ロクトリポート

『サイエンスエッグで「きく」! 音で「みえる」世界?』を開催しました!

音で「みえる」世界?

2024年3月9日(土)に開館30周年記念イベントととして、『サイエンスエッグで「きく」! 音で「みえる」世界?』を開催しました。

こんな不思議な広報文でしたが、139人の方が参加してくれました。

プラネタリウムというと普通は星を「みる」場所ですが、今回は「きく」ことにスポットをあてた実験的なイベントを開催しました。実は、多摩六都科学館のプラネタリウムドームの音響はサラウンドシステムと言ってスピーカー8個(+低い音用2個)が大きなドームを囲むように並んでいます。それぞれのスピーカーから音が出ると、音に囲まれ、臨場感を感じることができます。さらに、ドームは天井が丸いので音の反響が複雑です。こんな特殊な環境で音の実験に挑戦しました。

「聴く」準備運動

最初に、サラウンドシステムのサウンドチェックの為のテストの音を聴きました。一つ一つのスピーカーの位置をみなさん、目で追いながら耳を傾けていました、

スピーカーの位置と個数が分かったあとは耳を澄まして音に集中しました。準備運動として3つのステップを用意しました。
①夕方はどっち?
②どこの足音?
③きこえない音をきいてみよう

①夕方はどっち?
ある夏の日、多摩六都科学館の館庭で録音をしました。朝の9時ごろと夕方6時ごろの2回録音していて、聴き比べをして、どちらが夕方の音か?というクイズです。

ほとんどの方が正解したのには驚きました。みなさん、無意識的にも時間帯で聞こえる虫の声の違いに気づいているんだとわかりました。

②どこの足音?
スタッフが様々な場所を歩いている足音だけをきいてもらい、季節、どんな場所か、どんな道か、というのを想像してもらいました。虫の鳴き声、鳥の鳴き声、風の音、踏みしめている音、広い空間の音などなど、音にはたくさんの情報が含まれています。

どんな場所、季節の足音なのか答えを見て、写真を見ながらもう一度音を聴いてみると、みなさん納得したり、驚いたり、最初に気づかなかった音に気づいたりしている様子でした。

きこえない音を「聴く」

③きこえない音をきいてみよう-1
いつもはきこえないような小さな音、ダンゴムシなどの虫の足音を特殊なマイクで録音した音を大きくしてみんなで聴きました。最初は音だけを体感してもらい、途中から動画も一緒に体感してもらいました。

普段の生活では、気づけない、気づかない音があることを知ってもらう機会になりました。

ここで、天文スタッフにバトンタッチ!

きこえない音をきいてみよう-2
つづいては、「宇宙の音」をみなさんに聴いていただきました。

なぜ宇宙では音がきこえないのか、というお話のあと、まずは実際に観測された「ブラックホールの音」を聴きました。これは、地球まで届かないだけで、音が響いている場所が宇宙のどこかにはあるはずだと考えた研究者たちが見つけた実際の宇宙の音です。
※ただし、ヒトの耳できこえるように音を高くしたものを聴きました

私たちがどんなに耳をすませても聴くことができなかった音も、今では研究によって聴けるようになっていることを知っていただけたと思います。

音で「みる」世界

宇宙に響く音を聴いたあとは、音ではないデータをきく「ソニフィケーション」の試みを紹介しました。

天文学では、音に含まれる「高い音・低い音」「大きな音・小さな音」「音色」といったたくさんの情報を上手く使って、観測したデータを音に置き換えて聴くという取り組みが進んでいます。
天の川銀河の画像を音で聴く体験のあと、最後にはとある天体の写真を変換した音だけを聴いてどんな天体かを想像してもらいました。「さすがに難しすぎる…」と会場がざわつきましたが、みなさんのアイディアや感想で取り上げてくださった方も多かったようで、嬉しかったです。

みなさんのアイディアと感想

今回は参加者のみなさんと一緒にイベントをつくっていきたかったので、イベント中にメモができるようにボードや付箋を配りました。私たちの想像以上に、おもしろいアイディアや感想がたくさん集まり、スタッフのやる気が爆上がりしました!イベント中に共有する時間が足りなかったので、ここで共有したいと思います。

