ロクトリポート

北の空の星の動き(1)北の大時計

北極星を見たことがありますか?
「名前は知っているけど、実際に見たことはないなぁ」という方、多いのではないでしょうか。

北極星は、名前がよく知られているわりに、それほど明るく見える星ではありません。
空を見まわしてすぐに「あれだ!」とみつけるのは難しい星です。

では、どうさがせばいいのでしょう。
そんな時役に立つのが、北斗七星です。それぞれの星は北極星と同じくらいの明るさですが、その整った形でよく目立ちます。
日本では、水をすくう道具に見立て、「ひしゃく星」の名で親しまれてきました。

北斗七星がみつかれば、そこから北極星がたどれます。


ひしゃくの水を入れる部分の端っこ2つの星を結び、その線を、ひしゃくの水がこぼれる方へ(底から縁の方へ)と5倍伸ばしてみると…
星が1つ、みつかります。それが北極星です。

特別明るい星ではありませんが、その周りに特に目立つ星もないので、大体の見当が付けばみつかると思います。

では、下の図で実際にさがしてみましょう。5月の初め、21時ごろの北の空の様子です。


【図1:5月初め 21時ごろ】

北斗七星と、北極星、みつかりましたか?
(プラネタリウムの星空でもさがしてみましょう→『プラネタリウム「ノチウ」星座 vol.1 北斗七星①』)

これを覚えておけば、万が一どこかで迷子になって、運悪くスマホの充電が切れてしまっても、方角だけはわかります!

さて、この北極星。いつでも北の方角を教えてくれる星、なのですが、本当にそうでしょうか。
3時間ごとすすめて見てみると…


【図2:5月初め 0時ごろ】


【図3:5月初め 3時ごろ】

いかがでしょう。確かに、じっと動かず、北の方角を示してくれているように見えます。

一方で、北斗七星は位置が変わっていますね。時計と反対周りに動いているように見えます。
これは、実際に星がお互いの距離を保ってお行儀よく動いているわけではなく、地球が自転しているために「動いて見える」という状態です。

では、北極星はなぜ動いているように見えないのでしょう。
それは地球が自転するときの回転軸を、ず~っと北へ伸ばしていった先の方に位置しているからです。
つまり、回転の中心にあるから。

図1から図3をよく見ると、北斗七星以外の星たちも、すべて北極星を中心に反時計回りに動いていくように見えるのが、わかると思います。

また、この星たちの動きは地球の自転によるものですから、一日でだいたい一周、約360度ぐるっと回って元に戻ります。
これがわかっていると、例えば北斗七星の位置の変化から、時間の変化を知ることができます。

1日でだいたい360度ということは、北極星を中心に、北斗七星が反時計回りに90度(4分の1周)回ったら、6時間(4分の1日)経った、ということになります(上の図1から図3の変化)。つまり、1時間で15度変化するということ。

まさに、「北の大時計」。
とはいえ、時間に追われるような現代からみると、ずいぶんゆる~い感じの時計ですね。

しかも、実際はほんのちょっぴりだけ、360度より多くすすみます。
そのためにこの時計、時刻だけでなく季節も知ることができます。

北斗七星を毎日同じ時刻に観察していると、1年間で同じように一周しているように見えます。例えば一年後の同時刻に北斗七星を探せば、ほぼ同じ位置でみつけることができるのです。

今度は1年間で360度ですから、北極星を中心に、北斗七星が反時計回りに90度(4分の1周)回ったら、3か月(4分の1年)経った、ということになります。つまり、1か月で30度変化するということ。
こちらはさしずめ、「北の大カレンダー」でしょうか。

この星の動きがわかると、『今月の星空』の図の「上旬:22時頃 中旬:21時頃 下旬:20時頃」の意味がわかってきます。
「1時間で15度変化」
「1か月で30度変化」
ということは「1か月分の変化は、2時間分の変化に等しい」となります。
ですから「ある日のある時刻の星図は、約2週間(1か月の半分)後、1時間早い時刻に同じように使える」ということになります。
「上旬:22時頃 中旬:21時頃 下旬:20時頃」の「上旬、中旬、下旬」を「1日、15日、30日」と考えると、わかりやすいと思います。

ちょっとややこしいのですが、これがわかると、例えば明け方の星の様子を、別の月の星図を使って確認する、なんてことができるわけです(ただし、月や惑星の動きは別になります)。

それでは、ここでクイズです。けっこう難しいですよ。

下の写真を見てください。


Photo By T.HIRANO

雪が写っています。冬です。
では、2月の初めに撮影したとして、いったい何時ごろの写真でしょうか?
5月の初めの北斗七星と北極星の様子を参考に、考えてみてください。
「だいたい」でかまいません。分度器まで使わなくていいですよ。

「だいたい」見当はつきましたか?(答えは最後にあります)

毎日分刻みで予定が入っているような現代の生活では役に立たない、おおらかな時刻の目印です。
でも、今のようにGPSはもちろん方位磁針さえもなかったような遠い昔だったらどうでしょう?
方角や時刻を示す北極星や北斗七星のような星々の存在は、とても大きかったに違いありません。

実際に、海を渡る船乗りも、昔はこの星たちを頼りにしていました。
また、何があっても動じることなく、周りの星を従えて一点にとどまり続ける北極星は、信仰の対象ともなりました。

春は北斗七星が空高くのぼり、さがしやすい季節です。真ん中の3等星がみつけにくいかもしれませんが、ひしゃくを伏せた形に横たわる様子をイメージして、さがしてみてください。

【クイズの答え】 だいたい20~21時。20時でも21時でも正解!

※星をさがす時は、ご自宅など安全なところでお願いします。また、子どもの皆さんはお家の方と一緒に見るようにしましょう。