髙柳雄一館長のコラム

2019年03月一覧

新たな始まりを目指して~開館25周年に思うこと~

進級、進学、人によっては就職や転職など、新年度から始まる生活に備え、3月は不思議に、身の回りで世界の行く末を意識する季節です。お正月を迎え、今年こそはと、新たな生活を歩み始めてまだ3ヶ月しか経っていないのに、また人生を振り返り、未来へ思いを馳せることにもなる春は、歳を重ねても私たちにとっては毎年大切な季節になっています。

太陽の運行が地上に春夏秋冬をもたらす時間の中で、季節が巡る周期の開始を春の始まりに設定して、暦を発展させてきた祖先の試みの妥当性も分かるような気がいたします。

私たちが過去を振り返り、未来に思いをはせる機会も多い3月ですが、前回のコラムでもお話したように、多摩六都科学館はこの3月に開館25年目を迎えました。正確には、1994年3月1日、多摩六都科学館は多摩北部の小平市、東村山市、田無市、保谷市、清瀬市、東久留米市の6市が設置運営する広域の科学博物館として開館しました。田無市と保谷市は、その後合併して西東京市となり、現在の多摩六都科学館は5市で運営されています。

私自身は開館10年後の4月から多摩六都科学館の館長として、この「館長コラム」を書き始め、25歳になった多摩六都科学館では10代から身近に多摩六都科学館に接して来ました。その後の設置・運営関係者、そしてご利用の皆さまの厚いご支援によって、地域に根ざす特徴ある科学館として評価されるまでに成長できたことに大変感謝しています。



 

2019年は、私たちにとっては多摩六都科学館誕生の25周年ですが、国際的にみると、今年は科学の歩みの中でも記念すべき年になっています。150年前の1869年3月6日にドミトリ・メンデレーエフがロシア化学学会で発表した元素の「周期表」が、現在私たちが使っている「元素周期表」の誕生日に当たっており、「周期表」誕生150周年目の今年は、それを記念して、国際連合教育科学文化機関が「国際周期表年」と定めたからです。

「周期表」は物質を構成している元素を、それぞれの元素がもつ物理的または化学的性質が似たもの同士で並ぶように決められた規則に従って配列した表で、「元素周期表」とも呼ばれています。現在の「周期表」には118種類の元素が国際的に登録されています。

150年前、メンデレーエフが「周期表」を生み出した当時は、発見されていた元素はまだ63種類だったと言われています。しかし、メンデレーエフが発表した「周期表」は、その後に発見された元素の性質や質量の予測にも有効性を発揮するなど、科学の発展に大きく貢献しました。特に20世紀になって、元素の実体である原子の構造について原子物理学が誕生すると、周期表に描かれた物質世界の理解は飛躍的に深まり、その結果、新しい科学の分野がいくつも誕生しました。

「元素周期表」について具体的に知りたい方は、多摩六都科学館の「チャレンジの部屋」に展示されている「元素周期表」のコーナーをご覧ください。ここでは、科学の歴史の中で「元素周期表」の登場が、その後の物質科学で、いくつもの新しい科学分野の誕生を促したことだけを強調しておきます。



 

多摩六都科学館の開館25周年である2019年が、「元素周期表」の誕生150周年に当たる国際周期表年になったことは偶然です。しかし、そんなめぐり合わせになったので、国際周期表年にも触れました。科学の歴史では、新しい発見や理論の誕生が、多くの場合、さらに新たな科学の誕生に結びついていることが判明します。

多摩六都科学館の開館25周年の年にあたり、開館当時を振り返り、未来への思いを巡らすとき、私たちもまた、科学の歩みの様に、新たな始まりを目指した活動を続けて行きたいと願っています。皆さまのご支援をお願いします。

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高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)