髙柳雄一館長のコラム

2021年03月一覧

曜日と日付の複雑で興味深い関係

皆さんはカレンダーで何を知りたいと願っていますか? 毎月のカレンダーで、私たちは日付から曜日を見つけ、時には病院の休診日を確認するなど、曜日から日付を見つけています。私たちはカレンダーで月ごとに変わる曜日と日付の関係を調べているようです。

多くのカレンダーでは、月ごとに横に並べられた曜日の真下に、曜日に結びつく日付が示されています。曜日の並びは日曜から土曜まで並ぶものと、月曜から日曜まで並ぶものがありますが、曜日は決められた順序で7日に割り当てられています。この決まった順序で示された曜日の7日間を週と呼んでいることはよくご存じでしょう。

週は7日といつも一定ですが、年は平年で365日、うるう年で366日、月は28日から31日となり、年も月も日数は一定しません。日数が一定でない年月の経過の中で、カレンダーでは、月が変わると日付はいつも1日から再開し、曜日は決められた順序で連続するため1日の曜日は先月末日の曜日の次の曜日となります。この結果、年が変わり、月が変わると、必ず1日から始まる日付と先月末日に連続する曜日が、多くの場合、前月とは異なる日付と曜日の関係を生み出しています。月ごとに新しいカレンダーが必要な理由です。

日常生活で、カレンダーを見て日付と曜日を確認し、予定や約束を決める日取りは、月内か来月の事が多く、ほとんど年内に収まっています。しかし、遠い過去の日付を確認する場合には、曜日まで知る必要がない事もたくさんあります。例えば誕生日です。私たちは自分の誕生日はすぐに言えても、曜日まで聞かれるとすぐには返事を出来ません。今年の誕生日なら、カレンダーを見て答えられますが、生まれた年となるとむずかしいでしょう。

遠い過去や未来の事は、多くの場合、年月日で示されています。私たちが日付と曜日を知るためにカレンダーを使うのは、長くて年内、ほとんど月内か来月の出来事や予定を考える際に限られているようです。ですから、身近にあるカレンダーも、今月以降しかありえません。

カレンダーで曜日と日付の関係を知る必要があるのはどんな場合なのか、カレンダーの役割を考えていたとき、興味深い資料を発見しました。今年の「理科年表」の令和3年暦部に出ていた「日曜表」です。「日曜表」は前から知っていましたが、調べてみるとカレンダーの歴史でも、大変、興味深い役割を果たしてきたことに気づきました。

「日曜表」は文字通り、その年の月毎の日曜日だけの日付を表示しています。この表では、月を示す縦の列に、1月から12月が配置され、日を示す横の行には各月ごとに、その月の日曜日の日付が全て示されています。令和3年の「日曜表」では、日曜日が、7日、14日、21日、28日となる月は2月だけではなく、3月と11月にも当てはまることが分かります。さらに、1月と10月、4月と7月、9月と12月では、二つの月で日曜日の日付が同じであることや、5月と6月は日曜日の日付が同じ月が年内には他にないことも分かります。


日曜と言う一つの曜日の日付だけに着目したことで、日数が不揃いな月も含めて「日曜表」は、簡潔に、それが示す年の各月での日付と曜日の関係を知る手がかりを与えてくれます。こんなに便利な「日曜表」があることを知って、気がついたこともあります。日付と曜日の関係を私たちが確認する際、日曜日が持っていた特別な役割です。今の私たちにとっては日曜以外に祭日、祝日、そして土曜と、休日にできるのは日曜だけではありません。しかし、週の曜日を定め、現代のカレンダーが利用されてきた歴史を振り返ると、どの文化圏や国でも休日となるのは日曜日しかなかった時代が永く続いていたことは確かです。
日曜の重要性はカレンダーの曜日の並びで最初か最後に位置することからも想像できます。曜日の中で重要な役割を占めてきた日曜だけを使ってカレンダーをまとめた「日曜表」は、一年全ての月の日付と曜日の関係を一つにまとめた生活の知恵の結晶かもしれません。

現在は「理科年表」暦部冒頭の一頁にひっそりと提示されている「日曜表」ですが、日本では戦後の1948年から2006年までの59年間、貨幣や文化勲章の鋳造で有名な造幣局で、直径4センチ程の円形金属メダルの一面に刻印された「日曜表」が「日曜表メダル」として毎年発行されていたことを発見しました。興味をお持ちの方は調べてごらんなさい。

このコラムでは英語のウェブサイトで私が発見した「カレンダー・メダル」と呼ばれているフランスで143年前に利用されていた「日曜表メダル」の画像をお目にかけておきます。

 

左はメダルの表側で、1778年の各月の日数と満月と新月の日付が表示され、右のメダルの裏側には、1778年のすべての日曜日が表示されています。メダルの裏側は「日曜表メダル」なのです。摩滅して見にくい状態ですが、左端の縦列は何とか見えます。縦に記された数字、1.8.16.22.29は日曜日の日付です。縦列上段には、真下の列の日付が日曜となる2月、3月、11月の名前が書かれています。1778年は平年でしたから2月29日は存在しません。それを知って利用すれば、日曜の日付が同じ月でまとめた、この表示でも「日曜表」として利用できることに気がつきます。

今年は平年、先月と同じ日曜日をもつ今月のカレンダーを見て、私たちが月ごとにカレンダーで確認する複雑な日付と曜日の関係も、「日曜表」の視点で眺めると興味深いことを示してみました。皆さんの感想も伺いたく思っています。


高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)