プレスリリース

当館、学芸員が発光トビムシの正体を解明!

多摩六都科学館 研究交流グループ学芸員 大平敦子(博士;当時横浜国立大学社会人大学院生)を中心とする横浜国立大学・多摩六都科学館・名古屋大学・中部大学の研究チームが、300年以上謎だった発光トビムシの正体を世界で初めて突き止めました。

これらの成果はニュージーランドの科学雑誌「ズータクサ(Zootaxa)」に8月7日に公開されました。

以下、概要です。

発光トビムシの正体を解明!
土に潜む、緑色に光る陸上最小の発光節足動物
〜独自に考案した方法で、発光トビムシを次々と発見〜

研究成果のポイント
1.謎の発光トビムシの正体がザウテルアカイボトビムシであることを解明。
2.今まで別の種が間違ってザウテルアカイボトビムシと呼ばれていたことが判明。その種を新たにオニイボトビムシと命名。
3.アミメイボトビムシ属の種が光ることを世界で初めて発見。この属は同じ属に発光種と非発光種が含まれるという稀な事例。
4.世界初、トビムシが発光する様子の動画撮影に成功。名前が特定された種で緑色に光るという科学的証拠が得られたのは世界初。

発表概要
大平敦子博士
多摩六都科学館学芸員当時横浜国立大学社会人大学院生)を中心とする横浜国立大学・多摩六都科学館・名古屋大学・中部大学の研究チームは300年以上謎だった発光トビムシの正体を世界で初めて突き止めました。また、トビムシの発光能を試験する方法を考案し、既知種の中から新たに3種が光ることを発見するという快挙を成し遂げました。加えて、トビムシが発光する様子の動画撮影に世界で初めて成功し、緑色に光るということを科学的に確かめました。これらの成果はニュージーランドの科学雑誌「ズータクサ」に8月7日に公開されました。

ザウテルアカイボトビムシとその発光している様子


アミメイボトビムシ属の一種(Vitronura giselae)とその発光している様子


謎の発光「トビムシ」

背景
トビムシは体長数ミリメートルの節足動物で、陸上の発光節足動物としては世界最小です。トビムシ類の脚は6本ですが、腹部に粘管という特有の器官をもつ点で昆虫とは区別され、世界で9000種、日本で400種ほど知られています。森林土壌に多く、公園や神社の土壌、プランターの中にも棲息しています。

トビムシ類の中に光る種がいることは古くから言われていましたが、種が特定されていないか、本当に光るのか再確認されていないかで、その正体は不確かでした。そのなかで、刺激を受けて光る日本産の赤いトビムシは、発光することが世界で唯一写真に収められており、発光生物学の新たな材料として期待されていました。しかし、種を特定する手掛かりとなるDNAバーコード(注1)は得られていたものの、分類学的な混乱により種名の決定には至っていませんでした。

曖昧模糊としていた発光トビムシの正体を学術的に解明するため、横浜国立大学で大学院生として研究していた大平敦子博士(多摩六都科学館学芸員)が中心になり、DNAバーコードを手掛かりに発光トビムシの探索を行い、発光トビムシの正体解明と既知種の発光性の新たな発見に至りました。

成果
①発光トビムシの正体解明〜大和本草(1709)に登場する謎の発光トビムシの正体かも!?
同研究チームの大平敦子博士(多摩六都科学館学芸員;当時横浜国立大学社会人大学院生)、中森泰三博士(横浜国立大学准教授)、松本幸学士(当時横浜国立大学学部生)は、発光トビムシとDNAバーコードが一致する種を見つけ出し、その形態的特徴からザウテルアカイボトビムシ(図)であることを突き止めました。

加えて、別所-上原学博士(名古屋大学特任助教)と加藤巧己学士(名古屋大学大学院生)はトビムシが発光する様子の動画撮影に世界で初めて成功し(動画あり)、大場裕一博士(中部大学教授)はザウテルアカイボトビムシが緑色に光るということを科学的に確かめました。緑色に光るという科学的証拠が得られたのは種名が特定されたトビムシでは世界で初めてです。

発光する「トビムシ」は古くは1709年に出版された「大和本草」(日本最初の本草学書)に登場します(図)。文章からもスケッチからもトビムシなのかすら謎ですが、もしかしたら、ザウテルアカイボトビムシがその正体かもしれません。そうだとすると、実に300年の時を経て発光トビムシの正体が解明されたことになります。

②独自に考案した方法で、発光トビムシを次々と発見〜身近にもいる発光トビムシ
同研究チームは、独自に考案した方法で、東京都〜沖縄県で採集された計12種の発光能を試験し、既知種の中から新たに3種、計4種の発光トビムシが日本にいることを発見しました。トビムシは刺激を受けて光ることがわかっていましたが、再現可能な刺激の与え方は知られていませんでした。この度、同研究チームは、音響装置を用い、誰でも同じように刺激を与える方法を考案し、一定の精度で発光能を評価できるようにしました。再現可能な方法でトビムシの発光能が評価されたのは世界で初めてです。

その成果として、アミメイボトビムシ属にも発光種がいることを発見しました(図)。日本のアミメイボトビムシ属のすべての既知種について発光能を試験した結果、チビアミメイボトビムシ、オレンジイボトビムシは発光しませんでした。しかし、アミメイボトビムシ属の一種(Vitronura giselae)とクニガミイボトビムシは発光することがわかりました。アミメイボトビムシ属はザウテルアカイボトビムシとは別系統(別の亜科)であり、アミメイボトビムシ属に発光種が存在するという報告は世界で初めてです。また、同じ属のなかに発光種と非発光種が含まれるというのは稀な事例です。

