イランカラプテ!
皆様いかがお過ごしでしょうか。
すっきり晴れないような天候が続くと、今年の梅雨入りはいつかな? と気になり始めますね。北海道は梅雨がないとされていますが、夏の前に雨天が多くなることがあり、俗に「蝦夷梅雨(えぞつゆ)」と呼んだりします(ちなみに雨をあらわすアイヌ語は「アプト」「アハト」「ルヤンペ」「ルアンぺ」…たくさんありますが、これは北海道内でも各地のことばが少しずつ違うためです。北海道で放送されているアイヌ語のラジオ講座も「今年度は○○地方の方言」というようにそれぞれの地域の方言を大切にしているんですよ)。
雨上がりは空気も澄み、星もよく見えそうなもの。晴れやかな空が楽しみですね!
>> 令和2年の梅雨入りと梅雨明け(気象庁)
>> なんで北海道に梅雨(つゆ)はないの? 梅雨はなんで起こるの?(気象庁 はれるんランド)
それでは、臨時休館と、全編生解説プラネタリウム「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」の投影中止に伴い、アイヌ民族の星座をweb上でご紹介する企画のvol.9です(初回は>> プラネタリウム「ノチウ」紹介 vol.0 )。
ご覧くださり、イヤイライケレ !!!!!!!!!
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アイヌ民族の星の話題は、この書籍からご紹介しています。
<出典> 末岡 外美夫(すえおか とみお)著
『アイヌの星』/『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
※星座名・星名表記は一部改めています。(アイヌ語指導 成田英敏氏)
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※スマートフォンなどの画面では、星座の名前が正しく表示
されないことがあります。星座名を正確に表示するには
「PC用の表示に切り替える」などの機能をお試しください。
例:ラが小さく表示されればOK → レタラ
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■さそり座
星占いにも登場する星座、さそり座。星占いでは10月下旬から11月中旬生まれの人を さそり座に分けますが、さそり座が空で見やすい季節はちょうど初夏から夏、つまりこれからの時期です。今日真夜中(明日午前0時)の南の空で、アルファベットのJ、またはS字カーブのような形を探してみましょう ↓
見つかりましたか? ギリシャ神話にも登場する さそり座は、こんな姿をしています ↓
今日5月19日では、さそり座の全身が見えるのは23時頃と少し遅めの時間ですが、もうあとひと月もすれば21時でも見られるようになります。以下のwebサイトでは日付や時間、観測地点をいろいろ変えて見え方を確かめることができますよ。
>> 今日のほしぞら(国立天文台 暦計算室)
さて、この見つけやすい星並びを、アイヌ民族ももちろん眺めていました。どんな星座が作られたのか見てみましょう。
■ホヤウ
ではクイズです。
うろこに覆われた長い体で、空を飛ぶこともある伝説上の生き物といえば?
↓
↓
↓
ホヤウ( hoyaw )【 龍 】
ホヤウノチウ( hoyawnociw > hoyaw・[noka]・nociw )【 龍・(の姿をした)・星 】
アイヌ民族にも龍の伝承があるのですね。どこかから伝わったものなのでしょうか…?
