髙柳雄一館長のコラム

2019年08月一覧

猛暑の8月、旧暦に記された月を眺めよう

8月に入って猛暑の真夏日が続いています。昼間は戸外での活動をなるべく避けて過ごす日も多くなりました。そのせいでしょうか?多少は気温も下がる夜は、ホッとして家の外に出て空を眺める機会も増えました。
そんな時、晴れていれば、夜空にどんな姿の月が出ているかを探す、子どもの頃からの習慣は今も変わっていないことに気づかされます。

前回のコラムでも紹介しましたが、今年の8月7日は旧暦の七夕の日に一致しました。つまり、8月1日には新月の夜を迎え、7日の夜は月齢7の七夕の月が出ました。月の満ち欠けに従って新月から新月までを一ヶ月とした旧暦の7月が、私達が利用している今年のカレンダーの8月1日から29日までに重なっているからです。
8月29日までと書いたのには理由があります。地上で見る月の満ち欠けは凡そ29.5日で繰り返しています。ですから8月1日が新月ですと次の新月は8月30日になり、この日は旧暦では8月1日になって、もう旧暦の7月は終わっています。いずれにしても、私たちは、今年の8月、二度も新月の夜を迎えることに変わりはありません。

同じ月に二度出現する満月は、月に一度だけ出会う普段の満月に比べると珍しい満月となり、英語ではブルー・ムーンと呼び、人びとの注目を集める出来事になっています。月に二度出会う新月も、同じ理由で、やはり珍しい新月となります。そこで月に二度出会う新月は英語でブラック・ムーンと呼んで、同じように注目すべき自然現象になっています。
現在私たちが使っているカレンダーでは2月を除いて、どの月も一ヶ月は30日以上あります。ですから、2月以外の月では、時にはブルー・ムーンやブラック・ムーンを眺める機会に巡り会えることが分かります。逆に月の満ち欠けで1ヶ月を決めていた旧暦では、ブルー・ムーンもブラック・ムーンも存在しないことを考えると、月を眺めて楽しむ機会を、暦の上で色々と設けてきた私たち人間の文化の特徴にも気づかされます。



明治5年まで旧暦を使用してきた日本では、それまで月の満ち欠けで暦の上での日の移ろいを知ってきました。月を眺めることは生活の上でも人間にとっては必要な営みでした。
暦の日付を含む月としては、三日月(みかづき)、十三夜月(じゅうさんやづき)、十五夜(じゅうごや)、十六夜月(いざよい)などが良く知られています。日付は入っていませんが、17日目の立待月(たちまちづき)、18日目の居待月(いまちづき)、19日目の寝待月(ねまちづき)、20日目の更待月(ふけまちづき)、26日目の夜明けに見える有明月(ありあけづき)は、暦の上で月見を必要とした人々の月への思いをしのぶ事が出来ます。


十三夜

今年は人類がアポロ計画で月面に足跡を残して50年目。世界中で月探査の歴史をしのぶ行事が行われました。アメリカでは2024年までに再び人間を月に送る計画も進行中です。60年前、ソ連のルナ3号が月の裏側の姿を撮影して以来、その後に続く人類の月探査機は、地上の人間には見えなかった月世界の新たな姿を克明に捉えてきました。科学が見せる多様な月の姿の中で、地上で生活するために人類が眺めてきた月の姿を思い出すことも文化を守る上で大切な人間の営みかもしれません。

猛暑が続く今年の8月、涼しい夜風に触れて、昔から人間が地上で眺めてきた旧暦に記された月の世界に思いを馳せてみては如何でしょうか?





高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)