髙柳雄一館長のコラム

読書の秋に思うこと

2018.10.08 09:25:05
テーマ:館長コラム 

 朝夕の冷え込みを感じる日々が続き、秋の訪れを意識して過ごす季節になりました。これからは冬にかけて昼間に比べて夜の時間が長くなっていきます。「秋の夜長」と言われていますが、この長くなった夜の時間に読書をする人々が昔から大勢いたのかも知れません。秋になると、子どもの頃から「読書の秋」という言葉を聞かされてきたことを思い出します。

 読書とは手元の辞書でみると「書物を読むこと」と記されています。書物とは一般には書籍とか本を指していますから、「読書の秋」は、素敵な本に出会い、時間をかけた読書の成果が期待できる楽しい季節だとも言えそうです。

 情報社会と呼ばれる現在、私達は朝から寝るまで様々な形の情報に接しています。テレビやラジオの画像や音声、新聞の活字、道や駅で出会うポスターや標識、私たちは情報の海の中をたどりながら、生きてゆく上で必要な情報だけを受け取り、ほとんどの情報は無視しています。そんな情報源の中でも、私たちが接する書籍や本は特別な存在です。

 本に記載された活字情報は読み手が、まず本を取り上げて表紙を開きページをめくり、先へ読み続けながら理解を進める考察をしなければ受け取りは完了しません。本に記載された情報の伝達は本と読み手の共同作業が不可欠になっています。活字という文字情報が紙のページに組み込まれた本と言う情報源の特徴的な様式の素晴らしさにも気付かされます。

その意味では、記録された文字による情報伝達の歴史で、活版印刷技術の出現が導いた書物の誕生が人類の文化の歴史を大きく変えたことが頷けます。

 先月、「世界を変えた書物」展が東京で開かれていました。コペルニクスの「天球の回転について」や、ニュートンの「自然哲学の数学的原理」、ダーウインの「種の起源」など科学の歴史で人類の自然観を大きく変えた書物の貴重な初版本の数々を拝見することが出来ました。この会場で一番印象に残ったのは、「知の連鎖」と名付けられた研究者の書庫に似せた書棚を組んだ一角でした。それを見た時、ロンドンにいた当時、ダーウインの生家を拝見した際に見た書庫の様子を思い出しました。書物が醸し出す空間には人類が集積した知識が書物という形で物質的存在を誇示しているように感じたことを思い出しました。

 書物は、それが紙という物質として存在するとき、手に取れる知識の存在を感じさせてくれるように思います。紙媒体の書物、本は現在、電子書籍への移行も進んでいますが、手にする書物が、紙の書籍である本から電子書籍になったとき、「秋の夜長」に人類が手にする書物はどんな感じになるのでしょうか。そんな未来の「読書の秋」を想像できるのも今年の秋の楽しさかもしれません。

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OLYMPUS DIGITAL CAMERA高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)



秋の夜空に見る火星

2018.09.02 19:59:26
テーマ:館長コラム 

9月になりました。夏休みが終わって、新学期が始まった子どもたちの通学風景をあちこちで目にするようになりました。今年の夏は全国的に猛暑の日が続き、地域によっては、その合間に豪雨に襲われ、時には迷走する台風により大きな被害を受けました。新聞やテレビで目にした災害現場の痛ましい場面を覚えていらっしゃる方も多いと思います。

まだまだ日差しを強く感じる昼間は避けて、仕事の合間に楽しむ散歩はまだ夜の涼しい時間に限っていますが、そんな時、夜空で意識して探すのは赤く輝く火星です。

今年、地球へ火星が6千万キロ以内に大接近して話題になったのは7月31日でした。それ以後は、火星は地球から離れて行っているのですが、まだまだ星空では目立った存在です。私も夜8時過ぎに南の空に輝く赤い星を探し、夜の散歩の際は意識して眺めています。次回の火星大接近は2033年ですから、ようやく秋の気配も感じられる、この9月の夜空で眺める火星は、今年の秋の素敵な体験の一つです。

 火星は太陽系の中で、太陽の周りを地球軌道の外側を一番近く回っている惑星です。地球軌道の内側一番近くを回っている惑星は金星ですが、地球軌道の両隣の火星と金星は地球に近いこともあり、望遠鏡が発明される以前から人類は肉眼で詳しく観測してきました。

火星の話題に限ってお話すると、地上から見える火星の姿が時によって明るく輝きを増して見えることは、火星を継続して観測した人々にとっては大きな謎でした。この謎が解明されたのは太陽系惑星の太陽を回る軌道が正確には楕円形をしていて、太陽が惑星の楕円軌道で楕円の一つの焦点に位置していることが分かったからです。この結果、火星と地球の距離は複雑に離れたり、接近したりしていることが分かります。

火星だけではなく、太陽系の惑星全てに当てはまるこの関係はドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーによって発見されました。望遠鏡が存在しなかった時代、夜空に見える火星の位置を20年もの長い期間、克明に観測したデンマークの天文学者ティコ・ブラーエの観測記録をもとに、太陽を中心とする惑星軌道の正確な法則をケプラーが導き出した科学の歴史は、自然界の観測や実験で、人類が科学の知識をどうのようにして生み出してきたのかを見事に伝えてくれます。興味を持たれたかたは是非調べてみてください。

 望遠鏡が発明され、火星表面の克明な観測が始まり、さらに20世紀後半、宇宙探査機が何機も火星に送られている現在、隣の惑星である火星について、人類は様々な知識を手に入れています。火星の表面は北半球が低地で南半球は高地になっていることや、過去には液体の水があり広大な北の海も想像できることなど、人類は火星に行く前に火星の地形や地質、火星誕生後の表面環境の移り変わりを詳しく論じ始めています。

 隣の赤い惑星火星を眺め、あそこにも昔、生命が誕生したのだろうか?とか、人類は何時になったら火星で生活ができるのだろうか?など・・思いは時間を超えてひろがります。

ことしの秋の夜長、名月と共に火星の存在も楽しみたいものです。

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OLYMPUS DIGITAL CAMERA高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)




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