ロクトリポート

プラネタリウム「ノチウ」星座 vol.7 めぐる星

イランカラプテ!

皆様いかがお過ごしでしょうか。
4月24日に北海道にオープン予定だった施設「ウポポイ(民族共生象徴空間)」の開業が、5月29日よりもさらに先へ再延期されることとなりました。ウポポイは国立アイヌ民族博物館を含む新しい施設で、展示をはじめアイヌ民族の古式舞踊などにも触れられる場となっています。刺繍や木彫りなどの手仕事の見学・体験も用意されています。愛称「ウポポイ」は、祭り歌をあらわすことば「ウポポ」に通じ、アイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」という意味。晴れて開業の運びとなった時には、ぜひ訪れてみたいですね。
>> 民族共生象徴空間 ウポポイ
>> 民族共生象徴空間 ウポポイ プログラム

それでは、臨時休館と、全編生解説プラネタリウム「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」の投影中止に伴い、アイヌ民族の星座をweb上でご紹介する企画のvol.7です(初回は>> プラネタリウム「ノチウ」紹介 vol.0 )。
ご覧くださり、イヤイライケレ !!!!!!!

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※アイヌ民族の星の話題は、この書籍からご紹介しています。
<出典> 末岡 外美夫(すえおか とみお)著
書籍 人間達のみた星座と伝承
『アイヌの星』/『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
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■追う星、追われる星
夕暮れ時、西空で輝く金星を見ていると、そのまわりの星々にも気づくことがあります。3月、4月の夕焼けと共に見えていたのが、オリオン座。Vol.2でご紹介した夕空を振り返ってみましょう。
4月28日西空オリオン座
三つ並んだ星とそれを囲む四つの星で作る、砂時計のような形が見つかれば、オリオン座。三つ星は、実は、あるものを追いかけているという物語があります。

「あるところに三人の働き者と、七人の怠け者の娘がいた。
働き者が『水を汲んだらどうだ』というと、娘たちは『手が冷たくなるよ』。
働き者が『火をおこせばいい』というと、娘たちは『やけどをするよ』。
働き者が『刺繍でもすれば』というと、娘たちは『針に糸を通すのが面倒だよ』。
いつまでたっても働こうとしない娘たちが『星になれれば働かずにすむものを』と悪態をついたので、働き者はとうとう怒って娘たちを追いかけ始めた。しかし娘たちが舟をこぎだすと、舟は速くて追いつけない。それを天から見ていたカムィは、七人の娘たちを淡い星に変えて空に投げ上げた。三人の働き者も三つの美しい星になった。
しかし、三人の働き者は、星になっても、まだ娘たちを追いかけている。」

そう、オリオン座の三つ星が、この三人の働き者の星です。では追いかけられているのは…?
三つ星をつないでそのまま右に向かって伸ばすと、娘たちの星が見つかりますよ。

星々の集まり、「すばる」がありますね。ギリシャ神話では、乱暴者の狩人オリオンが七人の娘たちを追いかけているという物語が作られましたが、アイヌ民族も同じ追いかけっこの様子に見ていたのですね。

レネクル(reneskur > ren・eus・kur)【三人・そこについている・カムィ=三人のカムィ】
トラネノチゥ(torannenociw = toranne・nociw)【怠惰な・星=怠け星】
ノチゥ(arwannociw > arwan・nociw)【七つ・星】
※引用元のふたつの書籍では下記の表記となっています
『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
…アノチゥ(arwannociw > arwan・nociw 七つ・星・arwaniw・nociw 七人・星)
『アイヌの星』
…アノチゥ(arwannociw < arwan・nociw < arwaniw 七人・nociw 星「怠け星」)

オリオン座は、初夏に見るのはなかなか難しいのですが(オリオン座と太陽が重なる時期のため、オリオン座を夜に見ることができないのです)、はやく見たい! という方は7月下旬の明け方まで待っていてくださいね。
なお、七人娘が ぎょしゃ座のカペラ(ノパクル・ノチゥ:追うカムィ星)に追いかけれられるという、もっと古い伝承もあります。

さて、追いかけられる星はまだあります。

トィタクル・サオッ・ノチゥ

トィタク・サオッ・ノチゥ(toytakur・sawot・nociw)【農耕・から逃げる・星】
見覚えのある星並び。そう北斗七星ですね。

「七人の娘が母親と暮らしていた。母は一人で娘たちを育てたが、その母が病に伏しても娘たちは働かず、まわりの者が心配していた。と、そこへタネカムィ(蛇)が現れて、大きくなりながら娘たちを追いかけ始めた。娘たちは逃げ続け、いつの間にか星の世界で星になっていた。しかしタネカムィはまだ追いかけてくる。
末の娘は『許して』と顔を隠したので、今は残りの六人の娘が空を駆けている。娘の一人は、小柄な母親を背負っている。娘たちとタネカムィは、今でも空を駆けまわっている」

逃げる娘たちの星座は一つではないのですね。ちなみに顔を隠した末娘は、七つの星の中で最も暗いメグレズ(ひしゃくの持ち手の付け根の星)、背負われている母親がミザール(ひしゃくの持ち手の端から二つ目にあるアルコルに並ぶ星)だということです。
なお、街灯もない時代なら暗い星だろうとしっかり見えて、末娘が顔を隠すという話にならなかったのでは…と思ってしまいそうですが、重労働や低栄養の末に目が不自由になる老人もいたと、書籍で末岡さんが触れています。昔なら誰でも北斗七星を見られただろう、とも断言できないわけですね。なお、蛇のカムィは、アイヌの食糧難を救う恵みの神であるとともに、人を祟(たた)る恐ろしいカムィでもあるそうです。

