の訪れを意識して過ごす季節になりました。これからは冬にかけて昼間に比べて夜の時間が長くなっていきます。「秋の夜長」と言われていますが、この長くなった夜の時間に読書をする人々が昔から大勢いたのかも知れません。秋になると、子どもの頃から「読書の秋」という言葉を聞かされてきたことを思い出します。

 読書とは手元の辞書でみると「書物を読むこと」と記されています。書物とは一般には書籍とか本を指していますから、「読書の秋」は、素敵な本に出会い、時間をかけた読書の成果が期待できる楽しい季節だとも言えそうです。

 情報社会と呼ばれる現在、私達は朝から寝るまで様々な形の情報に接しています。テレビやラジオの画像や音声、新聞の活字、道や駅で出会うポスターや標識、私たちは情報の海の中をたどりながら、生きてゆく上で必要な情報だけを受け取り、ほとんどの情報は無視しています。そんな情報源の中でも、私たちが接する書籍や本は特別な存在です。

 本に記載された活字情報は読み手が、まず本を取り上げて表紙を開きページをめくり、先へ読み続けながら理解を進める考察をしなければ受け取りは完了しません。本に記載された情報の伝達は本と読み手の共同作業が不可欠になっています。活字という文字情報が紙のページに組み込まれた本と言う情報源の特徴的な様式の素晴らしさにも気付かされます。

その意味では、記録された文字による情報伝達の歴史で、活版印刷技術の出現が導いた書物の誕生が人類の文化の歴史を大きく変えたことが頷けます。

 先月、「世界を変えた書物」展が東京で開かれていました。コペルニクスの「天球の回転について」や、ニュートンの「自然哲学の数学的原理」、ダーウインの「種の起源」など科学の歴史で人類の自然観を大きく変えた書物の貴重な初版本の数々を拝見することが出来ました。この会場で一番印象に残ったのは、「知の連鎖」と名付けられた研究者の書庫に似せた書棚を組んだ一角でした。それを見た時、ロンドンにいた当時、ダーウインの生家を拝見した際に見た書庫の様子を思い出しました。書物が醸し出す空間には人類が集積した知識が書物という形で物質的存在を誇示しているように感じたことを思い出しました。

 書物は、それが紙という物質として存在するとき、手に取れる知識の存在を感じさせてくれるように思います。紙媒体の書物、本は現在、電子書籍への移行も進んでいますが、手にする書物が、紙の書籍である本から電子書籍になったとき、「秋の夜長」に人類が手にする書物はどんな感じになるのでしょうか。そんな未来の「読書の秋」を想像できるのも今年の秋の楽しさかもしれません。

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