ロクトリポート

農と食の体験塾 大豆編2023【農家の大豆畑見学会】

10月17日(火)の農と食の体験塾 大豆編2023では、西東京市で大豆栽培をされている農家さんの畑の見学会を行いました。以下、実行委員からのレポートです。

10月17日(火)の午前中、西東京市住吉町1丁目にある保谷隆司さんの畑を訪ねました。畑には育った野菜たちが秋晴れの光で輝いています。

この見学会の目的は、大学の圃場での実習とはまた違った、出荷や加工を目的とした農家の大豆栽培のやり方を知ることです。塾生は農業や畑づくりに興味はあるものの、実際の農家さんに直接話を伺う機会はなかなかないので、みんな興味津々です。

色々な野菜を育てている圃場の真ん中あたり、5.4a(アール)の16畝に、大豆のまだ青い葉が綺麗に揃っていました。猛暑の影響か、例年と違ってまだ枯れ上がってこないとのこと。

保谷さんが育てている品種は畔豆(あぜまめ)と呼んでいる青大豆です。35年くらい前に関東地方で作られていた在来種のタネを友人からもらい、以後、自家採種しながらずっと育ててきて、今はその畑の固定種となっています。味噌に加工する目的で作られています。

畑を見ながら、保谷さんの畑での大豆栽培について伺いました。

【栽培~収穫】
・7月17日に苗床(なえどこ)に植を撒き、7月下旬に苗を平畝(ひらうね)に植付けをした。その後に灌水(かんすい/水やり)をしている。
・畑に種を直播き(じかまき)したいが、ハトが来て発芽直後の種を全部食べてしまうので難しい。
・株間は35㎝。広い方が収量が多い。
・肥料は一切やっていない。大豆栽培の前作がトウモロコシで、その時の肥料が土に残っているため、収穫後の土に残さを鋤き込む時に石灰窒素を足すだけで、在来大豆の場合は無肥料ですむ。
・台風などで大豆が倒れて莢(さや)に土がつくと、実がだめになってしまう。倒れても莢が土に付きにくくなるように畝間を深くする土寄せを行っている。
・8月下旬の開花時にマメシンクイガ・カメムシ等の対策で、9月20日にハモグリバエ・ハスモンヨトウ・コガネムシ被害対策で、薬剤散布を行った。
・春に採る枝豆は、種まき後すぐに防虫ネットを掛け、収穫までそのまま無農薬で栽培できるが、秋大豆はマメシンクイガの被害が多く無農薬では無理
・予定では、10月末に紅葉し、収穫は11月初旬となる見通し。
・35℃超えの猛暑日と雨無しの日々が続き、気候変動が与える作物への影響など実感させられることになった。完熟大豆にする前に一部枝豆として販売をしたが、今年は高温障害の影響か不稔が多い。(宮城県のだだちゃ豆も被害が大きかったと聞いているとのこと。)
・虫の発生では、特にカメムシがいつまでも見かけるようになった。

【収穫から種取り】
・11月に収穫した後、1か月天日乾燥をさせて脱粒。年明けの1月に選粒(せんりゅう)を行う。
・育成品種は莢がはじけないような改良がされているようだが、畔豆のような固定種の大豆は成熟すると莢が開いて豆がこぼれてしまうので、すぐに収穫しなければならなくて大変。
・5.4aの畑で大豆の収量は120Kg、95%の収穫率。この中から3~5㎏を次年度の種(タネ)として取り置きする。
・種(タネ)は不作な年のリスクを考えて、3年サイクルで保存をしている。

【味噌加工】
・味噌づくりは、2003年に5~6名でスタートして、2011年には加工場を作った。
・麹は小諸産、塩はメキシコ岩塩を使用。
・圧力鍋を使うと味が落ちるので、大きな鍋で煮ている。
・麹は豆の量の1.05倍、塩は12%として3日間で仕込む。大豆は煮ると約2.3倍の目方となる
・9月に1回天地返しを行う。天地返し後に旨味が増す。
・味噌の仕上がりは12月上旬。

大豆栽培についての説明の後、塾生から様々な質問が寄せられました。

Q:いつ頃からここで畑をやっているのか?
A : お墓でたどると、1700年代まで遡れた。250年くらいこの地で農業を営んでいる。1950年代は陸稲や麦、瓜が主流。1960年代頃から大根が主流になった。1970年代に北多摩地区で初めてトウモロコシの直売を手掛けた(その後、武蔵野、清瀬に広がっていった)

Q:畑がとてもきれいだが、除草はどうやっているのか?
A:除草剤は使っていない。草の種がこぼれると後の除草が大変になるので、昔から代々こまめに草取りを行うようにしている。都市の中の畑は美しくなければならないと思っている

Q:都市農業ならではの苦労や注意点はあるか?
A:相続で畑を手放し、周囲を住宅に囲まれる状態になった。入居した人には畑での作業についての同意を取っているが、薬剤散布は風が弱い早朝に行う、音の出ない噴霧器を使うなど、いろいろ配慮している。砂埃は常に作物を作っていればそれほど立たない。

Q:GAP認証(GoodAgriculturalPractices 農作物の安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取り組み)を取られているが、どのようなメリットがあるか?
A:東京GAP認証を受けているが、販売にあたってのメリットはあまり感じていない。ルールに則ってきちんとした栽培履歴等の記録が残せることはメリット(ただし個人の農家では事務処理の負担が大変)。品目ごとに設けられているので、大根とトウモロコシは認証を受けているが、大豆はそもそも対象外(認証対象になっていない)

お話の中で、保谷さん自身が70代に近くなり体力的にきついと感じることが多くなったというエピソードから、同じように高齢などを理由に耕作ができなくなった農家さんに「農地を貸したい」人が増えてきて、農地の貸借がしやすい仕組みづくりが始まっているとの情報をいただきました。農家でなくても、一般の人やグループで借りることも想定しているのでぜひトライしてみてほしいとのお言葉に、塾生は大盛り上がり。農業の現場の説得力のある迫力に、エネルギーを一杯もらいました!