髙柳雄一館長のコラム

「日読みの酉」に思うこと

2017.01.01 08:00:54
テーマ:館長コラム 

 新年あけまして、おめでとうございます。新しい年を迎え、気持ちも新たに今年実現したい目標を定め、それを目指して計画を立て始めた方もいらっしゃると思います。元旦に頂いた年賀状をみると、今年は暦(こよみ)の十二支では酉(とり)の年に当たり、それを意識した文字や画像のレイアウトも楽しむことができました。

 暦(こよみ)で使われる酉(とり)を示す漢字は、私たちがよく使う鳥(とり)に比べて形も印象も異なる文字です。この文字は十二支と関係したときに登場する漢字です。日常生活で、時刻や方位を示す十二支をあまり使っていない現代の私たちにとって、酉(とり)と言う漢字はそれほど馴染みがありません。しかし、漢字には、この文字を組み合わせた酒という漢字など、色々な漢字の中に酉は登場しています。そんな時、この部分を「日読みの酉(とり)」と呼んでいます。神社のお祭では「一の酉」、「二の酉」と呼ばれる行事が行われる特別な日もあります。「日読みの酉」はまさにピッタリの表現です。
 十二支はネズミにはじまり、イノシシに終わる動物たちが登場するサイクルです。注意してみるとそれらの動物を示す漢字の多くは馴染みの薄いものが使われています。ネズミは子、ウシは丑、トラは寅、ウマは午、・・などを思いだして下さい。十二支の動物を示す漢字は、それが時刻や方位などの情報を持っていることを目立たせているのかもしれません。

 方位を示す十二支の例では、多摩六都科学館で昨年秋に展示されたキトラ古墳の壁画を思いだしてください。そこには四つの方位を示す聖なる神獣として東に青龍、北に玄武、西に白虎、南に朱雀が描かれており、その下に十二支の動物の顔をした人身が描かれていました。但し、古墳内部の保存状態の劣化で展示された十二支の人身像では寅の顔だけしか明確に見ることができませんでした。勿論、壁画が描かれたときには西壁の白虎の下に酉の顔をした人身像があったに違いありません。
 天体の運行を方位で知り、季節や時の流れを知った古代の人々が、方位と結びつく時の流れを、誰もが知っている動物を利用して仲間と共有できる知識としたことに気づくと、十二支は古代人の知恵の素晴らしさを物語っているようにも思えます。

 私たちの住む世界には目には見えないものがいくつもあります。時間の流れや、空間の方位もその一つです。「日読みの酉」が示す時の流れや方位は、目では見えないものを心で知る人間の知恵の表れかもしれません。
 「日読みの酉」は動物としては時を告げる鶏を示しています。それでは鶏はどのようにして時の流れを知るのだろうか?・・など、好奇心旺盛な人間は今年も新たな「ふしぎ」の解明と新たな「ふしぎ」の発見に努めるに違いありません。そんな科学の世界に触れられる場所として、皆さんに今年も多摩六都科学館をご利用頂ければと願っています。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)



年の瀬に気づく世界と科学の「ふしぎ」

2016.12.03 13:46:45
テーマ:館長コラム 

 年の瀬を迎えると、時の流れは巡るものとして目立つような気がします。人間が時間の流れを意識する際、昼夜や、季節の変化に現れる周期性を利用していることを考えると、私たちが年の瀬の時の流れに注目する理由も頷けます。年の瀬の時の流れで、もう一つ特徴的なのは、これも周期性と関係しますが、一年も終わりに近づき、そこに残された時間が目に見えて意識されることです。目に見える時はカレンダーだけではありません。クリスマスやお正月街の雰囲気が漂う街角の飾りつけまでもがその意識を高めてくれます。
 時間を意識する人間が、意識する状況で時の流れ方に異なる印象を持つことに気づくと私たちの世界は、それを見る人間の状況によっても見え方が異なる「ふしぎ」な世界かもしれません。今回のコラムは、子どもたちに科学の話題を話す際、いつも私が感じる「ふしぎ」な世界に迫る科学の営みに登場する「ふしぎ」について触れたいと思います。

 私たち人間は好奇心を持った生き物です。好奇心は、世界の多様な仕組みに潜んでいる「ふしぎ」を発見する心ですから、人間は世界に「ふしぎ」を発見する生き物であるとも言えます。そう考えると、私たちが住む世界に「ふしぎ」がいっぱいあるのは、人間がそれらを発見するからかもしれません。科学の営みは好奇心によって導かれます。その意味では、科学は世界に「ふしぎ」をいっぱい発見する営みにもなっているのです。
 科学は「ふしぎ」を発見するだけではありません。一般に科学は、これまで人間が出会った「ふしぎ」を解明し、その結果、人間が獲得した知識をまとめて発展してきました。科学の営みには「ふしぎ」を解明して人類が共通して利用できる知識を獲得することが重要な役割として課せられているのです。一般に科学の成果として知られているのは、科学が「ふしぎ」を解明した結果をまとめた科学的知識とそれを活かした技術の現れとも言えるでしょう。

 歴史的には、「ふしぎ」を発見し、「ふしぎ」を解明して発展してきた科学ですが、科学と「ふしぎ」にはさらに不思議な関係が伴います。科学が「ふしぎ」を解明すればするほど、一方で科学は、絶えず新しい「ふしぎ」を発見するからです。科学の歴史を人類が出会った「ふしぎ」の発見と「ふしぎ」の解明が互いに働き合ってきた成果の歴史とみることもできるでしょう。この過程で人間が世界でであう「ふしぎ」の数が減って来たのか、増えてきたのかは興味ある問題です。しかし、現在までの科学の歩みをみるかぎり、科学の歴史では、いつも新しい「ふしぎ」が登場して来ました。
 人間が科学と言う営みを続ける限り、科学が出会う「ふしぎ」は今後も絶えず増え続けるような気がしてなりません。科学館に来る子どもたちには、「ふしぎ」を解明した科学の知識に興味を持ち、同時に科学の発展に寄与する新たな「ふしぎ」も発見できる、そんな態度を身につける機会を少しでも多く提供したいと願っています。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)




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