ロクトリポート

プラネタリウム「ノチウ」星座 vol.4 月と太陽

イランカラテ!

皆様いかがお過ごしでしょうか。
5月になり、青葉もいよいよまぶしく茂ってきましたね。ちなみに北海道の5月のはじめは(地域にもよりますが)そろそろ桜が咲きだすかな、という頃です。気象庁の生物季節観測で桜の開花が発表されるといよいよ春だなという感じがしますが、桜前線の北上にはかなりの時間がかかるのですね。なお、気象庁の観測には、北海道ではソメイヨシノよりもエゾヤマザクラの方が多く使われています。そしてエゾヤマザクラが濃いピンク色の花をつける頃、その桜の森の満開の下では……なんと……お花見焼肉パーティーが開かれるのです……。

それでは、臨時休館と、全編生解説プラネタリウム「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」の投影延期に伴い、アイヌ民族の星座をweb上でご紹介する企画のvol.4です(初回は>> プラネタリウム「ノチウ」紹介 vol.0)。
ご覧くださり、イヤイライケレ !!!!

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アイヌ民族の星の話題は、この書籍からご紹介しています。
<出典> 末岡 外美夫(すえおか とみお)著
『アイヌの星』/『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
書籍 人間達のみた星座と伝承
※星座名・星名表記は一部改めています。(アイヌ語指導 成田英敏氏)
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※スマートフォンなどの画面では、星座の名前が正しく表示
されないことがあります。星座名を正確に表示するには
「PC用の表示に切り替える」などの機能をお試しください。
例:ラが小さく表示されればOK → レタ
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■天体の名前
まずは今日の空を眺めてみましょう。オリオン座など寒い季節に見やすかった星座はだいぶ西に傾き、今日5月1日の20時では真南に しし座が見えています。休館中の当館プラネタリウムの星空を、今日は星座絵付きでどうぞ ↓

20200501-2000 – Spherical Image – RICOH THETA


おうちでロクトを楽しもう!では、このような全天画像『グリグリ360°!多摩六都科学館』シリーズを展開中です。

南の空の しし座は見つかりましたか? おや、しし座の体の前に明るいものがありますね。わかりづらければ、画像内の⊕を押して、拡大して見てみましょう。
明るいものの正体は、月。アイヌ語で、月はこう言います。

クンネ・チュ・カムイ( kunne・cup・kamuy )【 暗い・チュ・のカムイ 】=月

明るい月を、なぜ暗いと表すのでしょうか。実は空には次のように呼ばれるものもあります。何を指すかわかりますか?

チュ( cup )【 チュプ 
チュ・カムイ( cup・kamuy )【 チュ・のカムイ 】

このふたつは太陽のことです。そう、太陽(チュ)と対にして、月を暗いチュと呼んだのですね。なお、太陽をお日様やお天道様とも呼ぶように、アイヌ語にも太陽や月の呼び名が多数あります。また、チュは本来、天体を表す言葉でしたが、後に太陽を表す言葉へと変化しました。
太陽の動きをよく知っていたアイヌ民族の人々には、日の出から日の入りまでの太陽の通り道であるチュル( cup・ru )【 太陽・の道 】という言葉や、春分・秋分、夏至、冬至それぞれの、日の出と日の入りの位置の呼称もありました。一方、墓地とみられる環状列石(ストーンサークル)の遺跡が北海道内でも発見されていますが、イギリスのストーンヘンジのように太陽の運行を意識した遺跡だという証拠は未だないようです。

さて、しし座の体の前にあった月。明日5月2日はこうなります ↓

形がふくよかに、位置は左(東方向)にずれました。このように月の見え方は日々変化します。そして、上の写真だと、月の右下に明るい星がありますね。これは しし座のレグルス。空ではさほど目立ちませんが、明日、月のそばで輝く様子は探しやすいことでしょう。レグルスにはこんな名前があります。

( amkirkur > amkir・kur )【 [月を]知る・者=月の知人 】

この星はチュル( 太陽・の道 )の付近にあり、太陽、そして月が近くを通りかかります。それで、月が訪れる友、月の知人という名前のア。アイヌ民族の人々が空の様子を丁寧に覚えていたことがわかりますね。なお、アを月が重なって隠す星食は、不吉だと考えられたそうです。不吉だという伝承があった、そもそも星食に気づいていた、ということからも、やはり空をよく見ていたことがうかがえます。

■しし座付近の星座
それでは、しし座のあたりに作られた星座を他にも見てみましょう。

レシッケウ・ノチウ( resikkewnociw > re・sikkew・nociw )【 三・角・星 】
※参考文献では「レシ・ノチゥ( resikkennociw > re・sikken・nociw )」と書かれていますが、北海道各地のアイヌ語で角は「シッケウ」であるため、ここでもレシッケウと表記します。

