二十四節気は、地上から見て太陽が一年で巡る道筋を24等分し、そこで太陽が地上に生み出す季節を示した名称で呼ばれています。1年は12カ月ですから、毎月2つの節気が登場し、9月に私たちが迎える節気は白露(はくろ)と秋分(しゅうぶん)と呼ばれています。太陽の運行が地上の日照時間や日照状況を支配し、それによって季節が変化していることを考えると、太陽の運行と季節の変化に注目して定めた24節気を、暦に取り入れて生活に役立ててきた人類の知恵にも気づかされます。
季節を示した節気で、一番良く知られているのは春分(しゅんぶん)と秋分でしょう。国民の祝日にもなっています。この日は昼の時間と夜の時間がほぼ同じになることをご存知の方も多いでしょう。季節の変化を昼と夜の時間の長さで示した節気としては、昼の長さが最大になる夏至(げし)と夜の長さが最大になる冬至(とうじ)があります。季節の変化を昼夜の長さの変化で捉えた節気は、太陽が地球に生み出す影の時間変化で地上の季節を捉えていますから、温暖化の様に地上の環境変化には影響されない特徴があります。
秋分を迎える9月は、夏至を過ぎて短くなってきた昼の時間が、秋分には夜の時間とほぼ同じになり、秋分を過ぎて冬至に至るまでは、夜の時間の方が長くなっていくので、昔から夜が長くなる月として、長月と呼ばれてきました。この関係は猛暑の夏でも変わりません。現在でも9月は、昔と同じく長月と言う呼び名が使われています。暑さも残る9月ですが、長い夜を迎えることで、農業活動など猛暑の夏の昼間を活かした人間の営みを振り返り、静かに時の恵みに思いを馳せる季節として秋の夜長を過ごしてみたいと思います。

太陽が地球につくる影と光が地球の季節変化を生み出していることに注目してきましたが、今年の9月は、太陽が地球の影を月面にまで落とすことで見られる話題も控えています。満月の夜、月面に地球の影が届き、満月の月が赤い月に変身する皆既月食が、9月8日の午前2時30分から3時53分まで晴れていれば日本全国で見られます。国立天文台の「ほしぞら情報2025年9月」では、この様な皆既月食は約3年ぶりだと伝えています。今年の秋を特徴づける自然の素敵な贈り物かもしれません。
太陽が地上にもたらす一年を、昼と夜の時間の移り変わりで眺めると、昼の時間が夜の時間より長く占める期間が終わる秋分は、人間の社会的活動が昼間に集中していることを考えると、社会活動の節目にもなっていることにも気づかされます。実際、秋分を迎える9月はアメリカやヨーロッパなど多くの国では、新しい会計年度が始まる月にもなっています。それだけではありません。学校教育の制度でも9月に新学期が始まっています。
猛暑を経て迎えた9月ですが、人類が地上の生活で昼と夜を巧みに使ってきた歴史にも思いを馳せて、行く秋の夜長を楽しめる時を過ごしたいものです。

1939 年4月、富山県生まれ。
1964年、東京大学理学部物理学科卒業。
1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。
1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを歴任し1994年からNHK解説委員。高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)。
当館天文チームによる「今月の星空」もお読みください。