髙柳雄一館長のコラム

もう一つの地球探し

 太陽系外に存在している地球型の惑星探しが、ようやく本格的になってきたようです。この4月、そんな予感を感じさせる報告がアメリカ航空宇宙局エイムズ研究所で運営管理されている太陽系外惑星探査衛星ケプラーの観測成果として発表されました。 それによればケプラー衛星が観測した地球から500光年かなたにある表面温度4000度足らずの低温の星の周りに、地球と同じぐらいの大きさで地表に液体の水が存在できる範囲の距離に軌道がある惑星が発見されたと言うことです。この惑星は、これまでケプラー衛星で発見されていた地球型惑星が地球直径の1,4倍以上だったのに対して、1,1倍と推定されており、ほぼ地球と同じ大きさ、おまけに表面には液体の水の存在も期待できることから研究者たちは地球に最もよく似た惑星発見の第1号とみなしています。 ケプラー衛星は2009年3月6日に打ち上げられ、太陽を回る地球軌道上から、地球を追いかけて太陽を回り、太陽系外の惑星探査活動を続けてきました。この探査衛星の目標は、夏の夜空でおなじみの「はくちょう座」と「こと座」の一角に観測領域を固定し、領域内に位置する星々の中に存在する惑星を発見することでした。このため、衛星が持つ口径140センチの反射望遠鏡を三軸姿勢制御により観測領域に固定し、この領域内に位置する10万個以上の星からの光を同時に観測することができました。現在は姿勢制御トラブルで精密観測は出来なくなっていますが、昨年夏までの3年半に得られた大量の観測データの解析が進行中で、それに伴う新たな発見が今後も期待されています。この春の成果もその一つでした。

ケプラー衛星が発見したもう一つの地球の想像画

ケプラー衛星が発見したもう一つの地球の想像画(画像出典:NASA)

 膨大な数の星の光の観測から、ケプラー衛星が試みた太陽系外惑星の探し方をまとめておきます。それは、惑星を持つ星に期待される明るさの変化を捉えることです。観測している星に惑星が存在すると、この星の前面を惑星が通過することも起こり得ます。その際、条件が整えば、星の明るさの変化を観測できます。金星の太陽面通過を眺めた方は思い出してください。太陽を月が隠す皆既日食の方がもっと印象的かもしれませんね。ケプラー衛星が星の光を測定して発見しようとしているのは、こんな惑星の食を示す星でした。 ひとたび、惑星食が見つかると、食の様子から惑星の大きさや公転周期など、食を起こした惑星に関する情報がいくつも引き出せます。同時に、食を起こした星の位置が決まりますから、地上にある大型望遠鏡などによりさらに詳しい観測も可能になります。 太陽系外惑星探査で星の前面を惑星が通過する機会を発見する方法では、星からの光の変化さえ捉えられれば、小さな惑星の存在を探ることも可能です。太陽系外惑星の探査では、星の周りに存在する惑星の重力の影響で星がふらつくことから星の光に生ずるドップラー効果を利用する方法が最初は成果を重ねて大活躍しました。この場合、星に対して重力の効果を持つ惑星は、星に近い重い惑星に限定され、この方法で発見された惑星のほとんどが木星より大きな木星型惑星でした。これに対してケプラー衛星が試みた方法は地球型の小さい惑星を探すのにも優れた方法だったのです。今回、地球に最も良く似た惑星が発見できたのもそれを物語っています。

 この20年間、太陽系外に発見され科学的に確定した惑星の数は1800個ほどにもなりました。この中で中心の星からの距離が液体の水の存在を可能にする範囲の軌道にある惑星はまだ10個ほどしかありません。今回発見された惑星はその中で最も小さく地球とほぼ同じサイズでした。それが地球に最もよく似た惑星と認められた理由です。 この惑星、質量や組成は不明ですが、大きさからみると岩石質の惑星である可能性が高く、赤色矮星と呼ばれる太陽の半分ほどの質量の星の周りを回っています。これまで、この星の周りには五つの惑星が発見され、この惑星が一番外側の惑星であることも判明しています。そのため、この惑星が中心の星から受ける日差しは太陽の3分の1ほどしかありません。真昼でも地球の日没前ぐらいの明るさだと推定されています。この惑星だけが液体の水が存在できる範囲にある惑星ですが、大気の濃さや組成によって地表の温度は激しく変わり、必ずしも生命の存在に適した環境にあるとは限らないようです。もう一つの生命が存在する地球に、人類が出会うのもなかなか容易ではなさそうに思えますね。

 太陽系外の惑星発見で最初に大きな話題となったのは、1995年、「ペガスス座」51番星の周りに発見された木星サイズの大型の惑星でした。この惑星は中心にある星から太陽系との比較で言えば水星軌道よりもはるかに内側に入った軌道に位置を占め、星に近過ぎる木星型惑星として「ホット・ジュピター」と呼ばれました。それから20年近く経過し、これまで書いてきたように太陽系外に発見された惑星の数は増え続けています。 今回の地球に良く似た惑星の発見を知ると、宇宙の中で生命が存在できる環境を持った地球のような惑星の発見も今では不可能ではなさそうです。そんな宇宙科学の未来に思いを馳せるときいつも気にかかることがあります。今後、宇宙の中で発見される惑星の中で、地球の存在はどれだけありふれたものになるかと言うことです。 銀河系の中に、地球の様な文明が生まれる惑星はどのくらいあるのでしょうか、今後、宇宙で地球の様な惑星の存在はどう科学的に評価できるようになるのか、そんなことにも関係している疑問に果たして科学は最適な答えが見つけることが出来るのでしょうか、・・・。 今回の発見も、これまでの科学の歴史が物語るように、科学と言う人間の営みは答えを見つけるより、新たな疑問を生み出すほうが得意な面を際立たせているような気がしてなりません。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学 系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフ・プロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)