ロクトリポート

【時計の中に広がる宇宙~天体時計開発裏話~】を開催しました

2022年6月11日(土)に上原秀夫さんをお招きした講演会【時計の中に広がる宇宙~天体時計開発裏話~】を、サイエンスエッグにて開催しました。講師の上原さんは「天体時計設計家」として、これまで多くの時計を設計されてきました。

多摩六都科学館の館庭にある天文精密日時計もそのひとつです。日時計では見た目の太陽の動きによる影の変化で時刻を読み取りますが、地上では地球大気の影響(大気差)で正確な太陽の位置を掴むのは難しく、普通の日時計で正確な時刻を知ることは困難です。地表付近では特にその影響は大きく、太陽は実際の高さよりも浮かび上がって見えるため、日の出と日の入りの時刻も正確に読み取ることはできません。

上原さんはこの大気差を補正した正確な日の出時刻や日の入り時刻だけでなく、地方恒星時、均時差、太陽の方位と高度、太陽の赤経と赤緯といった、様々な情報を正確に知ることができる天文精密日時計を設計されたのです。

上原さんが設計された天体時計はこのような大きな精密日時計に限りません。1984年の「初代ムーンサイン」(月の満ち欠けに加え月と太陽の動きまで表示する機能を備えた天体時計)に始まり、それに続く「コスモサイン」のような腕時計、置時計や掛時計、更にはペーパークラフトに至るまで、天体表示を兼ね備えた様々な時計を世に出されました。

※上原さんが開発されてきた商品一覧(pdfファイル)

上原さんの時計たちは超精密天文時計「ASTRODEA」シリーズとして、様々な機能・情報が追加されていきます。スペクトル別に色分け表示された恒星、黄道、天の赤道、星座境界線、星座名、星雲や星団の位置情報など…天文愛好家でもある上原さんによって進化を遂げてきました。上原さんの提案による天体時計専用の新しいブランド「ASTRODEA」は、デザインや機能の点で一歩進んだ天体時計シリーズなのです。

「ASTRODEA」は『astronomical diagram from the earth(地球から見た天体図表)』を語源とし、その名の通りの精密かつ正確な天体の図表は、小さな腕時計の中にも再現されています。

これを可能にしたのは、座標計算のための各種計算式等を含む天文知識、天体運行速度に極めて近い高精度近似歯数輪列を備えた設計、天体表示ならびに初期合わせのための各種目盛を入れた設計、色彩形状のバランス感覚に優れたレイアウト技術であることも語られました。

講演会では、このようにこれまで設計してきた時計とそこから読み取る情報についてはもちろん、天文ライフが始まった学生時代のお話から、シチズン時計株式会社にて天体時計の設計に携わることになった経緯まで、幅広く語っていただきました。今回はお話に合わせてプラネタリウムの演出を活用し、時計の文字盤に表記されている数字や線の意味についての補助説明をすることもできました。

後半では、ライターの高井智世さんを聞き役に迎え、トーク形式でお話を伺いました。
高井さんは【時計専門の編集ライターから見た“コスモサインここがすごい!”】と題し、「シンプルな機構の設計」「星座盤としての正確さ」「40年近く愛され続けるロングセラー」という3つの観点から、コスモサインの魅力について上原さんにお話を聞いてくださいました。

お二人の前のテーブルには、ファンにはたまらない「コスモサインシリーズ」の腕時計たちが並べられています。その隣に設置されているのは、講演会でもご紹介があった上原さんが1993 年に完成させた自作の「口径16cm・携帯型反射望遠鏡」です。都会派感覚で持ち運べる中口径の望遠鏡として、隣にある特製ケースの中に収納できるしくみになっています。上原さんが関わられてきた2つのテーマを代表する天体望遠鏡と時計を傍において、トークが始まりました。

前述した3つの観点に沿う形で、時計設計者と天文愛好家の両視点からこだわりぬいたシンプルな構造、正確精緻な天体表示、追求された機能デザインについても言及しながら、上原さんのお話が進みました。トークの中ではお二人のお話に合わせて、時計の機能や読み取る情報をプラネタリウムでも再現しています。

実は以前、高井さんから

『コスモサインの機能をプラネタリウムで再現できませんか?』

とご相談を受けたことがあります。当時はそれが難しく「今後検討します」とお返事したのですが、それから数年が経ち、なんと上原さんご本人のお力添えにより実現することができたのです。これは私たちとしても大変嬉しいことでした。

そして、コスモサインシリーズは現在も引き継がれ、シチズンの人気モデルとして40年近くも愛されるロングセラーとなっていることが高井さんから改めて紹介されました。上原さんが生み出し、大切に進化させてきた天体時計は、非常に長い期間にわたり多くの人々を魅了しているのです。本イベントにご参加いただいた多くの方にも、その理由をご納得いただけたのではないでしょうか。

【カンパノラ】開発ストーリー コスモサイン設計者が語る「コスモサインの制作秘話」|星空を再現するコスモサイン 星座盤の魅力|カンパノラ|シチズン時計

最後に、参加者のみなさまから予めいただいた質問を高井さんが代読されました。質問はいくつかありましたが、その中のひとつ「商品名の由来」について、上原さんのご回答をご紹介します。

『サインというのは、シグナルという意味で、「ムーンサイン」は、月からのシグナル、「コスモサイン」は宇宙からのシグナルという意味です。』

上原さんが生み出した時計にはその名の通り、月のリズム、宇宙のリズムが正確に刻まれているのです。そしてその月や宇宙からのシグナルをキャッチできる時計だからこそ、現在も多くの方が魅力を感じ続けるのではないでしょうか。また、腕時計のチーフデザインマネージャーを務められた大場晴也氏(シチズン時計株式会社)は、以下のように語られています。

『上原さんだから成し得たことだと思いますよ。時計の設計知識とか設計ができる人が天文に精通していて、同じ人がそれをできるというのは、まったくもう珍しいことだと思います。稀有な例です。』

【カンパノラ】開発ストーリー コスモサイン設計者とチーフデザインマネージャーが語る「月齢盤モデルの制作秘話」|月の満ち欠けを再現したカンパノラ コスモサイン 月齢盤の魅力|カンパノラ|シチズン時計

時計の設計者でもあり、天文愛好家でもある上原さんだからこそ実現できた天体時計の数々。今回の講演会では、天体時計の機能を紹介するだけでなく、その向こう側にある天体時計への想いや熱意を感じることができました。これから上原さんの天体時計を目にする時には、「宇宙からのサイン」をぜひキャッチしてください!

参考
【CAMPANOLA 月星座ウオッチ 取扱説明書】
【CAMPANOLA 月齢ウオッチ 取扱説明書】