髙柳雄一館長のコラム

時の姿をみる

12月になりました。日没の早さが気になり、夕方の駅前や街の広場では、色鮮やかなイルミネーションで描かれたクリスマスの飾りつけを仕事帰りに楽しむことができます。
役立つ日時も少なくなった今年のカレンダーを眺め、年内に残された日々の予定や行事を考えると日頃気にしなかった時の歩みの速さを意識させられます。
毎年、毎月、毎日、時の流れは同じはずなのに、なぜか年末になると時の流れが気になるのか不思議ですね。

uid000119_201212021508555907de4e ↑館内のクリスマスの飾り付け

多摩六都科学館に勤めて以来このコラムを書き続けてきました。その中で取り上げたテーマを振り返ると、12月と1月のコラムは、いつも時間について書いて きたような気がしています。年末年始という人間が決めた時間の区切りが、日頃、時の流れを意識しない人間に「時間」への注意を喚起するせいかもしれませ ん。
今回も「時間」のことを書いてみます。

今年は、天文現象の当たり年でした。
宇宙の話題が大好きな皆さんはすぐ思い出されたでしょう。
まずは、5月21日の朝、日本では25年ぶりに見られた金環日食です。朝早く、多摩六都科学館の駐車場に集まって、太陽が月に隠されて見せる金の輪をご覧になった方も多いことと思います。
次は6月6日に起こった金星の太陽面通過でした。こちらの方は生憎、関東地方では天候不順で見られなかった方が多いようです。
最後は8月14日の未明、金星の前を月が通過して金星を隠したいわゆる金星食でした。

uid000119_20121202151030bc06dc26 今年を振り天文現象を取り上げましたが、天文現象は「時間」のことを考えるとき、色々な視点を与えてくれます。天文現象はそれをどこで見るか「場所」が重要ですが、「場所」が決まると、地点によってその現象が見える「時間」、むしろ時刻が決まります。
天文現象は「時間」を指定しないと確定できません。
今回の金環日食が日本で25年振り、次回の金星の太陽面通過は2117年11月12日となるとか言われることが、そのことを示しているでしょう。
天文現象は人間に時間を意識させる宇宙からの贈り物とも言えるのです。

uid000119_20121202151134dba16af4 ↑1987年9月23日(沖縄)以降25年ぶり。次回は18年後、2030年6月1日(北海道)。

人間は時間を使ったり、時間に追われて生活したりしていますから、時間の存在を認めていると言えます。 しかし、時間とは一体何でしょう。 存在を認めているのに姿を見ることができない不思議な存在です。
しかし、それが流れていることは、時計がなくとも時間で姿を変えてゆく現象から判断できます。 天文現象は宇宙の遠い世界の出来事ですが、その変化は見事に時間の流れを示す存在です。宇宙にある物質は生成し消滅して行きますが、それは時の姿でもあるのです。
宇宙を見るとき、私たちは時間を見ているとよく言われます。 地上の世界も勿論、この宇宙の中にあり、その関係は変わりません。12月になって、時の巡りに合せて変化する人間社会の年末光景も、地上での時の姿を示しているのだと考えると愉快になります。

クリスマスとお正月を迎える月、12月を子供たちは楽しく使い、大人は予定と行事に追われ、12月に使われていると思うことがあります。 12月、時間に使われていると感じたとき、宇宙からの視点を使って、そんなことを思い出してみては如何でしょう。

——————–

髙柳雄一館長
高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学 系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフ・プロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)