プラネタリウムでも「しし座の尾の部分の三角を…」という解説をよく用いますが、アイヌ民族の人々も三角の形だと思っていたのですね。

ペ・コ・フンペ( aspekorhumpe > as・pe・kor・humpe )【 立つ・もの・を持つ・鯨=ナガス鯨 】

ペ・コ・フンペが見える季節には鯨がやってくる、という伝承があります。きっと、鯨が来る季節の空に鯨の星座を描いたという起こりだったろうと推測できますね。
ペ・コ・フンペが見える春になると、アザラシやクジラなど海獣の獲物への儀式を行ったそうです。また、先にア【 月の知人 】としてご紹介した しし座のレグルスには、ヘロキノチウ( herokinociw  > heroki・nociw )【 鰊(ニシン)・星 】という名もあり、ニシンの豊漁を祈ったり、群れが来る時期を占ったりしたそうです。季節とともに、自然の中で生きている人々の姿が想像できる気がしますね。

ゴールデンウィークに入り、道を行く人影もさらに少なくなった今、静かな5月の街の中ではツバメの鳴き声が響いています。みなさんも、桜の開花やアイヌ民族の星座のように、「この季節にはこんなことが」という″自然を感じる″レパートリーを増やしてみるのはいかがでしょうか。

イナウルノカ・ノチウ( inaw・ru・noka・nociw )【 イナウ・の頭髪・の姿をした・星=礼冠星 】

儀式のときに首長は、植物の皮で編んだ礼冠を頭にはめます。ふさふさとしている部分は、木を薄く削った「削りかけ」。この削りかけは、儀式の度に新しく作って縛り付けたそうです。もしアイヌ民族の儀式の様子をニュースなどで見る機会があったら、男性がかぶっている冠を探してみましょう。

それでは、前回のクイズの答え合わせです。

Q4 「北斗七星」は、「北の空のひしゃくの形の七つ星」という意味の日本語の呼び名です。アイヌ民族はカムイや熊や弓矢や舟に見立てました。では、アイヌ民族は、ひしゃくの星座は作ったでしょうか? 作らなかったでしょうか?

<答> A4 ひしゃくの星座も作った

ワッカク・ノチウ( wakkakupnociw = wakka・ku・p・nociw )【 水・を飲む・物=ひしゃく・星 】

実際に空で眺めると、5月のひしゃく星は逆さまで水がこぼれそうです。もうじき訪れる梅雨の季節にぴったりの見え方ですね。

<おまけクイズ>
Q5 「レラ」とは、いったい何のことでしょうか。私たちもよく知る、空を駆けるもの……がヒントです。 答えは次回!(火・金の14:00に連載予定です)

全編生解説プラネタリウム 「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」
開館が再開次第投影開始 ~ 5月31日(日)まで
※臨時休館延長に伴い中止が決定いたしました。再投影は検討中です。(5/7) 終了

講演会「ことばから見るアイヌ文化と自然観」
2020年5月30日(土) 17:10~18:40
講 師:中川 裕(千葉大学 文学部教授)
4月11日(土) 10:00より受付開始
※今後の社会情勢に応じて変更になる可能性があります。

※延期が決定いたしました。日程を調整中です。(4/17
※一旦中止とし、改めて実施を検討いたします。(5/19) 終了

<出典>
末岡外美夫(すえおかとみお), 1979. 『アイヌの星』
末岡外美夫(すえおかとみお), 2009. 『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』

<全編生解説プラネタリウム「ノチウ」web連載@ロクトリポート>(リンクはご自由に)
vol.0 番組紹介            「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」/アイヌ民族の星座
vol.1 星座 北斗七星①    ウㇷ゚シノカ・ノチウ/クットコノカ・ノチウ/北斗七星/恒星カムイ
vol.2 星座 金星            金星/疱瘡のカムイ/フレケタ/セレマック/ベテルギウス
vol.3 星座 北斗七星②    シアラサルカムイノカ・ノチウ(尾の長い熊)/弓矢/舟
vol.4 星座 月と太陽       月/ア(月の知人)/三角星/鯨/イナウ/ひしゃく
vol.5 星座 四つ星          かたつむり/船/レラ・チャロ(風の吹き出し口)
vol.6 星座 天体と季節    月の形/朝昼夜/季節
vol.7 星座 めぐる星       追われる娘たち/蛇/踊る娘たち
vol.8 星座 動物たち      狐/貂/ホケウ・ノチウ(狼)
vol.9 星座 さそり①      龍
vol.10 星座 さそり②    ザリガニ/カンナカムイ(雷[龍]のカムイ)
vol.11 番外編              関連webサイト紹介
vol.12 星座 ねずみの倉  ねずみの倉/疱瘡のカムイ/日食
展示紹介                    アイヌ民族の着物を展示中!
「ノチウ」投影開始! プラネタリウム「ノチウ」2021年4月に再登場
電子顕微鏡で・・・  電子顕微鏡でクマの毛を見てみました!
ノチウ 講演会Q&A①    中川先生講演会Q&A アイヌ語/物語
ノチウ 講演会Q&A②    中川先生講演会Q&A カムイ
ノチウ 講演会Q&A③   中川先生講演会Q&A 習慣/星/その他
ノチウ秋投影&知里幸恵 10/9,10「ノチウ」再投影!& 知里幸恵の見た星空
ノチウ 投影レポート  2023年6月の投影内容/2030年6月1日金環日食

※連載は一旦終了ですが、今後も番外編を公開していきます。