ロクトリポート

5/28(土)開催 ロクトサイエンスレクチャー宇宙科学奨励賞受賞記念講演 ~講演会でお答えできなかった質問の回答を頂きました!~

5/28(土)、多摩六都科学館 サイエンスエッグにて講演会が開催されました!

コロナ禍で中止が続いていた講演会も、少しずつリアルで開催ができるようになってきました。

この日のイベントは、

「ロクトサイエンスレクチャー 宇宙科学奨励賞受賞記念講演」です。

宇宙科学奨励賞とは、公益財団法人 宇宙科学振興会の研究者支援事業です。この事業は宇宙科学分野で優れた研究を行っている若手の研究者を顕彰する目的で行われています。毎年、宇宙理学分野と宇宙工学分野の2つの分野で各1名の研究者が顕彰されます。多摩六都科学館では、受賞された研究者のお二方をお招きして一般向けにご講演を頂いています。

今回の講演会は宇宙理学分野での受賞をされた、JAXA宇宙科学研究所 准教授 鳥海 森(とりうみ しん)先生です。

<高柳館長と鳥海先生>

<会場の様子>

講演会のタイトルは

「太陽と星をつなぐ 〜観測とシミュレーションで挑む巨大フレアの謎〜」 

鳥海先生のご専門はズバリ「太陽」!太陽の磁場活動や、数値シミュレーションがご専門です。

鳥海先生は数値シミュレーションを使用して複雑な黒点の磁場活動を再現を行い、フレアやコロナといった現象のメカニズム解明に挑んでいます。また、次世代の太陽観測衛星のプロジェクトについてもご紹介いただきました。

質疑応答のお時間には大変多くの質問が集まり、残念ながらすべてにお答えいただくことができませんでした。

しかし! 鳥海先生のご厚意で、みなさまからのご質問に後日お答え頂くことができました!こちらのページでQ&Aを公開させて頂きます。

講演会にお越しでないみなさまも、興味深い内容に感じられるのではないかと思います。ぜひご覧ください。

★34件の質問にご回答いただきました。(内容の重複しているものもございます。)

★質問の内容は頂いた原文のまま掲載しています。

Q, じしんとどう関係あるの?

A, 太陽の活動と地球の地震については、「関係性がある」と考える科学者も確かにいるようです。しかし、多くの研究者は否定的です。

Q, 先日NHK-BSのコズミックフロントという番組で太陽磁場対流シミュレーションの話題を見ました。このシミュレーションが黒点やフレアの予測につながり、被害予測できる見込みはありますか?

A, 講演でご紹介した「対流によって磁場が押し上げられる」シミュレーションは、コズミックフロントに出演した千葉大学・堀田英之准教授の計算コードを使用した成果です。現在、太陽でどのような対流があると磁束が作られるのか、どのような磁束があるとフレアを起こすような黒点が作られるのか、などの謎に挑戦しています。これらの研究が進むと、いずれ黒点やフレアの予測にも繋がるのではないかと期待しています。

Q, 黒点消失のメカニズムとはどのようなものですか?

A, 太陽表面に出現した黒点は、周囲に存在する対流によって磁束が徐々にはぎ取られることで崩壊していきます。

Q, R2D2のようなコードはなぜ内部構造がわからないのに開発できるのか?

A, 太陽内部がどのような温度や密度かという大まかな状態は、日震学という、太陽内部を地震学のように調べる方法によってある程度わかっています。また、太陽内部からどれほどのエネルギーが生じているのかも、太陽の放つ光の強さを測定することで分かります。そこで、シミュレーションボックスに、日震学で得られた大まかな構造を用意し、ボックスの下部から、太陽の放つエネルギーを注入することで、太陽内部の対流を作っています。

Q, ‟その場”観測の良さとは何ですか?

