ロクトリポート

はやぶさ2が帰ってくる! 大型映像REBORN特集 2.探査の難関

小惑星リュウグウに行った探査機「はやぶさ2」が、いよいよ地球に帰ってきます。旅の様子を描いた大型映像「HAYABUSA2〜REBORN」を多摩六都科学館でも上映中ですが、もうご覧になりましたか?

10月16日、「HAYABUSA2〜REBORN」の上坂 浩光(こうさか ひろみつ)監督が上映前挨拶に来館されました。

12月6日の「はやぶさ2」帰還を目前に、なんと「HAYABUSA2〜REBORN(以下REBORN)」は映画館でも上映されています。そこで上坂監督に、探査機「はやぶさ2」、そしてプラネタリウム用REBORNと劇場版REBORNについて語っていただきました。
3日連続でたっぷりお届けします。

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1  決意したとき ― 作品づくり ―
(2020.12.2)

2 「はやぶさ2」は順調だった?? ― 探査の難関 ―
(2020.12.3) ★今日はこれ!

3 帰還を前に思うこと ― フルドーム版と劇場版 ―
(2020.12.4)
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奇しくも6年前の今日、2014年12月3日、13時22分4秒に種子島宇宙センターから打ち上げられた「はやぶさ2」。インタビュー2日目の今日は「はやぶさ2」の探査についてです。順調に探査を進めた(ように見える)「はやぶさ2」ですが、その裏側では……

  探査機「はやぶさ2」が乗り越えた困難

―― 小惑星イトカワでトラブルを多々乗り越えたはやぶさ初号機に比べると、「はやぶさ2」は大きなトラブルがないようですが…?

上 坂「はやぶさ2も、実はすごい困難があったんですよ。まずリュウグウに平らな場所がなかった。これは想定外なので、全く。そういうところに着地する設計がなされていなかったということなんですよね。これ、みんな「ふーん」と簡単に思うかもしれないけど非常に大変なことで。だから、そういうでこぼこなところに着陸できる技術を、到着してから開発していく必要があった。タッチダウンの精度を上げたりね」

 ―■―   こぼれ話 ピンポイントタッチダウン?

上 坂「ターゲットマーカー(※着陸時に目印にするボール状のもの)を落としてそれを目印に降りていくピンポイントタッチダウンという方法は、はじめから使う予定はなかったんですよね。はじめは単に、予測して降りていく、計算でこの辺の場所に降りていく、ぐらいの感じだった。
ピンポイントタッチダウンは、ターゲットマーカーの位置を、はやぶさ2が自分で判断しながら降りていきます。これは人口クレーターを作り、そこに降りていく時に精度が必要だから用意されていた技術なんです。しかしそれをはじめから使わざるを得なくなった。しかも本当はターゲットマーカーをひとつじゃなく複数置いて降りていく計画でした。でも実際にはひとつしかつ使っていません。複数のターゲットマーカーを使った場合、誤って認識しちゃうととんでもない方向に行っちゃう可能性がある…ふたつのターゲットマーカーをA、Bだとしたら、どっちがどっちなのかを常に把握していないと、クルッて反転してしまうでしょ、だから、1個だけにしたんですね。
そういうやり方ををリュウグウに着いてから考えなきゃいけなかった。だから大変なことですよね」

・・・・・・・・・・  ―■― 

上 坂「あとは、どこに降りたらいいか綿密に調べる必要があった。イトカワみたいに明らかに平らなところがあるならそこに行けばいいんですけど、リュウグウは岩の高さを全部調べて、サンプラーホーン(※本体の下に長く伸びた、小惑星にタッチする部分)の長さ1m以下の、70cmくらいの岩の場所を探さなければいけなかった。はやぶさ2の下にはちょっと出っ張っているところがあるので、1mじゃだめなんです。
しかも、ピンポイントタッチダウンの精度は直径20mだったの、その位の広さに渡って大きな岩がない場所を探す必要があったんですね。探していくと、そういう場所が運良く見つかったんですが、そこにターゲットマーカーを落としたら、作品を見てもわかるようにターゲットマーカーがずれちゃった。これだと正確に降りられないかもしれないということになったわけです」

 ―■―   こぼれ話 ターゲットマーカーから遠いとだめ??
上 坂「上から見てターゲットマーカーが視野に入っていたとしても、降りていく場所からターゲットマーカーが離れすぎていると、降りてくると視野から外れてしまいます。そうすると目標を見失ってしまい、どこに降りたらいいかわからないということになってしまうわけです。じゃあもう一度、別のターゲットマーカーを落とすかということも考えられるけど、前に説明したようにターゲットマーカーがいくつもあると誤認識する可能性があり、それもできなかった。ここにもすごい葛藤があったのです」

