髙柳雄一館長のコラム

令和を迎えて知る時の役割

我が家の近くを通る神田川沿いの桜並木も、今ではすっかり葉桜となり、晴れた日には緑陰が連なる道となりました。道沿いで目立つ花はサクラからハナミズキに受け継がれ、所々で見かける白とピンクの花が散歩の楽しみを用意してくれています。春から夏へ、身近に体感する日本の季節の移ろいです。

時の流れを、身近に接する草花の変化で気づかされ、必要ならばカレンダーや、テレビ、新聞などで日付を確認して、時の経過を知る人間の営みでは、その時々で便利な時の経過を示す表現を利用しています。時刻を意識するときに使う、秒、分、時。日付を意識するときに使う日、月、年。日数を意識する生活設計では、何時も必ず7日でめぐる週と言う表現も曜日と共に不可欠な存在です。人間が使っている時の経過を示す多様な表現は、何れも時の流れに合わせて生活してきた人間の知恵が生み出した時の捉え方だと思います。

平成から令和へ年号が移行したゴールデン・ウィーク。今年は10連休にもなり、過ごし方に関しても大きな話題になりました。連休前の出来事には、平成最後という言葉も使われていたことが印象的でした。この表現を見習うと、今年のゴールデン・ウィークには、令和最初の思い出を既に手に入れた方々も大勢いらっしゃるに違いないと想像しています。



過ぎゆく時の流れの中で私たちが手に入れる思い出には、それが生まれた時間を特定できる固有の時があるに違いありません。その証拠に、私たちは思い出を引き出すとき、それが何時の体験だったかをまず確認することから始めます。そして、思い出を体験した時が明確になればなるほど、思い出の内容はそれだけ鮮明になるような気もします。思い出を楽しむ上で、思い出を生み出した時の役割の重要性に気づかされます。

思い出は全て過ぎ去った体験ですが、それを思い出す時と思い出す立場で、思い出に結びつく時の呼称も変わってきます。人生を振り返っての思い出では、小学生の時とか、高校生の時、人によっては還暦の時などと、個人的に決まる時の呼び名を使うこともあります。しかし、一般には、社会的な出来事と結びつく、他人とも共有できる時の表現を利用しています。年号も日本人として共有できる思い出を語り、意識するときには最適な表現になります。

前回のコラムでも触れましたが、この春、平成最後に皆さんと共有できた思い出は多摩六都科学館が開館25周年を迎えたことでした。平成6年に開館し、平成31年に開館25周年を迎えた多摩六都科学館は、平成と呼ばれた時代の未来への贈り物として意識することができるかもしれません。

この5月、ご来館いただく皆さんの、新たに歩み出した多摩六都科学館で生み出される令和の時代の思い出が、これまで以上に豊かな未来へと導くものとなることを願っています。

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高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)