髙柳雄一館長のコラム

2022年12月一覧

年の瀬にみる時の歩み

12月に入り、戸外で出会う人々の動きにも、慌ただしさを感じることが多くなりました。年の瀬を迎え、予定を手帳やカレンダーに記入する際にも、年内にするかどうかまで意識する機会も増えてきました。この季節、日暮れが一段と早まり、昼の明るい時間が短くなって行くことに気づかされます。今回は、12月の時の歩みが持つ独特の雰囲気を書いてみます。

これまでは、秋の夕暮れの陽ざしに映える公園や街路で目にする樹々の紅葉や枯れ葉に気づくと、それを眺めて季節の移ろいを楽しんできました。しかし、12月になると、そんなひと時もどんどん短くなって日に日に失われて行きます。紅葉の名所では、今年も期間限定のライトアップで紅葉鑑賞の散策の場を公開していることを皆さんもご存知でしょう。

短くなってゆく昼間の存在に私がはっきりと気づくのは、毎年、12月になって多摩六都科学館に通勤する際に通る吉祥寺駅のバス停で目にする朝夕の広場に接したときです。

出勤途上、先日朝9時頃に写した写真をご覧ください。JR吉祥寺駅北口広場の画像です。向かって右端には、井の頭動物園で69歳の長寿を全うした「ゾウのはな子」を記念した銅像も見つかります。画像を丁寧に見るとクリスマスを意識した飾りもいくつかありますが、私がバス停へ向かう画面を左から右へ通り過ぎる道からは、昼間の明るい陽ざしの下で見る限り、それほどこの景色から季節の特徴を知ることはできません。



そんな吉祥寺駅北口広場の昼間の景色も、秋も深まった12月の宵闇に包まれた世界では激変しています。


この画像は多摩六都科学館から帰宅途中、吉祥寺駅でバスを降りて、夕方6時近くに私が写した写真です。宵闇に包まれたと書きましたが、周辺にある樹々まで電飾で飾られて比較的明るい広場では「ゾウのはな子」の銅像もはっきりと見えています。その他、電飾で描かれたアルファベット表示の「KICHIJOJI FOREST」の文字が連なるアーケイドや、記念写真を撮る親子の姿にも気づかされます。いずれにしても朝9時に目にした広場よりも、はっきりと年の瀬を迎えた今の季節を特徴づける世界が広がって見えます。

出勤途上で接した世界と帰宅時に出会う世界が、これほど違って見える体験は一年を通じてこの季節だけかもしれないと言う気もしています。朝から昼へ、そして夕方へと言える昼間の時の歩みが短くなって、長い時の歩みがもたらす季節の変化を一段と引き立てているかの様にまで思えてきます。

考えてみると目では見えない時間の経過を、私たちはそれが生み出す世界の変化で捉えています。時の歩みはそれを知る世界の変化によって、早くなったり遅くなったりして感じることにも気づかされます。年末年始を迎え、その中で過ごす人間にとって、多様な時の歩みに触れる機会は、これからも増え続けるに違いありません。年の瀬に出会う様々な時の歩みを、お互いに有効に活かして新しい年を迎えたいと願っています。

 


高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)