髙柳雄一館長のコラム

2023年02月一覧

カレンダーでみる春

3日に節分(せつぶん)、4日には立春(りっしゅん)を迎える2月。月初めに春の到来を意識できる素敵な月となっています。気象状況によっては寒気団が居すわると、春の始まりよりも冬の終わりが目立つ日々もありますが、季節の移り変わりを感じると、春らしさを期待できる機会も多くなってきました。2月は、一年を構成する12の月で日数が最も短くなっていることも大きな特徴です。うるう年でない今年は2月が28日であることも皆さんは良くご承知の事でしょう。

私たちが日常使っているカレンダーでは、毎月、最上段に日曜あるいは月曜から七つの曜日を横に並べて記載し、その下に1日からその月の最終日まで、曜日に対応した日付が週毎に行を変えて表示されています。今年の元日は日曜日でしたから、7日毎に繰り返す曜日に対応した31日は火曜日となり、続く2月1日は水曜日です。2月は28日なので、7日ごとに繰り返す曜日から3月1日も2月1日と同じ曜日になります。今年のように2月が28日となる年は、いつもこの関係が当てはまり、3月1日は2月1日と同じ曜日になり、以後28日まで日付と曜日は2月と同じ様に続きます。

以前、月毎の日付欄に予定を記す手帳で2月の予定を日付と曜日が同じになっていた3月のページに間違って記入したことを思い出します。一年を通じて、日付と曜日が同じになる月が続くのは、うるう年ではない年の2月と3月しかありません。連続した月で、月が変わっても、曜日と日付の組み合わせが変わらないこともあると気づかされた体験は春の珍事とも言える思い出になっています。


▲多摩六都科学館ウェブサイトのイベント・カレンダー

暦の上で春を意識させてくれるのは、初めにも書いた節分、立春など季節を表す言葉です。これらの言葉は、現在私たちが利用している、明治5年に採用された新暦以前に使われていた旧暦でも使われていました。旧暦は太陰太陽暦とも呼ばれ、月の満ち欠けを基本にした月日の変化に対して、太陽の運行による季節変化を考えて修正した暦です。この歴で太陽の運行がもたらす季節の移り変わりを示した言葉は二十四節気(にじゅうしせっき)と雑節(ざっせつ)と呼ばれてきました。

節分は雑節の一つです。土用や彼岸など季節の移り変わりの目安として使われた雑節では、色々な行事も行われました。昔は四季にあった節分も、最後は春だけになり、立春前日に豆まきなで邪気を払う行事が行われました。節分に続く立春は、春分(しゅんぶん)、夏至(げし)、秋分(しゅうぶん)、冬至(とうじ)と共に、今も一般社会で季節を表すのに使われている二十四節気の言葉です。二十四節気と呼ばれるのは、1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分けて設定される節気が、合わさると二十四になるからです。

現在のカレンダーは太陽暦です。二十四節気と雑節は新暦のカレンダーにも当然当てはまります。今年の理科年表で暦部の二十四節気の欄を見ると、地球から見て太陽が天空を1年で周回する軌道を黄道と呼びますが、節気毎の太陽がその黄道上で占める位置と時刻が新暦の日付で示されています。そして、二十四節気は、それぞれの節気で、太陽が黄道に位置する時刻と説明されています。節気は太陽の運行を観測して決められているのです。今年のカレンダーで春に割り当てられた6つの節気を日付で示すと、2月4日が立春、2月19日が雨水(うすい)、3月6日が啓蟄(けいちつ)、3月21日が春分、4月5日が清明(せいめい)、4月20日が穀雨(こくう)となっており、月毎に節気が二つあることも分かります。


▲国立天文台編「理科年表 2023」, 丸善出版 (2022)

春の節気でも、立春や春分は多くの方がご承知でしょうが、その他の節気はそれほど知られていない言葉にも思えます。雨水と啓蟄を手元の国語辞書で調べると、雨水は「雨水がぬるみ草木が芽ぐむころの意」、啓蟄は「冬ごもりをしていた虫が地上にはい出る意」と書いてあります。春の季節の移ろいの中で植物や虫の活動を捉えた表現は印象的です。興味をお持ちの方は、清明と穀雨についても調べてみてください。昔から季節の移ろいを眺めてきた人々が見ていた日本の春の風物を想像できるかもしれません。

今回はカレンダーを眺めて、節分、立春から二十四節気で捉えられた春に思いを馳せてみました。実際のカレンダーの日付で二十四節気が表示されているのは、国民の祝日となっている「春分の日」と「秋分の日」の二つだけです。節分も立春もカレンダーには表示されていません。ただ、私たちは、カレンダーを見て季節の推移を感じるとき、特定の日付に対応して自然と思い出す季節の言葉も多く、時候の挨拶や手紙の書きだしなどで、お互いにそれを利用していることにも気づかされます。寒い日が続くなか、机上のカレンダーで春を眺めてみましたが、戸外に出て春を楽しめる日々の到来を期待して終わりにいたします。


高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)