イランカラプテ!
皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、今日は何月何日? 何曜日? ちゃんと思い出せますか? (これは、夏休み期間中のプラネタリウム投影でおなじみのひとネタなのですが、まさか4月に使う日が来るとは…! )
臨時休館と、全編生解説プラネタリウム「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」の投影延期に伴い、アイヌ民族の星座をweb上でご紹介する企画のvol.2です(初回は>> プラネタリウム「ノチウ」紹介 vol.0)。
ご覧くださり、イヤイライケレ !!
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アイヌ民族の星の話題は、この書籍からご紹介しています。
<出典> 末岡 外美夫(すえおか とみお)著
『アイヌの星』/『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
※星座名・星名表記は一部改めています。(アイヌ語指導 成田英敏氏)
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※スマートフォンなどの画面では、星座の名前が正しく表示
されないことがあります。星座名を正確に表示するには
「PC用の表示に切り替える」などの機能をお試しください。
例:ラが小さく表示されればOK → レタラ
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■星を探してみよう
最近、空をご覧になりましたか? 夕方の空、太陽が沈んだ西の方向に、ひときわ明るい星がありますね。そう、金星です。…え、ご覧になっていない?! それでは、お休み中の当館プラネタリウムの星空で、金星探しをどうぞ! (写真は、一足早く4月28日(火)の夕空の様子です)↓
4月28日(火)の夕空では月が見えていますね。その月の右下、一番明るい星が金星です。なお、本日4月24日(金)には、月は見えず金星だけが見つかります。夕焼けの頃、つまり真っ暗になっていなくても、金星はとても目立ちます。
※金星の最新情報
>> 「あかつき」により金星大気のスーパーローテーションの維持のメカニズムを解明(JAXA 2020年4月24日)
>> Super-rotating the venusian atmosphere(アメリカの科学雑誌Science電子版 2020年4月23日)
さて、写真では金星以外にも、冬の季節のプラネタリウムでおなじみの
・ベテルギウス
・シリウス
・プロキオン
も見えています。先程の写真で見つけられるでしょうか?
正解は…こちらでした ↓
さらに、次の写真では
・ふたご座のポルックスとカストル
・ぎょしゃ座のカペラ
・おうし座のアルデバラン
も見えています。探してみましょう ↓
正解はこちら ↓
ドーム内全景(全天周)でもご覧ください ↓
20200428-1920-2 – Spherical Image – RICOH THETA
※おうちでロクトを楽しもう!では、このような全天画像『グリグリ360°!多摩六都科学館』シリーズを展開中です。
■金星
さて、惑星には、アイヌ語のこんな呼び名があります。
ラィクルノチウ ( raykurnociw > ray・kur・nociw )【 死・霊の・星 】
シットゥライヌクル ( sitturaynukur < sitturaynu・kur )【 迷う・者[カムイ] 】
そして、宵の明星(夕方に見える金星)には
アロヌマンノチウ( aronumannociw = aronuman・nociw )【 夕暮れの・星 】
オヌマンノチウ ( onumannociw = onuman・nociw )【 夕方の・星 】
また、明けの明星(明け方に見える金星)には
ニサッサウォッノチウ ( nisatsawotnociw > nisat・sawot・nociw )【 夜明け・から逃げる・星=暁の明星 】
ペンケノチウ( penkenociw = penke・nociw )【 上の・星 】
チヌカラクル( cinukarkur > ci・nukar・kur )【 われら・を見守る・者[カムイ] 】
という名もあります。
この明けの明星には、病を流行らせるカムイとの物語が伝わっています。
<出演>
パコロカムイ(疱瘡のカムイ)
ニサッサウォッノチウ(暁の明星)…金星
ポトゥラノチウ( poturanociw < po・tura・nociw )【 子供・を連れた・星=水星 】…水星
「昔々、パコロカムイ(疱瘡のカムイ)が病を流行らせた。いろいろなカムイ達がパコロカムイを退治しようとしたが、パコロカムイはすぐに蘇って人々を苦しめる。そこで、美しいニサッサウォッノチウ(暁の明星)が嫁になると、パコロカムイは暴れなくなり、熱病や疱瘡が村から消えてしまった。そののち、ニサッサウォッノチウは、ポトゥラノチウという子を連れて、輝くようになった」
…なんだか昨今の世界情勢を思い出さずにはいられませんね(ちなみに水星は、今年の5月下旬から6月上旬に、夕方の西の空で見やすくなりますよ! )。
パコロカムイ(疱瘡のカムイ)の物語はまだあります。
ふたご座のポルックスにこんな名が……。
フレケタ( hureketa=hure・keta )【 赤・星 】
パコロケタ( pakorketa > pa・kor・keta )【 年・を支配する=疱瘡・星 】
地域によっては、ポルックス、アルデバラン、ベテルギウスの赤い星三つなどを、フレケタ(赤星)やパコロケタ(疱瘡星)、パコロカムイ(疱瘡のカムイ)と呼び、疱瘡が流行った時にはこの三星が怪鳥になって飛び回り、人々に病を流行させた、とも伝えられています。そして、西の死の国へおびき寄せられる人の魂が、
