夜の照明が私たちの生活を支えていることを考えると、都会の夜空から暗闇が減っていくのもうなずけますが、無駄な照明をできるだけ避けて欲しいと感じることもあります。
地球の夜空が闇を失うことで、生活リズムが狂うのは人間ばかりではありません。動植物も生息環境が変化し、夜間の光による生態系の被害も報告されています。地球の夜空が人工の光から受ける環境被害を光害(ひかりがい)と呼んでいます。光の害は星の研究者や天文愛好家ばかりが被っているとは言えないのです。
星座の中に見える星の数を世界各地から報告してもらうことで、夜空の明るさを地球規模で調べる国際的観察キャンペーンがあることを知りました。地球規模で考えるとき、「グローバルに見ると」と言いますが、英語の「グローブ」は地球を意味しますので「夜の地球」を観察するこのキャンペーンは「グローブ・アト・ナイト」と呼ばれています。興味をお持ちの方はインターネット検索で「Globe at Night」と「光害」などと入力すると日本語のウェブサイトで活動内容を詳しく知ることができます。
このキャンペーンは2006年、アメリカ国立光学天文台が中心になって始めたものです。2009年には「世界天文年」の取り組みとなり、国際天文学連合、ユネスコなどの事業の一つになり、その後は毎年実施される国際的キャンペーンとして定着しています。昨年は92カ国から1万6,850件もの観察報告が集められ、世界地図の中に比較された夜空の明るさ分布が記されています。
このキャンペーンで星の数を観察する星座は、開始以来、世界の多くの場所で比較的見つけやすい「オリオン座」が選ばれてきました。世界中から観察報告を求める期間は、肉眼で夜空の星を見つける邪魔になる月明かりを避けています。今年は1月3日~12日、1月31日~2月9日、3月3日~12日になっています。星座としては昨年から春の星座「しし座」による観察報告期間も設けられています。
昨年、報告が多かった国はキャンペーンが始まったアメリカからで6,000件以上、次はインドでおよそ2,500件もありました。以下、ポーランド、アルゼンチン、ドイツ、韓国、中国、チリ、クロアチア、ルーマニアと続き、日本からも85件が報告されています。
地上で、世界中の市民が参加する夜空の明るさを知る試みは、光害の状況をお互いに意識し、過剰で不必要な人工照明の使用を控えるキャンペーンになることも期待できます。
最後に、地上でみる地球の夜空観察に対して、衛星が捉えた宇宙から見た地球の夜の明るさ分布をご覧に入れましょう。
いずれもNASAの地球観測ウェブサイトから見つけたものです。ここに示した宇宙から見る地球は夜側を捉えた画像ですが、地球上で人間が多く活動する地域が光の広がりと連なりで見事に示されています。
最後に宇宙から見たインド大陸を入れておきました。インドから2500件も「オリオン座」の観察報告があったことを考えると興味深く見ることもできるでしょう。

今回は、地上からみる夜空と宇宙から見る夜空の話題をご紹介しました。現代に住む私たちが楽しめる天地明察の試みかもしれませんね。
そんなことを思いながら、今夜も晴れたら冬の星空を楽しんでください。

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)
1939 年4月富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学 系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフ・プロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。
2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)