A, 例えば、光(電磁波)による観測では、視線方向に光が重なりあってしまい、ピンポイントの情報(ある点の密度や速度など)を得ることが困難です。それに対して「その場」観測であれば、実際に各点ごとに密度や速度などを測定することができます。また、そもそも光が強くない場所(太陽から離れた宇宙空間)では、光を使った観測は難しくなるため、「その場」観測をするしか方法が無い場合もあります。

Q, 黒点自体はフレアの熱によって温度は上がらないのか

A, 太陽フレアにともなって、上空のコロナから高エネルギーの電子が太陽表面に降り注ぐと、表面付近の温度が上昇することがあります。フレアのムービーで「彩層」が帯状に明るく輝いている構造がそれです。

Q, なぜ太陽の黒点は小さいのか

A, これは難しい問題です。太陽と、太陽と似ているけれども大きな黒点を持つ星では、内部の磁場を作る仕組み(ダイナモ)が違っているのかもしれませんが、まだよく分かっていません。

Q, 巨大フレアが発生すると電気系がダメになると言われるが、この原因をもう少しく細かく説明してほしい。

(以下、同様の質問を1件頂きました)

(Q, 電波障害の起こる事は分かりました。停電はなぜ発生するのですか?)

A, 太陽フレアにともなって、太陽から磁場をともなったプラズマの塊が地球に飛来することがあります(コロナ質量放出)。それによって地球の磁場が乱される(磁気嵐)と、特に高緯度地方の送電線などに過大な電流が流れることがあります。これは、コイルに磁石を近づけたり遠ざけたりすると発生する「誘導電流」に似た仕組みです(地磁気誘導電流と呼ばれる)。予め想定された以上の強い電流が流れると、変圧器に負荷がかかってしまい、故障してしまう可能性があります。過去には実際に停電などの被害が起きたことがありました。

Q, 本来目に見えない磁場の強度、向きはどのように観測するのですか

A, 黒点など、太陽表面の磁場の測定には、光(電磁波)の性質の1つである「偏光」を使っています。電磁波は電場(と磁場)をともなった横波として進みます。通常の電磁波では、電場の振動方向はランダムですが、黒点などの磁場が存在する場合は振動方向が揃う(偏光する)ようになります。そこで、偏光の度合いを測定することで、磁場の向きや傾きを算出することができます。

Q, 磁束管というのは目には見えないものだと思いますが、実際には物質的にはどうなっているのですか。磁束管が浮いてくる、表面から飛び出るとは物質としては何が起こっているのですか?

A, 太陽はほとんどが水素でできていますが、温度が非常に高いため、水素を構成する電子と陽子がバラバラに運動する「プラズマ」状態にあります。プラズマの重要な性質として、電気を流し、磁場を帯びることが挙げられます。磁場が存在する状況では、電子や陽子が磁力線の周りをグルグルとらせん状に巻きついて運動しています。

Q, 黒点部分は温度が低いのですか?それはどうしてですか?

(以下、同様の質問を2件頂きました)

(Q, 磁力の束が浮上して発生する(とされる)黒点がまわりよりも温度がひくいのはなぜですか?中心の近い所が浮上してくるので高温になりそう)

(Q, 黒点はなぜ黒く見えるのですか?何かのかげでしょうか?)

A, 磁場には、周囲のプラズマを押しのける圧力のような性質があります。通常の太陽表面では対流によって熱が運ばれていますが、磁場が存在する場所では対流が抑えられため、運ばれる熱の量が少なくなります。そのため、磁場が強い黒点は、周囲に比べて温度が低くなっています。
星表面の明るさは温度によって決まり、温度が高いほど明るくなります。黒点は温度が低い(約4000度)ため、周囲(約6000度)よりも暗く見えるのです。
ただし、暗いといっても、黒点は満月よりもはるかに明るいです。

Q, N極S極の画像はひのでのどの望遠鏡のデータからつくられるのですか?

A, 可視光磁場望遠鏡(Solar Optical Telescope: SOT)という望遠鏡を使って測定しています。

Q, オーロラを見に行くなら11年ごとのサイクルの一番ピークの時がおすすめでしょうか?

A, 太陽フレアにともなってオーロラの発生数が増減する効果もありますが、太陽活動の極小期であっても、太陽から吹き付ける太陽風の効果などによってオーロラは発生しています。

Q, 太陽の寿命はあと何年ぐらいですか。どうして分かるのですか?