セレマックル( sermakkur > sermak・kur )【 背後の・者=霊魂 】
これは、おおいぬ座のシリウスの呼び名のひとつです。
怪鳥(赤い星々)に誘われる霊魂(シリウス)……。昔、流行り病に苦しんだアイヌ民族の人々はどのような気持ちで星を眺めていたのでしょうか。たぶん、きれいだなという気持ちだけではなかったでしょうね。
・・・・・
昨年2019年末から今年2020年の冬にかけて、フレケタ(赤星)であるベテルギウスが暗くなった(減光した)ことがありました。
>> 2等星に陥落!ベテルギウス減光のゆくえ(アストロアーツ 2020年2月5日)
>> 減光とともに形も変わったベテルギウス(アストロアーツ 2020年2月21日)
ベテルギウスはもともと明るさが変化する星で、暗くなるのは天変地異ではなくいわば“ふつう”のことです。しかし昔々の人々なら「これは何かの予兆ではないか? 」と考えることもあったでしょう。昔のアイヌ民族なら「怪鳥が村に舞い降りているからでは」なんて思ったりしたかもしれませんね。
実は天文学は、このような、天体の観察や記録が学問の源流になっています。空の様子と私たちの身の回りのこととに何か関連性があるのではないかと考え、その観察や記録をもとに、天体の運行の研究が深まり、天文学は発達してゆきました。
ベテルギウスの減光とウィルスの流行は、科学的に見ればおそらく全くの無関連でしょう(ただ、関係がないと断言できる根拠もないので「無関連です」とは書かずにおきます)。しかし、“言い伝え”ではなく“科学的に関連があるのか、ないのか”と探求すると、そこからサイエンスが始まるのです。
古今東西、たくさんの民族が地球上で暮らしてきました。病に苦しまない民族も、星を見たことがない民族も、きっといないのではないでしょうか。現代の私たちがウィルスの影響を乗り越え、社会を立て直し、星座の物語やサイエンスといった文化もきちんと次の世代へ手渡せられますように。そう願っています。
それでは最後に前回のクイズの答え合わせです。
Q2 北斗七星は おおぐま座の一部分です。では、アイヌ民族には熊の星座はあるでしょうか? ないでしょうか!
<答> A2 「ある」
実は北斗七星のあたりに、アイヌ民族も熊の星座を作っています。しかも尾の長い熊です。ギリシャ神話の星座ととても似ていますね。何か理由があるのでしょうか、気になりますね……。
シアラサルシカムイノカ・ノチウ( siarasaruskamynokanociw < si・ara・sar・us・kamy・noka・nociw )【 本当に・(不明)・尾・が付いている[=尾の長い]・熊・の姿をした・星 】
<おまけクイズ>
Q3 かに座のプレセぺ星団のあたりにはエルムン・プ【 ○○○・の倉 】という星座があります。この○○○には生き物の名前が入ります。さあ、天に倉を立ててもらって住んでいるのはいったいどんな生き物でしょうか? 答えは次回!(火・金の14:00に連載予定です)
全編生解説プラネタリウム 「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」
開館が再開次第投影開始 ~ 5月31日(日)まで
※臨時休館延長に伴い中止が決定いたしました。再投影は検討中です。(5/7) 終了
講演会「ことばから見るアイヌ文化と自然観」
2020年5月30日(土) 17:10~18:40
講 師:中川 裕(千葉大学 文学部教授)
4月11日(土) 10:00より受付開始
※今後の社会情勢に応じて変更になる可能性があります。
※延期が決定いたしました。日程を調整中です。(4/17)
※一旦中止とし、改めて実施を検討いたします。(5/19) 終了
<出典>
末岡外美夫(すえおかとみお), 1979. 『アイヌの星』
末岡外美夫(すえおかとみお), 2009. 『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
<全編生解説プラネタリウム「ノチウ」web連載@ロクトリポート>(リンクはご自由に)
vol.0 番組紹介 「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」/アイヌ民族の星座
vol.1 星座 北斗七星① ウㇷ゚シノカ・ノチウ/クットコノカ・ノチウ/北斗七星/恒星カムイ
vol.2 星座 金星 金星/疱瘡のカムイ/フレケタ/セレマックル/ベテルギウス
vol.3 星座 北斗七星② シアラサルシカムイノカ・ノチウ(尾の長い熊)/弓矢/舟
vol.4 星座 月と太陽 月/アムキリクル(月の知人)/三角星/鯨/イナウ/ひしゃく
vol.5 星座 四つ星 かたつむり/船/レラ・チャロ(風の吹き出し口)
vol.6 星座 天体と季節 月の形/朝昼夜/季節
vol.7 星座 めぐる星 追われる娘たち/蛇/踊る娘たち
vol.8 星座 動物たち 狐/貂/ホロケウ・ノチウ(狼)
vol.9 星座 さそり① 龍
vol.10 星座 さそり② ザリガニ/カンナカムイ(雷[龍]のカムイ)
vol.11 番外編 関連webサイト紹介
vol.12 星座 ねずみの倉 ねずみの倉/疱瘡のカムイ/日食
展示紹介 アイヌ民族の着物を展示中!
「ノチウ」投影開始! プラネタリウム「ノチウ」2021年4月に再登場
電子顕微鏡で・・・ 電子顕微鏡でクマの毛を見てみました!
ノチウ 講演会Q&A① 中川先生講演会Q&A アイヌ語/物語
ノチウ 講演会Q&A② 中川先生講演会Q&A カムイ
ノチウ 講演会Q&A③ 中川先生講演会Q&A 習慣/星/その他
ノチウ秋投影&知里幸恵 10/9,10「ノチウ」再投影!& 知里幸恵の見た星空
ノチウ 投影レポート 2023年6月の投影内容/2030年6月1日金環日食
※連載は一旦終了ですが、今後も番外編を公開していきます。