髙柳雄一館長のコラム

年の瀬に思うこと

2018.12.06 11:18:50
テーマ:館長コラム 

 朝の通勤時、吉祥寺駅の北口広場に巨大なクリスマスツリーが作られたのを発見し、年末になったと感じました。最近では帰宅の際、このクリスマスツリーは、日没後の宵闇に包まれて見事な電飾の花を咲かせています。12月になると、年の終わりが近づくことを示す事物が身の回りにあふれ、日頃は意識しない時の流れに気付かされる機会が多くなりました。

クリスマス装飾

 意識しない時の流れと書きましたが、私たちは、毎日、時計を見ない日はないほど時の流れを意識しています。人に会ったり、乗り物に乗ったり、会合に参加したり、時間を気にしなければ、現代の日常生活は成り立たちません。その意味で私たちは絶えず時の流れを意識しています。しかし、年末が近づく、年の瀬に私たちが意識する時の流れは、やはり、どこか日常生活で意識する時の流れとは違う特徴もあるような気もします。

 年の瀬と書いて、気がついたことがあります。一般に瀬には、川の流れが浅く歩いて渡れる浅瀬と、川の流れが速い早瀬とがあります。時の流れを意識する年の瀬で使われる瀬は、浅瀬でしょうか?早瀬でしょうか? 私には速く時の流れを感じる年の瀬の「瀬」は早瀬に違いないと思っています。

 年末になると意識する時の流れの特徴ですが、多分、12月のカレンダーを見て、大晦日までに残された日数などを数え、年末に近づくにつれて急激に減少する残された時間に気づかされ、それが印象づける時の流れの速さもその一つだと思います。

 12月になるとこのコラム、毎年いつも時の流れについて書いていることを発見しました。どうして、年末は、こんなに時の流れを意識するのでしょうか? 確かに、私たちは時計を使って生活している以上、一年中、時の流れを意識していることには違いありません。しかし、年末になると、時の流れの意識がいつもよりも強調されるのも事実です。12月になり、年末の近づくに連れて、私たちの身の周りでは、時計以外にも時の流れを意識させるものが増えてくるからだと思われます。

 毎年のように12月のコラムは時の流れの意識の高まりを書こうと決めた時、何を書こうかと悩みました。これまで時の流れを意識した過去の思い出をいくつも辿りましたが、今回は「昼夜をおかず」という言葉を意識した思い出を紹介して終わりたいと思います。

 NHKスペシャル「銀河宇宙オデッセイ」シリーズで、チリにラス・カンパナス天文台の100インチ反射望遠鏡にテレビカメラを付けて南半球の夜空の星々を撮影したことがあります。研究者にとって大変重要な巨大望遠鏡でしたので、借用できたのは1989年12月24日のクリスマスの夜だけでした。幸いに晴天に恵まれて素晴らしい天体画像を撮影できました。その後、担当者全員でドームの外に出て、肉眼で夜空を明け方まで眺めて星座の動きが示す時の流れを堪能した体験は忘れられません。

ラスカンパナス天文台▲ラス・カンパナス天文台

 星座が夜空一杯に描く時の流れを眺めた時、思い出した中学生の時に学んだ論語の言葉があります。「逝くものは斯くの如きか、昼夜をおかず」です。孔子が一刻も休まず流れる川の水を見て、時の過ぎ行く世界を嘆いたと言われています。年の瀬に私たちが意識する時の流れのもう一つの特徴は、昼夜をおかず、途切れなく流れる時を意識することにあるのかもしれません。

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OLYMPUS DIGITAL CAMERA高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)



言葉が紡ぐ人の和に触れた旅

2018.11.09 10:58:15
テーマ:館長コラム 

 泊りがけの長い旅が出来ない事情が数年以上も続き、ようやく今年の夏以降、遠出の旅が可能になりました。そんな機会を活かそうと、10月末、思い切って一週間、ニューヨークへ行ってきました。10年以上も経っての海外旅行だったからでしょうか、ニューヨークでは過去の滞在では気づかなかった発見もしました。

 ホテルの高層階に泊まった最初の朝、エレベータに乗ってロビーに行くときです。降りてきたエレベータを止めて乗り込むと、既に乗っていた人々から英語で「おはよう」の言葉が飛び交います。私も自然に英語で受けて、その仲間入りを果たすことが出来ました。自分が海外に居ると実感できる瞬間でした。ある場所に居る人々が場所を共にするとき自然に会話をすることは日本でもお馴染みでしょうが、海外ではこちらが母国語意外の言葉に敏感になっているためか、ちょっとした言葉のやり取りでも印象深く感じます。

 海外でタクシーに乗ったとき、何時も体験するのはタクシー・ドライバーに行き先を告げた後、必ず道中はお互いの会話が必要になります。たいていはドライバーの方から、何処から来たのか、何処に住んでいるのかなどと尋ねられ、こちらはそれに答えながら、相手の生まれた国や育った文化も知ろうと意識した話題を繰り広げることになります。

 昔、首都ワシントンの空港で乗ったパキスタン出身のタクシー・ドライバーとは街のホテルに着くまで、当時の国際情勢について見解を聞かれて困ったこともありました。無事、目的地に運んでほしいので、英会話の練習のつもりで一生懸命対応したことを思い出します。

 タクシー利用だけではありません。レストランなどで店員と接するときも、用件のみの会話以外に、お互いの接点を探し、親密さを互いに生み出す会話は不可欠です。支払う際のチップの額には見事にそれが反映されます。こんな体験を海外では何時も重ねてきました。

 今回も勿論そうした会話が必要でした。ただ、これまでは、それが海外からの旅行者だから必要なのだと感じていました。しかし、今回の旅では、ニューヨーク在住のアメリカ人、さらには40年以上もニューヨークに住む日本人と一緒に行動する機会があり、ニューヨーク在住の人々も同じように、タクシーではドライバーと冗談も入れた会話を試み、レストランやカフェでは、初対面の店員と互いに言葉を交わし、気持ちよいサービスを受ける環境づくりに励む場面に何度も接することが出来ました。

 ニューヨークに住む人々にとっても、タクシーやレストランなどで出会う、初対面の人どうしで親密さを育む会話が必要不可欠な振る舞いでもあることを知らされました。アメリカ合衆国の歴史をみると、この国は世界中の国々からの移住者やその子孫が住む世界であることが分かります。特にニューヨーク市ではそれがはっきりと見て取れます。ニューヨーク市の居住区で最大面積を持つクイーンズ地区では、居住者のうち半数はアメリカ国外出身者で、100種類以上の言語と国籍が混在していると言われています。そこを通るニューヨーク地下鉄7番線は「インターナショナル・トレイン」と呼ばれることを今回お会いしたクイーンズ在住の日本人の方からも伺いました。

 ニューヨークで泊まったホテルはニューヨーク市中心にあるグランド・セントラル駅の直ぐ近くでした。この駅は鉄道、地下鉄が集中した巨大な総合駅で、駅中央ホールの広い天井には、太陽が一年で巡る12星座が美しく描かれていることで有名です。その下を通り過ぎる大勢の人々を眺めると、同じ星空の下に住むとは言え、顔つきも姿も多様で、世界中の様々な国々から移り住んだ人々であり、それぞれが育った文化の違いまで想像できます。

 今回の旅行は、多様な民族が同じ場所で共に生活するとき、互いに存在を意識し、時には親密さを言葉で確認する会話の必要性と重要性を印象深く知る機会となりました。

Grand_Central_Terminal グランド・セントラル駅

OLYMPUS DIGITAL CAMERA12星座が描かれた天井




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