まずは感想から。※写真をクリック(タップ)するとすべての感想をみることができます

つぎはこんな音が聞いてみたい。や、こんなことをしたらおもしろそう。という、みなさんからのアイディアです。※写真をクリック(タップ)するとすべてのアイディアをみることができます

休憩時間中に、みなさんがたくさん付箋を貼りにきてくれました。

担当スタッフの感想

今回は3人で企画を練っていきました。

去年の4月ごろ、2人のスタッフが立ち話で「プラネタリウムドームであえて音っておもしろそう!」「やってみたい」となり、館長にも相談し具体的にしていきました。構想・企画期間としては約1年間。音イベントを振り返りそれぞれの感想をつづります。

【理工グループ 佐々木:前半の「きく」ための準備運動担当】
ご参加頂いたみなさまありがとうございました!ドームで、あの人数で同じ音を(座っている場所でも聞こえ方が違ったかもですが)一緒に体験できたことはとても貴重でした。みなさんの感想を読んでいると、「同じ音でも感じ方は人によってここまで違うのか。」と、改めて驚きました。また、みなさんそれぞれに新たな発見や疑問がうまれたようで、嬉しかったです。
今回、私はドームでイベントをするのが初めての経験だったので、なにもかもが新鮮で楽しかったです。サラウンドシステム用に音を編集することも初めてだったので、スピーカーの位置を考えながら音を分解していく作業は難しくもあり、おもしろくもありました。どんな音をつくるとドームで効果的にきこえるのか繰り返し実験をしてきましたが、本番でお客さんがたくさん入った状態だと、いろいろなところで音が吸収されるからなのか、反響や音量がかわり予備実験とは違う音になっていたのには驚きました。
みなさんからたくさんのとてもおもしろいアイディアを頂いたので、またいつか、第二回を開催できるようにがんばります!

【天文グループ 直江:後半の宇宙の音などを担当】
今回のイベントを企画する前から、せっかくのプラネタリウムドームを「星」を「みる」以外のことにも活用したい!という思いがありました。
ある日の「ダンゴムシの足音を大きなドームで聴いたら面白そうですね!」というごく個人的な立ち話から約1年。とてもたくさんの方に協力をしていただき、開館30周年という節目のタイミングでイベントを実現できたことをとても嬉しく思います。
普段からプラネタリウムで仕事をしている私は、さまざまな方向に設置されたスピーカーから音が鳴ることにも、丸い天井のせいで不思議な響き方をすることにも、良くも悪くもすっかり慣れてしまっていたので、今回一緒にイベントを進めたスタッフや、参加してくださったみなさんの気づきや感想すべてがとても新鮮でした。

これからも、個性豊かな多摩六都科学館のスタッフの取り組みを紹介したり、興味を持っていることをみなさんと共有できるような場を作っていきたいと思います。

【館長 高柳:企画に興味をもち、準備から本番まで担当者として参加】

夜間、室内にいて救急車のサイレンを聞くと、近づき遠ざかる音源の移動を想像してしまいます。私たちは起きている限り身の回りの状況を知るために五感を働かせていますが、視覚情報が乏しい環境では、時には聴覚でしか判断できない情報もあることに気づかされます。
テレビ番組を演出していた時、アリゾナにあるキットピーク天文台を取材して望遠鏡で探る宇宙を放送したことがあります。その際、天文台が位置する山の上で夏の夜空の天の川を見せる場面もありました。天の川を形成する糠星とも言われる星々を撮影するのに努力しました。
その際、帰国後、美しい夜空のもとにアリゾナの山上に広がる地上の世界を視聴者に感じて頂くために、音響効果担当者がアリゾナ・コオロギの虫の音を加えて地上の季節と場所に関する情報を付け加えたことも思い出します。
星空の中での、音で「みえる」世界に関する体験は尽きません。次の機会にもめぐり合うことを期待して、私の感想にいたします。