髙柳雄一館長のコラム

宇宙の起源に迫る科学者たち~宇宙背景放射(CMB)をご存知ですか?~

 宇宙のあらゆる方向から降り注ぐ宇宙背景放射と呼ばれるマイクロ波の存在が発見され、その観測成果が発表されたのは1965年です。超高温超高密度の火の玉状態から宇宙が誕生した言うビッグバン理論から火の玉状態の名残として予測される宇宙背景放射(CMB)の発見はビッグバン理論の正しさを示す有力な証拠となりました。
 その後、3つの観測衛星(※画像)による宇宙からの宇宙背景放射の全天観測で得られた成果を基に、ビッグバン理論が描く宇宙誕生のシナリオは火の玉状態以降の細部を具体的に語れるまでなってきています。そして今年3月、南極で観測された宇宙背景放射ではインフレーションと呼ばれる宇宙誕生時の急激な大膨張で発生した原始重力波の存在を示す証拠が発見されました。今後の観測で確認されれば、宇宙の始まりにインフレーションが起こっていた確かな証拠となり、宇宙誕生の起源に迫る科学の大きな前進を示すことになります。

三つの観測衛星 ビッグバン理論が描く火の玉状態以前に宇宙は急激な大膨張をしたと考える理論は1980年頃に現在自然科学研究機構の機構長を勤める佐藤勝彦博士とアメリカのアラン・グース博士がそれぞれ独立に提案しました。この理論はインフレーション理論として知られ、ビッグバン理論だけでは説明できない観測される宇宙に備わる性質を自然に導くものとして、現在多くの科学者に受け入れられています。
 宇宙背景放射の中にインフレーション理論から予測できる重力波の痕跡を観測し、インフレーション理論を実証することは、現在、宇宙の起源に迫る科学者たちの最大テーマの一つなのです。

 多摩六都科学館では、宇宙の起源に迫るこの最先端の研究で活躍中の科学者のお話を6月、7月に企画しています。
 まずお招きするのは、6月8日(日)に開かれる高エネルギー加速器研究機構(KEK)と当館との協定締結記念イベントの第1部「宇宙にはルールブックが存在する!~実験と観察でどこまで宇宙の始まりに迫れるか?~」でお話しいただく、KEK素粒子原子核研究所の羽澄昌史教授です。
 羽澄教授は南米チリのアタカマ山地にある標高5千メートルに設置された宇宙背景放射の観測装置で、これまでもインフレーション理論の証拠となる原始重力波の痕跡を探す観測をしてきた第一線の研究者です。何故、南極やチリの山地で宇宙背景放射を観測するのか?宇宙背景放射の中の原始重力波の痕跡とは何なのか、・・・宇宙の始まりに興味を持つ人々にとって最新の情報を現場の研究者から聞く素晴らしい機会になると思います。
 そして7月にお招きするのは、インフレーション理論の生みの親の一人、自然科学研究機構の佐藤勝彦機構長です。こちらは7月6日(日)のサイエンスカフェ宇宙2014「インフレーション理論、観測的実証への期待」でお話しいただきます。
宇宙に興味をお持ちの方々は是非とも奮ってご参加ください。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)