・・・・・・・・・・  ―■― 

上 坂「それで仕方なくターゲットマーカーの周りを探すとそばに直径6mのエリアが見つかった。でもはじめ想定されていた20mの精度だと、そこには降りられないんですよね。だから、スラスタ(※姿勢制御などに使う。作中ではスプレーのように表現されている)を噴くタイミングとか、そういうものをうまくコントロールして、着陸精度をあげる必要があったのです」

 ―■―   こぼれ話 スラスタの精度を上げる???
上 坂「ちょっと細かい話をすると、はやぶさ2のなかにはプログラムが入っているんです。この場所に移動しなさい、って命令を与えると、スラスタを自動で噴いてそこまで動いていく。そのプログラムをより精度が高いように書き換えるということはできないんです。ただ、スラスタの噴く時間を調整することによって、その精度を上げていくことができる。これには沢山の試行錯誤が必要でした。はやぶさ2は幾度も試験的降下していった中で、このような試行錯誤をしていたんです」

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上 坂「映像を見てもらうとわかるんだけど、時々シュシュッて噴いている。ああやって微妙なコントロールをしているんですね。

で、さらにリュウグウは場所によって重力が違うんです。重力が違うと降下スピードに影響が出て、スラスタを噴く時間も調整する必要がある。地球のように大きな天体ではどの場所でもあまり重力は変わりませんが、リュウグウは全体が小さいので、ちょっと大きな岩があるだけで、重力の変化量が大きいのです。なので、JAXAの人たちははじめに場所ごとの重力を調べてそれを考慮してコントロールしていきました。精度よく降りるっていうのは大変だったわけです」

――「はやぶさ2」が無事に動くには、運用する人たちの試行錯誤があったのですね。さて、この「はやぶさ2」の姿を描いた「HAYABUSA2〜REBORN」は、プラネタリウムにとどまらず映画館でも公開されています。しかもプラネタリウムと映画館では内容が違うらしい!? このインタビューは、 明日12月4日(金)のお昼12:06 に公開です!

  おまけ
ペガロクもインタビューに挑戦しました。はたして…

上坂監督にペガロクインタビュー

ペガロク「上坂カントクこんにちは! ……カントクって、なにペガ?」

上 坂     「映画を作るときに、その全部を、まとめる人です。いろんな人が関わるんだけど、みんなにものを頼んで、それをまとめて、一個のものを作るってことですね」

ペガロク「なるほどペガ。はやぶさ2は、なにペガ?」

上 坂     「あ、はやぶさ2って何かを知らないってこと? えっと、それははやぶさを引き継いだ、とかの話じゃなくって、ってことだね?
はやぶさ2っていうのは、自分で考える力を持っていて、リュウグウに行って、自分の判断で、ちゃんとタッチダウンして、かけらをとって、帰ってきた、探査機です」

ペガロク「おー、すごいペガ」

上 坂     「すごい」

ペガロク「でも、映画は、僕にはちょっと難しそうペガ……」

上 坂     「いや大丈夫、全部わかんなくていいの。リュウグウに行って、いっしょうけんめい何かやって帰ってきたんだな、って。それをやってるのはみんなの想いなんだなっていうのがわかってくれれば、それで十分だと思います」

ペガロク「見てみるペガ♪」

    上映情報    

HAYABUSA2〜REBORN フルドーム版(プラネタリウムドーム用 ノーカット 43 分)
多摩六都科学館で上映中。東日本最大27.5mのドームスクリーンでご覧ください。★詳細

HAYABUSA2〜REBORN 劇場版(映画館用 77 分)
各地映画館で上映中。★予告編・作品詳細はこちら

上坂 浩光(こうさかひろみつ)氏

イラストレーター、アニメーターなど手書きの映像制作を経歴の出発点とするが、CG黎明期のころから、独自に3Dソフトウェアーを開発し、CG映像制作を行ってきた。1997年有限会社ライブを設立。CM、ゲーム映像、フルドーム映像など、その制作分野は多岐に渡る。2009年、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還を描いた『HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-』は、全国のプラネタリウムで上映され大ヒット。数々の賞に輝いた。その後も数々のフルドーム映像作品を制作している。