A,  太陽のエネルギーは、コアで生じる核融合という反応によって作られています。これは、水素がヘリウムに変換する反応です。詳しく言うと、水素の原子核4つがヘリウムの原子核1つに変換する際に、エネルギーが放出されます。
まず、(a)コアに存在する水素の量を見積もることができます。次に、太陽の明るさを測定することで、(b)1秒あたりに消費される水素の量が計算できます。そこで、(a)÷(b)によって、コアに存在する水素を使い切るのに必要な時間が計算できます。これが太陽の寿命に相当し、およそ100億年と見積もられています。
また、現在の太陽や太陽系の年齢は、隕石などの測定から、46億年ほどと見られています。
以上から、太陽は残り50億年ほど活動を続けると考えられています。

Q, 惑星の中に磁場を持つもの、そうでないものがあるのはなぜですか?そもそもどうやってそれが判ったのですか?また磁場の有無でどう違うのですか?

A, 地球では、内部のコアに存在する液体金属が対流する効果によって、磁場が発生しています。他の惑星や衛星でも、同様の仕組みで磁場を持つ場合があります。
惑星・衛星が磁場を持つか否かは、実際にその星まで行って磁場を測定する必要があります。
磁場や大気を持たない惑星・衛星では、太陽風や宇宙線(高エネルギーの粒子)に対するバリアの効果が無いため、太陽風や宇宙線が地表面を直撃することになります。微弱な磁場しか持たない月などでは、表面の砂が風化しています(宇宙風化)。

Q, 黒点の大きさとフレアの活動はなぜ比例しないのですか。

A, 大きな黒点群ほどより強いフレアを起こすという、大まかな対応関係は存在します。ただし、巨大黒点が必ず大型フレアを起こすというわけではありません。どうやら、黒点の複雑さが磁気エネルギーの蓄えやすさに関係しているようです。

Q, 黒点は温度が低いのだから、黒点が出来なかった時期はなぜ寒冷化したのですか。やはり黒点によるフレア発生が関係しているのですか。

A, 黒点が少ない時期(マウンダー極小期など)に地球が寒冷化した事実はあるようですが、太陽黒点や活動度と地球の気候の関連は単純ではなく、詳しい研究が待たれるところです。
なお、確かに太陽表面では、黒点は周囲と比べて温度が低いですが、上空のコロナでは、黒点群の方が周囲よりも磁場による加熱が強いため高温になっています。

Q, デルタ型黒点のシミュレーションでの再現の際、一回のシミュレーションにはどのくらいの時間がかかりましたか?

A, 富岳コンピュータを使って100例ほどシミュレーションした場合には、1〜2ヶ月ほどかかったそうです。したがって1例計算するのに1日程度でしょうか。ただし、スーパーコンピュータの性能や、スーパーコンピュータのCPUをいくつ同時に使うかなどにも依ります。

Q, シミュレーションでの再現の際に苦労されたことは何ですか?

A, 対流の入った浮上磁場シミュレーションでは、初期に置く磁束管の位置をわずかに変えるだけで結果が大きく変わってしまうため、狙った黒点構造が作れるよう工夫することが大変でした。

Q, 11年周期のメカニズムはどう考えられているのでしょうか?仮説があれば教えてください。

(同様の質問を1件頂いています。)

(Q, どうして11年周期なのか?)

A, 太陽の周期的な磁気活動を生み出すメカニズムを「ダイナモ」と呼びますが、詳しい仕組みは分かっていません。ダイナモモデルの1つである「磁束輸送ダイナモ」では、太陽内部の循環流である「子午面還流」の速度が、11年という周期を決める要因の1つになっています。

Q, 11年のまん中が必ず強いのか?

A, 黒点数のカーブをよく見ると、ひと山ではなくふた山になっています。これは、太陽の北半球と南半球とで黒点数が最大となる時期がずれているためです。

Q, 講義の中でX~クラスのフレア(‟~”は数字)との表記がありましたが、この数字はどのような数値を基準にした表記なのでしょうか?

