プレスリリース

10m以上伸びるスライムのレシピが明らかに! 科学で迫るスライムのしくみ

超延伸性スライムの創成と物性を探る研究成果を発表

佐々木有美(多摩六都科学館(以下、当館) 理工グループ学芸員)、富永大輝博士(総合科学研究機構(以下、CROSS)中性子科学センター)、瀬戸秀紀名誉教授(高エネルギー加速器研究機構(以下、KEK)物質構造科学研究所)がスライムの触感を科学的にアプローチし数値化しました。この研究結果が「KEKレポート」として2025年7月7日に公開されました。

■研究のポイント

・スライムの触感に科学的にアプローチし数値化することに挑戦
・「やわらかさ」や「伸びやすさ」といった主観的な感覚を、「レオロジー(粘弾性の科学)」の言葉で表現
・ボンドやグリセリンの添加による物性変化を詳細に分析

■概要

日本で一般的な「手作りスライム」は洗濯糊(ポリビニルアルコール)にホウ砂を加えたもので、玩具や科学工作等に広く使われています。しかし、科学的には「スライム」という言葉に明確な定義はなく、物理的な性質も十分に解明されていません。

今回、多摩六都科学館とKEK、CROSSの研究者による共同チームは、「超延伸性スライム」の物性を定量的に明らかにする研究を行いました。「超延伸性スライム」はグアーガムやポリビニルアルコールをベースにしたスライムにホウ砂、グリセリン、木工用ボンド、糖類、微粒子などを加えて「のびやすく」したものです。スライムの構成要素や配合比が粘弾性や延伸性に与える影響を多角的に評価し、物性発現の要因を示しました。

■背景

当館ではKEKとの協力協定のもと、研究者による講演会や体験イベントを定期的に開催しています。2017年に実施した実験教室をきっかけに佐々木とソフトマター研究者の瀬戸秀紀博士が出会い、「スライムの科学的な性質」についての疑問を相談したことから本研究が始まりました。その後、ハイドロゲルを専門とする富永大輝博士とも連携し共同研究がスタートしました。KEKは佐々木を研究支援員として受け入れ、CROSSとともに研究環境を提供し、粘弾性などの物性測定を行いました。

スライムは、ぷにぷに・のびのび・どろどろといった独特の触感を持ち、子どもから大人まで幅広く親しまれています。しかし、科学的には「スライム」という言葉に明確な定義はなく、物理的な性質も十分に解明されていません。 特に「やわらかさとは何か?」という問いは、実は非常に奥深いものです。

たとえば水は、そっと触れればやわらかく感じますが、高いところから飛び込めば地面のようにかたく感じることもあります。スライムも同様に、触り方や力の加え方によって「やわらかさ」が変化します。こうした性質は「粘弾性」と呼ばれ、液体のように流れる粘性と、固体のように形を保つ弾性の両方を併せ持つ物質に見られます。

「超延伸性スライムの創成と物性」 13 ページより(Figure 2. スライムの様々なふるまい (a) 流れ落ちる、(b) 両側から伸ばす、 (c) ひろげる、(d) 握る、(e) 瞬間的に力を入れ切断、 (f) 垂らし、糸の様に流れ落ちる)

■成果

本研究では、スライムの「やわらかさ」や「のびやすさ」を科学的に定義し、数値化することを目指しました。スライムの物性をレオロジー(物質の流動と変形を扱う学問分野)の研究手法や核磁気共鳴(物質の分子構造を原子レベルで解析するための装置)などで評価することで、これまで感覚的に語られてきたスライムの性質を、分子レベルで明らかにすることに挑戦しました。

10メートル以上伸びる「超延伸性スライム」を科学的に解明

植物由来の高分子「グアーガム(GG)」をホウ砂で架橋したスライムが、外力により10m以上伸びるという、従来のハイドロゲルにはない特性を持つことが判明しました。このスライムを「超延伸性ハイドロゲル」として位置づけ、物性の詳細を科学的に評価しました。

グリセリンと木工用ボンドが物性を劇的に改善

適量のグリセリンの添加により、柔軟性・弾力性・剥離性などが向上しました。さらに木工用ボンドを加えることで、スライムの粘弾性が低下し、再結合しやすくなることがNMR測定で明らかになりました。これにより、より滑らかでちぎれにくいスライムが実現しました。

糖類や微粒子でも同様の効果が得られる可能性

グリセリンと同様に複数の水酸基を持つ糖類(例:グルコース)を加えることで、同様の物性改善が可能であることを確認しました。また、木工用ボンドの代替としてガラスビーズなどの微粒子を加えても、延伸性が向上することが確認されました。

「超延伸性スライムの創成と物性」 24 ページより(Figure 14. GG スライムの材料配合バランスの状態の違い)

「超延伸性スライムの創成と物性」 28 ページより(Figure 18. GG スライムにおける木工用ボンドの量依存比較のずり速度依存性)

■今後の展開

スライムのようなハイドロゲルは、センサー、アクチュエーター、ソフトマシン、生体材料など、フレキシブルウェアやフレキシブルデバイスの分野において、幅広い応用が期待されています。今回使用したグアーガム(GG)は、食品にも使用される安全性の高い天然物質であり、環境にもやさしい素材です。そのため、今後は新たな機能性素材としての活用が期待されます。

■研究助成

本研究は科学研究費補助金「基盤研究(A) 課題番号18H03684」「新学術領域研究 課題番号19H05717」の支援により実施されました。

論文情報

  • 掲載サイト:KEK出版(KEK Report)
  • タイトル:「超延伸性スライムの創成と物性 Developments and Properties of Superstretchable Slime」
  • 著者:佐々木有美(多摩六都科学館 学芸員)、富永大輝 博士(総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センター)、瀬戸秀紀 名誉教授(高エネルギー加速器研究機構(KEK)/現 総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センター)
  • URL: https://www.i-repository.net/il/meta_pub/G0000128Lib_202524001

佐々木有美によるロクトリポート

「スライムの論文が公開されました!」