なお、アイヌ民族の龍には呼び名がいろいろあります。どんな伝承が伴うか思い描けるのではと思いますので、並べてご紹介してみます。
カンナカムイ( kannakamuy > kanna・kamuy )【 上方の・カムイ=雷のカムイ 】
ラプシヌプルクル( rapusnupurkur > rap・us・nupur・kur )【 羽・が生えていて・霊力のある・カムイ 】
ラプシオヤウ( rapusoyaw > rap・us・oyaw )【 羽・の生えている・龍 】
ラプシカムイ( rapuskamuy > rap・us・kamuy )【 羽・の生えている・カムイ 】
空を飛ぶ姿、そして雷への連想が見えてきますね。雷はホヤウノチウと関係あると考えられていたのですね。
さらに、龍は夏や火に強いという信仰からこんな呼び名もありました。
サクソモアイェプ( saksomoayep > sak・somo・aye・p )【 夏・~しない・言われる・者 】
アペサムタソモアイェカムイ( apesamtasomoayekamuy > ape・sam・ta・somo・aye・kamuy )【 火・の側・で・~しない・言われる・カムイ 】
そして、星座の龍にもその姿を描写した呼び名が複数あります。
ニシエパイキカムイ( nisepaykikamuy > nis・e・payki・kamuy )【 雲・で・立ち上る・カムイ 】
ニウェニタラカムイ( niwenitarakamuy > niwen・itara・kamuy )【 荒々しい・~しつづける・カムイ 】
さて、龍の星座にも物語が伝わっています。ご紹介しましょう。
<出演>
カンナカムイ :上方のカムイ=雷 ←ホヤウノチウ=さそり座
カンナカムイの娘:カンナカムイの娘
キムンカムイ :山のカムイ=熊
ホイヌカムイ :カスペキラ・ノチウ(蝦夷貂(えぞてん)星) ←うしかい座のアークトゥルス
※ Vol.8 で うしかい座のアークトゥルスを「蝦夷貂(えぞてん)の星:カスペキラ・ノチウ」とご紹介しましたね。これを「ホイヌカムイ」との別名で呼ぶ地域があり、龍の物語ではこのホイヌカムイが登場します。なお、参考にした書籍のこの物語内では蝦夷貂に「えぞいたち」との送り仮名がありますので、ここではホイヌカムイをいたちの姿で想像しながらお読みください。
「カンナカムイ(雷)には、美しい娘がいた。カンナカムイは娘をキムンカムイ(熊)と結婚させるつもりでいたが、その娘はホイヌ(蝦夷貂)のカムイを好きになってしまった。
そこで、怒ったカンナカムイは娘を地上に追いやり、動き回れないように草花の姿に変えてしまった。この草花がチライキナ(福寿草)である。
天のホイヌカムイは春になると東の空に顔を出すようになる。チライキナになった娘も、ホイヌカムイに会いたくて雪を割って花を咲かせる。
しかしホイヌカムイを追いかけるカンナカムイが見える頃になると、チライキナは姿を隠してしまい、ホイヌカムイも西へ去ってしまう。カンナカムイの声が雷鳴となり、その怒りは雷となって夜空で光るのだ」
春先に見えだすアークトゥルス、雪解けに先んじて咲く福寿草、そしてアークトゥルスを追うようにのぼる龍の姿と夏の雷鳴とが織り込まれた、見事な物語です。北海道の大地に立って、星を眺めながら味わってみたい情景ですね。
なお、今年の夏に空でホヤウノチウを探すと、その左(ホヤウノチウよりも東側)に明るい星が輝いています。これは木星です。この木星、中国では古くから歳星(さいせい)の名で呼ばれましたが、さらなる別名が「龍」。つまり今年は、アイヌ民族の見た龍が、中国で龍と呼ばれた星とともに空に現れるということになります。
ちなみに木星にも大気があり、雷が観測されているんですよ。
・・・・・
北海道と東京とでは、星の見やすさはともかくほぼ同じ星々が見えることになりますが、重要な違いが「緯度による星の高度の差」です。
アイヌ民族は北極星をポロ・ノチウ(偉大な星)と呼びましたが、この北極星(>> ロクトリポート:北の空の星の動き(1)北の大時計 )の高さは見る場所によって違うと聞いたことはありませんか? 北極星の高さは観測者がいる場所の緯度によって変わり、北緯36°の多摩六都科学館で観察すれば、北極星は北の空36°の高さに見えます。
北海道の最南端である松前町白神岬(しらかみみさき)は北緯41°、北海道の最北端である宗谷岬(そうやみさき)は45°。そう、北海道では東京よりも北極星が高く見えます。
では、北の空の北極星が高いなら、南の空の星々はどう見えるのでしょう?
