髙柳雄一館長のコラム

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宇宙天気にご用心!激しさ増した太陽活動

 11月、立冬を迎え、夕暮れが迫ると、入日の太陽が描く長く伸びた影の移動にも気づかされて、猛暑の夏には避けてきた太陽の日差しにも親しみを持って過ごせる毎日がやって来ました。そんな中、太陽表面の活動が激しさを増してきているという観測報告に接すると、私たちがいる世界が、科学の目で見ると、不思議に満ちていることにも気づかされます。まずは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の太陽観測衛星SDO(Solar Dynamics Observatory)が2024年10月3日に捉えた太陽表面のフレアと呼ばれている爆発現象をご覧ください。中央に見える閃光は強度X9.0と分類された高エネルギーのX線を放っている領域です。



 2003年に太陽表面で観測された記録上最大の強力フレアはX45と分類されていました。今回はそれ以来、太陽表面で観測された強力なフレアに当たります。こうした太陽活動の激しさが再び始まったと言える太陽観測記録をもとに、10月15日、NASAとアメリカ海洋大気庁(NOAA)、および国際的太陽活動予測パネルの代表者は、太陽活動が極大期に既に入っていると発表しました。
 太陽表面の活動の激しさは太陽表面に現れる黒点の数で捉えることができます。太陽観測衛星SDOが可視光で捉えた太陽活動極小期と極大期の太陽表面の画像をご覧ください。左側の太陽は2019年12月で太陽活動極小期、右側の太陽は2024年5月で太陽活動極大期にあたります。先に紹介した記録上最強のフレアは、これ以前の太陽活動極大期に発生しました。



 太陽活動が極大期になると、黒点の数が増えることは過去の太陽観測データの変化を歴史的に見るとよくわかります。
太陽表面に黒点が現れることを最初に発見したのは、ガリレオ・ガリレイだと言われています。1613年にガリレオが書いた「太陽黒点論」では、1612年に、彼が望遠鏡を使って太陽の像を投影して記録した太陽黒点のスケッチを見ることができます。19世紀になって、17年間も太陽黒点の観測を続けたハインリッヒ・シュワーベは太陽黒点に周期があることを発見し、それを研究したルドルフ・ウォルフはガリレオ・ガリレイが最初に黒点を観測した17世紀初頭まで周期を遡って調べました。黒点の周期はある極小期から次の極小期までの期間で区切られています。過去400年間の太陽黒点数の変化を示した図をご覧ください。



 これを見ると太陽黒点の極小期が長く続いた時代もあったことに気づきます。それについては機会があれば何時か触れることにして、ここでは1755年からは、凡そ11年周期で太陽活動が変化する時代に私たちが生きていることにして話を進めます。
そうすると2008年12月の極小期の次の極小期は2019年12月となり、その間は、1755から始まる周期から数えて第24太陽周期に当ることが判明します。これに従うと、現在は第25周期に入って極大期を迎えつつあり、第25周期の極大期はピークが2025年頃になりますから、太陽活動がこれから激しさを増すと予測されるのです。黒点数の増加と太陽活動の激しさの関係は、これまでの太陽活動の観測結果から明確に知ることが出来ます。



 この図で青色は黒点数、黄色は昼間と赤色は年間の太陽から受ける放射量、緑色はフレアの指標、紫色は電波量を示し、観測された太陽活動の激しさを示す指標が黒点数の変化と見事に対応しています。ここで描かれた周期は第21周期、第22周期、第23周期です。

 これを見ると私はNHK在職時に取材してNHK総合TVで1977年1月22日(水)午後10時15分~10時45分に放送した番組、あすへの記録「黒点を追う―活動期に入った太陽―」を思い出します。当時は第21周期の太陽周期が極大期を迎え、激しさを増した太陽活動が宇宙環境を荒れ模様にし、場合によっては地上の社会生活網にも影響することを紹介し、宇宙環境の変化を予測する宇宙天気予報が、現代文明に重要になって来ていることを番組で訴えました。それから50年近く経ち、太陽活動が生み出す宇宙環境の変化を予測し、現代文明への影響を予報する宇宙天気予報は、さらに重要性を増して来ました。
現在、私たちにとってスマートフォンの利用は日常生活を快適に過ごす上で不可欠な営みになっています。その際、使用者の位置情報が重要な役割を果たしていることを皆さんもご存知でしょう。この位置情報は、地上2万キロの高度を維持して地球を回る30個ほどのGPS(全地球測位システム)衛星ネットワークによって提供されています。現在の地球文明は、この様に宇宙環境に深く依存しており、それだけ宇宙環境の変化を予測する宇宙天気予報は地球文明を維持するために不可欠な人類の活動になっているのです。
太陽活動の変化が地球周辺の宇宙環境にどんな影響を及ぼすかは、初めに紹介したNASAの太陽観測衛星SDOなどで構成される、地上で観測できないX線や紫外線で太陽活動を宇宙から監視する特色ある太陽観測衛星ネットワークが国際的に設けられ、NOAA(アメリカ海洋大気局)などの宇宙天気予報担当組織に有用な観測成果を提供しています。
宇宙天気予報を日本で実施している組織は国立研究法人情報通信研究法人(NICT*)です。NICTの宇宙天気予報のホームページに記載された、トピックス「宇宙天気とは」では、太陽活動のどんな現象が宇宙環境をどの様に乱し、どんな宇宙天気の荒れ模様を生み出すかを、以下にお見せする図を使って説明しています。興味をお持ちの方はNICTのWEBで確認し、同時に宇宙天気予報もご覧いただければと思います。



今回のコラム、太陽活動が第25周期の極大期に入ったという報告をご紹介しました。極大期のピークを迎えるのは、来年になると予測されています。地上に住む私たちにとっては、オーロラが見える領域の拡大には期待しますが、大規模な社会的被害はあまり無いようにと願ってコラムを終わります。

 



髙柳雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。
1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを歴任し1994年からNHK解説委員。高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)。