髙柳雄一館長のコラム

年度初めに思う、時の歩み

4月になり新しい年度が始まりました。自然界では桜の開花に続いて、年ごとの花見の思い出が新しく生まれる季節です。そして、社会生活では、教育現場の卒園や卒業の後に始まる入学や進学と進級、職場での退職や転職と転勤など、ある期間、目標を共にして過ごして来た仲間との別れと出会いが共通して目立つ季節となっています。私たちが、一年の月日の巡りを、また年度を節目とした社会的活動を進めていることを、桜の花の季節とともに意識させられる日本の自然環境に感謝したくなります。

地球に住む私たちは長い時の経過を知るとき、基準を定めて、それからの月日を重ねて捉えています。年齢は誕生日を基準としますが、年数は1月1日の元旦から12月31日までの期間を1年として、正月を迎える度に新年を迎えていることはよくご存じでしょう。元旦を迎え、新しい年を始めるお正月と、4月を迎え、新しい年度を始める春の花見、どちらも人生の思い出を生み出す機会となり、季節の節目として、人間の知恵が生み出した素敵な制度だとも思えます。今回は、年度初めを迎え、年度による時の歩みが私たちに何をもたらして来たのかを考えてみました。

初めにも書いたように、年度末から年度初めには、教育現場では卒業、進学、進級、企業の職場では退職、転職、転勤と、多くの仲間と共に進めて来た社会的活動の世界で、別れや出会いが進行します。それは社会全体に及ぶ季節の行事と言えるかもしれません。新年度を迎える春は、人間が仲間と共に目標を定めて社会活動を進めて来たことを意識させる季節にもなっているのです。人類は社会的活動を繰り返して多彩な文化や文明を発展させてきました。社会の発展にとって社会活動の円滑な維持は不可欠な営みになっています。

手元にある国語辞典で「年度」を調べてみると、「事業・会計などの便宜上、特に設けた一年の期間。四月一日から翌年の三月三十一日までとすることが多い。」とありました。教育も事業の一つですから、先に述べた社会活動の現場で、私たちが年度末に目標を共にして来た仲間との別れがあることや、年度初めに新たな目標を共にする仲間と出会うことも理解できます。そして、年度による年の捉え方には、人間が繰り返して発展させて来た社会活動のサイクルの節目となっていることにも気づかされます。

社会活動のサイクルと書きましたが、人間の社会活動が繰り返されて発展して来たことを考えると、サイクルは閉じた円で終わらず、ラセンで描かれるように循環を通して、さらなる高まりへ至ることまで期待できます。新しい年度を迎え、皆さんも今年度の新たな目標を、仲間と共に目指す予定を建てられたことでしょう。そんな新しい目標の多くが来年の年度末には達成されることを願って、新年度最初のコラムを終わります。


昨年(2023年)3月に満開を迎えた館庭のサクラと


開館15周年を迎えた2009年の館庭

 

 

 

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)