大平敦子博士が、多摩六都科学館の敷地にいたアミメイボトビムシ属の一種(Vitronura giselae)が光るのを見つけたことがきっかけで、これらの発見に至りました。

本研究で発光することがわかったトビムシは次の4種です。
・ザウテルアカイボトビムシ(Lobella sauteri
神奈川県と東京都から見つかっています。横浜国立大学構内の林でも見つかる身近な種です。

・ヤンバルイボトビムシ(Propeanura yambaru => Lobella yambaru
沖縄県の山林内に棲息しています。これまでフクロイボトビムシ属Propeanuraに分類されていましたが、本研究により、ザウテルアカイボトビムシと同じ属であることが判明し、学名が修正されました。同研究チームは、別属とされていた本種がザウテルアカイボトビムシと同じ属であることを突き止め、その近縁性から本種が発光すると予測し、その予測を見事に的中させました。

・アミメイボトビムシ属の一種(Vitronura giselae
世界に広く分布します。国内では東京都と滋賀県から見つかっています。多摩六都科学館の敷地にも見られる身近な種です。日本からの記録は本研究が初めてで、まだ和名がありません。

・クニガミイボトビムシ(Vitronura kunigamiensis
沖縄県の山林内に棲息しています。

③分類の整理
以上の成果は、真のザウテルアカイボトビムシがどの種かという問題を解決したことではじめて得られました。これまで東北地方にいる赤くて大きいものがザウテルアカイボトビムシとみなされていましたが、実は日本に数いる赤いトビムシのなかで、どれが真のザウテルアカイボトビムシか定かではありませんでした。ザウテルアカイボトビムシは1906年に日本から新属新種記載されましたが、その論文中の記載は種を特定するには不十分でした。新種記載の証拠となる標本も世界大戦時の混乱で失われたと思われており、アカイボトビムシ属全体の分類が混乱していました。この度、ザウテルアカイボトビムシの証拠標本が大英博物館に残されていたことが判明し、その証拠標本をもとに日本産の赤いトビムシを調べ直した結果、神奈川県にいるものが真のザウテルアカイボトビムシであることがわかり、それが発光トビムシの正体であることがわかりました。

これまで間違ってザウテルアカイボトビムシと呼ばれていた東北産のものを、恐山で採集された標本に基づき、新たにオニイボトビムシと命名しました。本種が発光するかは未検証です。

なぜ光るのか?
トビムシがなぜ光るのかはまだわかっていません。同研究チームの推測は、自身が不味いということを天敵に光で警告しているというものです。ザウテルアカイボトビムシは、刺激を受けて光るほかに、強く刺激すると防御物質も出します。光るトビムシは不味いということを天敵が学習すれば、光ることで、自身の不味さをを天敵にアピールできるかもしれません。この推測が正しいか今後の検証が必要です。

意義
本研究は、発光トビムシの種が何であるか正確に把握できるようにしたとともに、再現可能な方法で発光能を評価し、複数の系統に発光種がみられること、さらに、発光種と非発光種を含む属が存在することを、世界に先駆けて解明しました。トビムシは昆虫とは別系統で昆虫よりも古くから地球上に出現し、ホタルとは独立に発光能を獲得したと考えられます。そのため、トビムシは、発光生物の多様性や起源を解明するための研究材料として期待されます。本研究は、発光トビムシを科学的に扱えるようにしたものであり、発光生物学の新たな幕を開いたと言えます。

助成金
本研究の一部は、科学技術振興機構創発的研究支援事業(JPMJFR214D)および戦略的創造研究推進事業(JPMJAX211F)による別所-上原学博士(名古屋大学)への支援のもとで行われたものです。

お願い
発光種を含むイボトビムシ類は地域固有性が高いことが知られています。他所からとってきたものを別の場所に放すなど、本来の分布域を乱すような行為は控えてください。

【論文情報】
・掲載誌:       Zootaxa [ズータクサ]
・タイトル:    Contribution to the taxonomy of Lobellini (Collembola: Neanurinae) and investigations on luminous Collembola from Japan [アカイボトビムシ亜科の分類の整理および日本産発光トビムシの調査]
・著者:           Atsuko Ohira, Taizo Nakamori, Sachi Matsumoto, Manabu Bessho-Uehara, Takumi Kato, Yuichi Oba [大平敦子、中森泰三、松本幸、別所-上原学、加藤巧己、大場裕一]
・研究協力:    澄田智香(横浜国立大学)ほか多数
・DOI:           https://doi.org/10.11646/zootaxa.5325.1.4
・DOI動画:     https://doi.org/10.6084/m9.figshare.23702907

■用語解説
(注1)DNAバーコード
生物のもつ遺伝情報のうち、生物種の識別ができるほどの変異がある領域のことを言います。名前を知りたい生物の遺伝子に刻まれたDNA塩基配列情報を読み取り、既知種のもののデータベースと照合することで、あたかもバーコードを読み取るかのように生物の種を同定できます。名前が付いている種のDNAバーコードが事前に得られていることが前提です。

【本件に関するお問い合わせ先】
▼研究に関すること
多摩六都科学館 学芸員 大平 敦子
メールアドレス:atsuko-ohira@outlook.jp

横浜国立大学 大学院環境情報研究院 准教授 中森 泰三
メールアドレス:nakamori-taizo-gc@ynu.ac.jp

名古屋大学 特任助教 別所-上原 学
メールアドレス:bessho@bio.nagoya-u.ac.jp

中部大学 応用生物学部 教授 大場 裕一
メールアドレス:oba@isc.chubu.ac.jp

▼報道に関すること
横浜国立大学 総務企画部 リレーション推進課
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多摩六都科学館 パブリックリレーションズグループ
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