同じ時刻に観察した さそり座ですが、北海道では東京よりも低く見えますね。北海道でホヤウノチウを見れば、山の稜線や人里をかすめて飛ぶ龍の姿を想像しやすかったことでしょう。
さて、このあたりにはまだまだ星座があります。せっかくなので次回も続けてご紹介したいと思います。どうぞお付き合いください。
それでは、前回のクイズの答え合わせです。
Q9 太陽を助けてほめられたという生き物がいます。4本足の生き物です。いったい誰でしょう?
<答> A9 ねずみ
おや、たしか前にも、ねずみがどこかで…??
<おまけクイズ>
Q10 ホヤウノチウの星並びを、アイヌ民族は別の生き物に見立てることもありました。はさみを持っている、さそりではない生き物といえば…? 答えは次回!(火・金の14:00に連載予定です)
全編生解説プラネタリウム 「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」
開館が再開次第投影開始 ~ 5月31日(日)まで
※臨時休館延長に伴い中止が決定いたしました。再投影は検討中です。(5/7) 終了
講演会「ことばから見るアイヌ文化と自然観」
2020年5月30日(土) 17:10~18:40
講 師:中川 裕(千葉大学 文学部教授)
4月11日(土) 10:00より受付開始
※今後の社会情勢に応じて変更になる可能性があります。
※延期が決定いたしました。日程を調整中です。(4/17)
※一旦中止とし、改めて実施を検討いたします。(5/19) 終了
<出典>
末岡外美夫(すえおかとみお), 1979. 『アイヌの星』
末岡外美夫(すえおかとみお), 2009. 『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
<全編生解説プラネタリウム「ノチウ」web連載@ロクトリポート>(リンクはご自由に)
vol.0 番組紹介 「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」/アイヌ民族の星座
vol.1 星座 北斗七星① ウㇷ゚シノカ・ノチウ/クットコノカ・ノチウ/北斗七星/恒星カムイ
vol.2 星座 金星 金星/疱瘡のカムイ/フレケタ/セレマックル/ベテルギウス
vol.3 星座 北斗七星② シアラサルシカムイノカ・ノチウ(尾の長い熊)/弓矢/舟
vol.4 星座 月と太陽 月/アムキリクル(月の知人)/三角星/鯨/イナウ/ひしゃく
vol.5 星座 四つ星 かたつむり/船/レラ・チャロ(風の吹き出し口)
vol.6 星座 天体と季節 月の形/朝昼夜/季節
vol.7 星座 めぐる星 追われる娘たち/蛇/踊る娘たち
vol.8 星座 動物たち 狐/貂/ホロケウ・ノチウ(狼)
vol.9 星座 さそり① 龍
vol.10 星座 さそり② ザリガニ/カンナカムイ(雷[龍]のカムイ)
vol.11 番外編 関連webサイト紹介
vol.12 星座 ねずみの倉 ねずみの倉/疱瘡のカムイ/日食
展示紹介 アイヌ民族の着物を展示中!
「ノチウ」投影開始! プラネタリウム「ノチウ」2021年4月に再登場
電子顕微鏡で・・・ 電子顕微鏡でクマの毛を見てみました!
ノチウ 講演会Q&A① 中川先生講演会Q&A アイヌ語/物語
ノチウ 講演会Q&A② 中川先生講演会Q&A カムイ
ノチウ 講演会Q&A③ 中川先生講演会Q&A 習慣/星/その他
1/19と2/16に再投影! [2022 冬]再投影/方位/四季の日出点と日没点
ノチウ秋投影&知里幸恵 10/9,10「ノチウ」再投影!& 知里幸恵の見た星空
ノチウ 投影レポート 2023年6月の投影内容/2030年6月1日金環日食
※連載は一旦終了ですが、今後も番外編を公開していきます。