髙柳雄一館長のコラム

月にみる、時の移ろい

2018.01.01 09:30:30
テーマ:館長コラム 

 明けまして、おめでとうございます。

新しい年が始まり、新たな時間を与えられた様にも感じられ、新鮮な気分になった方もいらっしゃることでしょう。新年を迎える冬は時の移ろいを意識する季節かもしれません。

今年のお正月は、そんな時の移ろいを意識して楽しめる素敵な月になっています。それは満月が2回訪れるからです。1月2日と1月31日、晴れていれば満月が見えます。そして、おまけに、この2度目の満月には皆既月食が起こります。2018年1月31日の月は、「月見る月は、この月の月」とも言える素晴らしい月見の月になっているのです。

現在、私たちがカレンダーで使っている月と言う時間の長さも、歴史的には、月の満ち欠けの周期を基に人類が使い始めたことから生まれているのはご存知でしょう。地上から見る月の満ち欠けには約29日半の時間が掛かります。それが今年のカレンダーでは1月に全て含まれたのです。一月に満月が2回も見られるのはそのせいですが、一月の間に2回満月の日が含まることはそれほど頻繁には起こりません。その珍しさを示す意味で、現在ではこの2度目の満月をブルームーンと呼んでいます。

これは「つきのいろ」を意味してはいません。ブルームーンと名前が付けられた満月は、歴史的には春分・夏至・秋分・冬至と太陽の運行で区切られた春・夏・秋・冬の三ヶ月の季節に、満月が4回起こるとき、その3回目の満月のことでした。人類が季節毎の農業活動での時の移ろいを満月の名前に示していたことは、秋分に近い満月をハーベストムーンと呼んだりしていたことでも良く知られています。そんな時代、多くの季節には満月が三回しか起こらないのに季節に4回も満月が生ずるのは稀な満月と考えられ、本来なら三回目で季節を終える満月にブルームーンと名前を付けて、もう一回満月が見られることを印象付けたのかもしれません。ブルームーンと言う名前はある特別な満月を意味したのです。

現在、ブルームーンと言う言葉は、4回の満月を含む季節で3回目の満月を意味するときと、2回の満月を含む一月で2回目の満月を意味するときの両方に使われていることを覚えて頂ければと思います。最後に、これまでのお話では月の満ち欠けを満月から満月へと考えてきましたが、これは新月から新月へでも変わりません。そのことは、ここでお話した特別な満月をブルームーンと呼んだのに対応して、4回の新月を含む季節で3回目の新月と2回の新月を含む一月で2回目の新月に当たる特別な新月はブラックムーンと呼ばれていることもお伝えしておきます。ブラックムーンとは新月に相応しい名前ですね。

 多摩六都科学館のプラネタリウムでは現在、生解説番組で「つきのいろ」を取り上げています。そこでも、ブルームーンについても詳しい説明があるでしょう。興味をお持ちの方は是非御来館ください。現代では誰でもカレンダーや時計で、時の流れを簡単に知ることが出来ます。私たちには生活の中で月を眺めて時の移ろい確認する必要はありません。それでも月が話題になると眺めてみたくなります。晴れていれば、誰にでもすぐに夜空に見つけられる天体ですから、社会全体で体験できる宇宙の話題としては最適なのかもしれません。

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OLYMPUS DIGITAL CAMERA高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)



影にみる、年の瀬の時間

2017.12.14 15:17:50
テーマ:館長コラム 

今年も残り少なくなりました。少なくなったと聞いて、皆さんは何を想像しましたか?
私の場合、もちろん年内に残された時間です。そして、時間が残り少ないと感じると、年内に済ませたい課題にも気づかされ、時間の流れを意識する機会もそれだけ多くなりました。
 無意識に目にする光景にまで、時間の流れを感じるときも多く、年の瀬らしいと思うこともあります。そんな例としては、夕日が生み出す自分の長い影に気づかされ、日が沈むにつれて形を変える様子に時間の流れを意識することもしばしばあります。

 年の瀬が迫る冬至の前後、昼間の太陽も高くは昇らず、柔らかい冬の日差しが低く斜めに作る自分の影はとても長く感じるものです。それは夕方になるとさらに長さが延びて目立ってきます。背中に夕日を受けて、東向きの遊歩道で影を追って歩くのも楽しいものです。そんな時、自分の影の頭が絶えず先行して動くのを眺めると、子どもの頃、読んだ芥川龍之介の杜子春のお話を思い出します。

 中国は唐王朝の頃、都の洛陽にある西門の下に一人佇む杜子春と言う若者が、親の残した遺産を遊び暮らして散財し困り果てていた、という状況からお話は始まっています。影を眺めて、このお話を思い出したのは、杜子春がそこで出会った不思議な老人に、「今この夕日の中に立って、お前の影が地面に映ったら、その頭に当たるところを掘ってみるが好い。きっと車に一杯の黄金が埋まっている筈だから。」と教えられた場面を想像したからです。

 杜子春のお話に興味をお持ちの方は原作を読んでいただくことにして、ここでは、夕日がつくる頭の影の中に宝物を発見すると言う事件が、私にはとても印象深く、冬の夕方の人影を見ると、いつもそれを思い出すことだけに触れておきます。
 杜子春のお話では舞台は春の夕暮れとされていますが、このお話の中国に残る原典では冬の暮れになっていると、その後、大人になって知りました。私が、冬の季節に、この話をよく思い出すのも長く伸びる人影が目につきやすい季節だからかも知れません。

 影をみて気づく時間の移ろいを書いてきましたが、科学の歴史をみると、人類が時間の経過を知るために最初に作った時計は日時計だったことや、太陽の運行がもたらす季節の変化を影の様子で把握してきたことを考えると、私たち人間は昔から月日や季節など、時間の移ろいを日差しがつくる影を利用していたことにも気づかされます。

 12月に入って、多摩六都科学館の屋上でも富士山頂に沈む夕日が見える機会が訪れました。12月5日の日没時に撮影された写真を御覧ください。夕日が生み出す富士山のシルエットは、冬の太陽が生み出す素敵な影になっています。年の瀬の時間が示す特徴ある影は、残された時間の今年最後の贈り物かも知れませんね。

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OLYMPUS DIGITAL CAMERA高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)




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