A, GOESという人工衛星が測定する軟X線の最大値によって、フレアの強さを定義しています。大きい方からX、M、C、B、Aの5段階に分かれ、数字部分はX1.0はM1.0の10倍の強さというように決めています。
———-
より具体的には、X線強度(単位はW m^-2)に対して、
X1.0:1.0×10^-4 W m^-2
M1.0:1.0×10^-5 W m^-2
C1.0:1.0×10^-6 W m^-2
B1.0:1.0×10^-7 W m^-2
A1.0:1.0×10^-8 W m^-2
と定義しており、例えばX1.2は1.2×10^-4 W m^-2、M3.4は3.4×10^-5 W m^-2に相当します。

Q, 先生が太陽に興味をもたれたきっかけを教えて下さい。

A, もともと子供の頃から宇宙に対する漠然とした興味はありましたが、太陽に興味を持った直接のきっかけは、大学生の時、物理学の方程式を使って太陽や宇宙の現象を説明する講義が面白かったことです。

Q, 磁束管が表れるとき流体は渦を形成しているのですか

A, 講演では説明を省略しましたが、初期に仮定した磁束管にはねじれを与えてあります。磁束管が浮上して光球面に出現する際、周囲の密度が相対的に減少する(上空ほど低密である)ため、磁束管がねじれを解放しつつ膨張します。そのことで、突っ立った磁束管の周方向にローレンツ力が働き、上方から見ると黒点が回転して観測されます。

Q, 磁気流体のシミュレーションではビオサバール則を直接積分しているのですか

A, まず、磁気流体方程式としては、
・連続の式(質量保存)
・運動方程式(運動量保存)
・磁場誘導方程式
・エネルギー方程式(エネルギー保存)
・アンペールの法則
・オームの法則
の14本を解いています。
電流を線要素に分けて、各要素が作る磁場を求め、それらを積分し…というビオサバールの法則をそのまま計算しているわけではありません。空間を格子点に分割し、各格子点上で上記方程式を計算することで、時間発展を求めています。具体的には、以下のリンク等をご参照ください。
http://www2.nao.ac.jp/~takedayi/ss_phys/presentation/yokoyama.pdf

Q, キャリントンイベントのようなクラスのフレアは生きている間にどれくらいの確率で起こると考えられていますか?現代の情報社会で何かとれる対策はありますか?

A, 過去の太陽フレアの発生頻度からの推測では、キャリントンイベント級のフレアはおよそ100年に1回程度起こると考えられています。大型のフレアの場合、人工衛星をセーフホールドモードに移行させる、船外活動中の宇宙飛行士を避難させるなどの対処を行うことがあります。しかし、私たちの日常生活において、ほとんどのフレアは、特別な対策を講じる必要はないレベルのものです。

Q, 太陽がガスでできているということはガスが流体力や電磁気力で太陽表面に凹凸で出ると考えられますが観測や計算でどのように評価していますか。

A, 例えば、対流セルの上昇流部分では周囲より高度が高まり、下降流部分は低く窪んでいます。実際に太陽の縁付近を観測すると、その様子が見て取れます。また、数値シミュレーションを行うことでそのことが検証できます。

Q, なぜフレアが発生する時、X線が出て来るのですか?

A, フレアが起きると、数千万度という高温のガス(プラズマ)が発生します。これによって、軟X線というX線の一種が発生します。それだけではなく、高速に加速された電子が周囲のプラズマと衝突することで、よりエネルギーの高い硬X線というX線も発生します。しかし、その加速メカニズムはまだ完全には解明されていません。

Q, マウンダー極小期がまた来ることはあるのでしょうか?それを予測することはできるのでしょうか?

A, 太陽が磁場を作る仕組み(太陽ダイナモと呼ばれる)はいまだに解明されておらず、太陽がなぜ11年の活動周期を示すのか、なぜ黒点がほとんど出現しない時期があったのかもよく分かっていません。しかし、過去にはマウンダー極小期の他にもいくつかの極小期が確認されており、今後新たな極小期が始まる可能性は否定できないでしょう。

Q, コロナ加熱問題が解決するとしたら、その成果はどのようなことに生かすことができそうですか?

A, 宇宙に存在する、太陽に似た多くの星も超高温のコロナを持つことが知られています。太陽のコロナ加熱メカニズムと、他の星の加熱メカニズムは、おそらく共通だろうと推測されています。そのため、太陽でコロナ加熱問題を解決することができれば、多くの星の加熱メカニズムを説明できると考えられます。

Q&Aは以上です。

質問をお寄せいただいた皆様、ありがとうございました。

そして丁寧にお答えいただいた鳥海先生、どうもありがとうございました!さらなるご活躍をお祈りしております!