髙柳雄一館長のコラム

年の瀬にみる時の姿

いつもバス通勤で通る吉祥寺駅北口の広場も、日の入りが早まった12月を迎えると、帰宅時の夕闇にはイルミネーションが一段と周りに映えて、年の瀬らしい世界になりました。

広場は11月初めから、ここで一番目を引く井の頭動物園で長寿を全うしたゾウの「はな子」の銅像に冬を意識した温かいマフラーが首に巻かれ、銅像の背後には屋根の煙突に雪を被る素敵なサンタクロースの家が建てられました。この不思議な光景は、出現以来、年末を迎えて急ぎ足で通る人々にも注意を喚起して来ました。そして今は、年の瀬の慌ただしさとも重なり、年末に感じる師走の加速した時の流れを目に見える形で示してくれます。

思い出すと、このコラムでは、毎年、12月には、時の流れに思いを馳せた話題を書いてきました。今回も、私たち人間が年の瀬になると目にする時の姿について感じたことを少しばかりお話してみたいと思います。

人間が目にする時の姿と書きましたが、考えてみると私たちは時間が存在していることを当然のこととして信じていますが、誰も時間そのものを見たことはないはずです。

目には見えない時間の経過そのものを、人間は目に見える世界の状態変化を見ることで理解しています。例えば、時間の経過も、時計の針の動きや移動結果から、そこに示された文字盤の数字の違いで把握しているはずです。そんな意味では、カレンダーの利用も、日月という時間の存在を、昼夜が繰り返す回数や、季節変化で体験し、その時間経過を人間社会で共通に把握するため人類が生み出した生活の知恵の成果だとみなすこともできます。

お陰で普段の生活では、時の経過を確認する際、私たちは時計やカレンダーを利用しています。そんな体験を考えるとき、私たちの存在とは関係なく過去から未来へと流れてゆく時間の存在を信じている人間は、日常の生活や社会的活動をしている際、それとは関わりを持たない時間の存在、時間の経過についてはあまり意識していないことにも気づかされます。

しかし、一方では、時間の経つのも忘れていたとか、こんなに時の経つのが速いとは思わなかった、と言う体験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?時間の存在、特にその経過を意識して、そんな時の流れに対する思い入れを持つときは、何か具体的な時の流れと関わった出来事と関係して時間の存在を印象付けられた時と言えるかもしれません。

人間の目では見えない時間の流れを、目で見える世界の状況変化を通して知ることで私たちが時の姿を把握していると考えると、私たち人間が、年の瀬になると、時間の流れ方に何故、特に敏感になるのか、ある程度は説明できるような気もします。年の瀬になると忘年会やクリスマスの集いや仕事納めなど、社会的な人間の営みと関わる時の姿に触れる機会も多くなります。そんな時、私たちは年の瀬の時の流れの姿に気づかされるのかもしれません。

時の流れと生活が深く関わる年末年始、一年で多彩な時の姿に出会う季節に皆さんが有意義な時の過ごし方をされることを願っています。


▲館庭展示の天文精密日時計。先端球の影の中心で日本標準時と地方恒星時が読める。
写真は2019年12月8日、8:56頃


▲エントランスホールもクリスマスモードでお出迎え






高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。 2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)