髙柳雄一館長のコラム

2019年09月一覧

令和元年、夏の思い出から

9月になりました。カレンダーでは秋を意識させる画像が使われ、夏から秋へと変わる季節に生活していることも気づかせてくれます。子どもの頃から、夏休みも終り、新学期が始まる9月は、何か新しいことが起こると期待を持って迎えていたことを思い出します。そんな期待を、学校の行事とは今では関係の無い自分が感じることに不思議な気がしています。

秋の深まりが期待できる9月、今年の猛暑の夏を振り返ると、関東地方では日照りの日々が続き、朝夕、頻繁に我が家の庭で散水を忘れないよう配慮したことを思い出します。雨に降られることがほとんど無い真夏日と熱帯夜の連続で、庭の植物たちの葉が枯れ始めているのを目にして以来、小さな庭とは言え、朝夕の水遣りは私の夏の日課となりました。

日照り続きで、大切な葉がしおれて枯れ始めたことに最初に気づいた植物は、プランターで栽培しているバジルでした。時々、我が家の食卓にも登場する貴重な食材であるバジルの葉っぱを助けるには朝夕の水遣りが必要と、私にとって不慣れな夏の日課をはじめました。それだけに、朝夕の日課がもたらす水の恵みを受ける庭の植物の中で、バジルには特に意識して丁寧に根元へ水を注いできたことを思いだします。

我が家の庭で私が注いだ水の恵みを受けたのは、もちろん、バジルだけではありません。バジルは玄関先の前庭にありますが、玄関先には小さな花壇もあり、植物の生育している場所には、できるだけ満遍なく水が届くように散水ホースを延ばして水を撒きました。この他に、私がもたらす水の恵みを受けたのは裏庭にある柚子の木やワビスケの木、低木のアジサイたちの根元に生えた草花でした。

夏の庭での水撒きで、一番印象に残った出来事は、裏庭の草むらで、夕闇が迫る時間に、偶然出会った一匹のヒキガエルです。水撒きの最中に草むらかに動く姿を見て、我が家の庭にヒキガエルが住んでいたことを知り、大変喜んだことを思い出します。大きさは私の手の拳骨ほどあり、夕闇の中で草葉の影では目だたない墨色に見えました。以来、今年の夏、我が家の庭の動植物にとって、私は恵みの水をもたらす神様のような存在だったのかもしれないと、勝手に想像して楽しんでいます。

我が家の庭に住むヒキガエルにはその後も一度、水撒きの最中に出会いました。柚子の木の実もようやく目立つ大きさになり、今年の秋の収穫にも期待を寄せています。我が家の庭に住む生きを物たちにも、猛暑の夏を生き延びて秋の到来を楽しむ姿を見ることができれば良いなあ、と期待しています。皆様方も、素敵な9月に出会われるようにと願っています。

 


9月になって、3度目に出会ったヒキガエル





高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)