さて、空で娘たちを追う蛇も、星座が作られました。

オカンカン・ノチゥ

オカ・ノチゥ(okankan・nociw)【蛇・星】

この蛇の星座の形は、現代の りゅう座と符合します。星の並びや連なりが、地域や民族の違いを超えて、蛇を連想させやすかったのでしょうね。ということは、みなさんにも同じように見えるかもしれません。明るい星が少ない星座なので、月明かりの影響のない夜に、北斗七星との位置関係を手掛かりに探してみましょう。
>> 5月の星空案内( 多摩六都科学館 )

■輪になって踊ろう
祭や儀式で女性たちが輪になって歌い踊ることを、ウポポやリムセなどといいます。北斗七星の七つ星を、踊っている女性たちだと見立てた星座もありました。

ウポポ・ケタ
ウポポ・ケタ(upopo・keta)【輪舞する・星】
そう、ウポポイの“ウポポ”です!
ウポポ・ケタは七つの星全部で一人の娘の姿に、トィタク・サオッ・ノチゥ(農耕・から逃げる・星)は七つの星ひとつひとつが一人ずつの娘の姿に見立てられています。しかし、輪になって踊ったり、空を逃げ回ったりと、どちらにも“円を描く動き”があることにお気づきでしょうか。

・・・・・

北斗七星の見え方は季節によって変わると vol.1 星座 北斗七星① でもご紹介していますが、これは地球が太陽のまわりを公転していて、春夏秋冬それぞれ違う位置から北斗七星を見ることに関係があります。
北斗七星の見え方の変化(季節)
しかし星の見え方に関係するのは公転だけではありません。地球は自転もしていますね。すると、一日の中でも北斗七星や りゅう座はこのように動いて見えます。

20時の北斗七星21時の北斗七22時の北斗七星3時間の動きステラナビゲータ11/株式会社アストロアーツ を使用して作成

このような、地球の自転による天体の動きを「日周(にっしゅう)運動」と呼んだりします。ウポポ・ケタ(輪舞する・星)、そしてトィタク・サオッ・ノチゥ(農耕・から逃げる・星)とオカ・ノチゥ(蛇・星)が北の空をめぐっているのも、星の動きをよく知るアイヌ民族が描いた星座だからでしょう。
そして、日周運動は北の空の星だけに限りません。例えば太陽が東からのぼり西へ沈む、あの動きも日周運動です。さらに、ある日の星の様子を見てみましょう。

オリオン座③時間の動きステラナビゲータ11/株式会社アストロアーツ を使用して作成

オリオン座が西へ西へとずれていくのがわかりますね。今回冒頭でご紹介したレネクル(三人のカムィ)とトラネノチゥ(怠け星)も日周運動があるからこその追いかけっこといえるでしょう。
空で追いかけっこをしているものの物語があったら、それはまさに、その物語を作った人々が、自転と公転をする星「地球」にいたことを物語る何よりの証拠だといえるのです。

それでは、前回のクイズの答え合わせです。

Q7 色を表すことば、「シ」。これはどんな色?
<答> A7 青/緑
青といっても青一色だけでなく、緑色も含む色彩を表す名前です。日本語の古語の「あを」も、青・緑・藍を広くさすことばですが、なんだか似ていますね。なおこれは、昔の人が青と緑の見分けがつかなかったということでは、もちろんありません。

<おまけクイズ>
Q8 色を表すことば、「クネ」と「レタ」。これはどんな色? 答えは次回!(火・金の14:00に連載予定です)

全編生解説プラネタリウム 「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」
開館が再開次第投影開始 ~ 5月31日(日)まで

※臨時休館延長に伴い中止が決定いたしました。再投影は検討中です。(5/7)

会「ことばから見るアイヌ文化と自然観
2020年5月30日(土) 17:10~18:40
講 師:中川 裕(千葉大学 文学部教授)
4月11日(土) 10:00より受付開始
※今後の社会情勢に応じて変更になる可能性があります。

※延期が決定いたしました。日程を調整中です。(4/17)
※一旦中止とし、改めて実施を検討いたします。(5/19)

<出典>
末岡外美夫(すえおかとみお), 1979. 『アイヌの星』
末岡外美夫(すえおかとみお), 2009. 『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
河原郁夫(かわはらいくお), 1995. 『新版 星空のはなし』第 2版

<全編生解説プラネタリウム「ノチウ」web連載@ロクトリポート>(リンクはご自由に)
vol.0 番組紹介            「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」/アイヌ民族の星座
vol.1 星座 北斗七星①    ウシノカ・ノチウ/クットコノカ・ノチウ/北斗七星/恒星カムイ
vol.2 星座 金星            金星/疱瘡のカムィ/フレケタ/セレマック/ベテルギウス
vol.3 星座 北斗七星②    シアラサルカムィノカ・ノチゥ(尾の長い熊)/弓矢/舟
vol.4 星座 月と太陽       月/ア(月の知人)/三角星/鯨/イナゥ/ひしゃく
vol.5 星座 四つ星          かたつむり/船/レラ・チャロ(風の吹き出し口)
vol.6 星座 天体と季節    月の形/朝昼夜/季節
vol.7 星座 めぐる星       追われる娘たち/蛇/踊る娘たち
vol.8 星座 動物たち      狐/貂/ホケゥ・ノチゥ(狼)
vol.9 星座 さそり①      龍
vol.10 星座 さそり②    ザリガニ/カナカムィ(雷[龍]のカムィ)
vol.11 番外編              関連webサイト紹介
vol.12 星座 ねずみの倉  ねずみの倉/疱瘡のカムィ/日食
展示紹介                    アイヌ民族の着物を展示中!
※連載はvol.12で一旦終了ですが、今後も番外編を企画しています。