髙柳雄一館長のコラム

カレンダーにみる巡る時間

春になりました。今年の立春は2月4日。暦の上でも既に春を迎えたことになります。地上に暖かさをもたらす春を迎え、これからは戸外での活動も楽しめると、外出や旅行の計画を立て始めた方々も多いと思います。そんな時、カレンダーや手帳の月間予定表を見て、あらためて意識するのは2月の短い日数です。

今年は閏年ではありませんから2月は28日。4週間しかありません。この日数は1月、3月に比較すると、たった3日だけ少ないのですが、とても短く感じます。3日と言えば、2泊3日の小旅行も出来ますし、一週間の半分近くを占めています。他の月に比べて、2月を短く感じるのは当然です。子どもの頃、「2月は逃げる」と聞いたことを思い出します。

「2月は逃げる」と書きましたが、その際、同時に「3月は去る」もよく耳にした言葉です。3月は身の回りで年度内に完結すべき出来事も多く、時間に追われて過ごす忙しい月になります。いつの間にか終る3月、「3月は去る」も頷ける表現だと思います。

私たちの生活では年度内に処理しなければならない事柄も多く、そのための予定が2月、3月には目立って出現します。その際、カレンダーや月間予定表を眺めて気がつくことがあります。今年の様に2月が28日ですと、3月のカレンダーでも28日までは日付と曜日は2月と全く同じになっています。他の季節では日付と曜日が決まれば、何月かを容易に発見できますが、それが通用しない期間があることは、春の珍事の一つかもしれません。

2月と3月で日付と曜日が同じになるのは2月が28日になった年です。28日は曜日が繰り返す7日の丁度4倍で、その結果、2月1日の曜日は3月1日の曜日と同じになります。曜日と日付が一致するこの関係は、3月では、2月と対応できる28日まで続くことをカレンダーで確認してみてください。年度末の重要な3月の予定を曜日と日付だけを意識して、2月の月間予定表に記入したこともあります。それ以来、早春のカレンダーに潜むこの期間の存在には注意するようになりました。

過去から現在、そして未来へと一方向へ流れる時間を意識した人間は、生活する上で有効な時間を記録する方法を幾つも生み出してきました。そんな中で、昼と夜、月の満ち欠け、季節の変化など、周期的に繰り返す巡る時間を記録する暦の誕生は、時の流れを予測し、それを利用する人間活動にとっては大切な営みでした。暦の中でも、作物を栽培する農業の発展には、季節の変化をもたらす太陽の運行に基づく太陽暦は必要不可欠な暦でした。

カレンダーの歴史をみると、月の満ち欠けが示す1ヶ月を昼夜が生み出す日々の日数で示し、1年が365日になるように日数を配分した12の月を設けることで、現在の太陽暦からなるカレンダーが登場してきたことが分かります。2月が他の月に比べて日数が最少なのは、現在のカレンダーへと発展した古代ローマで採用された太陽暦で、採用時は2月が1年最後の月であり、1年が365日となる日数に調整された歴史的背景があるからです。

巡る時間と書きましたが、私たちは時間の流れを周期的サイクルとして捉えて利用しています。秒を基本単位として60秒を1分、60分で1時間とした時間の単位を設け、1日を24時間、1年を12ヶ月とした時間の計り方にもそれは見事に反映されています。注意したいのは、時間の単位で計ると1日は正確に24時間ではありません。その結果、1年も正確には365日とはなりません。季節の巡りに会わせてカレンダーの日付を維持して行くためには、時間の単位で割り切れない1日から派生する、カレンダーに表示されていない時間の調節処理が必要になっています。閏年の存在はそのことを物語っています。

現在私たちが利用しているカレンダーは、季節が巡る時間としての1年を12の月に分けて表示してあります。季節の巡りを更に詳しく意識した暦には、1年を24の節気に分けた暦もあります。冒頭に書いた立春はこの24節気から定められた日付です。

今回は、2019年春のカレンダーを眺めて、人間が利用している巡る時間としての春に思いを馳せて話してみました。この春、多摩六都科学館は開館25周年目を迎えます。25歳の誕生日を迎えた春の科学館で皆さんにお会いすることを楽しみにしています。




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OLYMPUS DIGITAL CAMERA高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)