ロクトリポート

ノチウ 投影レポート(2023年6月)

アイヌ民族の星名・星座を紹介している多摩六都科学館のプラネタリウム投影「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」。
2023年6月25日(日)と28日(水)に投影を行いました。

今回は、春から夏にかけて楽しめる星座のほか、アイヌ民族に伝わる世界構造や日食、そして知里幸恵さんについての話題も紹介しました。
マンガ『ゴールデンカムイ』に登場する星座も元々用意していたのですが、投影日の、まさにその週に、ちょうどそのエピソードがアニメで放映されたとのこと(全くの偶然です)。
ゴールデンカムイをきっかけにアイヌ民族の星座に関心を持った方にもお楽しみいただけたかと思います。

アイヌ語の星座名はすぐには覚えづらいこと、また日によって紹介する星座を変えたことから、当欄では両日の投影内容を大まかに紹介したいと思います。日頃よく質問をいただく参考書籍についてもご案内します。

■日の入りの時刻
6月28日(水)の日の入り時刻は…
西東京市        19時03分
根室市(北海道の東側) 19時03分
松前町(北海道の南西側)19時18分
稚内市(北海道の北側) 19時28分
緯度や経度の差により、北海道各地でも日の入り時刻がかなり異なるのがわかります。

■日の出・日の入りの方向の呼び名
春分秋分日の出日の入りアイヌ語
チュㇷ゚カ
【東】
チュッポㇰ【西】
東西南北の呼称だけでなく、季節によって変化する日の出・日の入りの方向などにも名前が伝わっています。
>>四季の日出点と日没点
>>>書籍『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』第二章 太陽(p32-)
>>>雑誌『天文ガイド』内「ノチウ ─アイヌの星座をたずねて─(2023年4月号)」誠文堂新光社
チュプカ チュッポク

■2030年6月1日 北海道金環日食
2030年6月1日夕方、北海道の多くの範囲で(晴れれば)見られる金環日食があります。
日食はアイヌ語でチュㇷ゚・ライ【太陽・死ぬ】などと呼ばれます。
しかし、金環日食をあらわすアイヌ語は現在のところ見当たりません。なぜでしょうか?
なお、アイヌ民族には欠けた太陽への掛け声や、太陽を助けた動物の物語も伝わっています。
>>>書籍『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』第四章 日月食(p65-84)
チュプライ

■世界の構造
アイヌの人々が暮らすアイヌモシㇼ(人間世界)やその他の空間が、円筒状に重なっているという説を紹介しました。
>>>書籍『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』第五章 垂直構造世界(p85-102)
>>>雑誌『天文ガイド』内「ノチウ ─アイヌの星座をたずねて─(2023年10月号)」誠文堂新光社
アイヌモシリ

■北の空の星座(北斗七星付近)
ワッカクㇷ゚・ノチウ 【 水・を飲む・物=ひしゃく・星 】>>vol.4 星座 月と太陽
ク・ノチウ 【 弓・星 】 >>vol.3 星座 北斗七星②
アイ・ノチウ 【 矢・星 】 >>vol.3 星座 北斗七星②
シアラサルㇱカムイノカ・ノチウ【 [尾の長い]・熊・姿・星 】 >>vol.3 星座 北斗七星②
ワッカクプノチウ アイノチウ クノチウ シアラサルシカムイノカ・ノチウ
ワッカクプノチウ クノチウ アイノチウ シアラサルシカムイノカノチウ しっぽ
チㇷ゚ノカ・ノチウ【 舟・形・星 】 >>vol.3 星座 北斗七星②
トィタクㇽ・サウォッ・ノチウ【 農耕・から逃げる・星 】 >>vol.7 星座 めぐる星
チプノカノチウ トイタクル・サオッ・ノチウ
チプノカノチウ トイタクルサオッノチウ
ウㇷ゚シノカ・ノチウ【 うつ伏せの・姿・星 】 >>vol.1 星座 北斗七星①
クットコノカ・ノチウ【 仰向けの・姿・星 】 >>vol.1 星座 北斗七星①
北海道と東京との緯度の差や星の見え方の違いも感じられる星座です。
ウプシノカノチウ クットコノカノチウ
ウプシノカノチウ クットコノカノチウ

■占いの星
エルムン・プ【 ねずみ・倉 】 >>vol.12 星座 ねずみの倉
日食の際に太陽を助けたねずみ達が、天で暮らすための倉です。ここにもし星がよく見えると…

アネケンポ【かたつむり】 >>vol.5 星座 四つ星
触角の先の星の見え方で天候を占いました。

イチャン【鮭鱒の産卵穴】 >>>書籍『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』第十章 夏の星座(p335)
天の川の暗い部分で漁の様子を占います。
エルムン・プ【 ねずみ・倉 アネケンポ【かたつむり】
エルムンプ アネケンポ

■春の星々
ホㇿケウ・
ノチウ【 狼(おおかみ)・星 】 >>vol.8 星座 動物たち
フレスマリ【 赤い・狐(きつね)】 >>vol.8 星座 動物たち
カスペキラ・ノチウ【 蝦夷貂(えぞてん)星 】 >>vol.8 星座 動物たち
ホロケウノチウおおかみ星 フレスマリ赤い狐 カスペキラノチウえぞてん星
ホロケウノチウ

■夏の星々
 >>>書籍『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
ペッノカ【天の川】
カミアシチカㇷ゚【魔の鳥】
チクサクㇽ【渡し守のカムイ】
ウナㇻペクサノチウ【老婆を舟で渡す星】
ヤイハチレノカノチウ【シマフクロウの飛び降りる姿の星】
ホヤウノチウ【龍・星】 >>vol.9 星座 さそり① /  vol.10 星座 さそり②
季節感たっぷりの星座を、ぜひ夏の空で探してください。
カミアシチカプ魔の鳥 ウナラペクサノチウお婆さん渡す星
ペッノカ カミアシチカプ カミアㇱチカㇷ゚ チクサクル ウナラペクサノチウ イヤィハチㇽノカノチウ ホヤウノチウ

■知里幸恵さんの見た星
1923年(100年前)に発刊された『アイヌ神謡集』をまとめた知里幸恵さんが、
1922年(101年前)に東京上野の不忍池で見た星とは?
なお、1923年は世界初のプラネタリウムが誕生した年、
1922年は現在使われている88星座が定められた年でもあります。
>>ノチウ秋投影&知里幸恵
1922上野公園平和記念東京博覧会1232.11-325 (1)知里幸恵
「平和記念東京博覧会 第2会場夜景」 所蔵:(株)乃村工藝社

■音楽
今回の投影では、チカルスタジオさんのご協力により、以下の2作から歌や民族楽器トンコリの音色をお楽しみいただきました。
安東ウメ子『ウポポ サンケ』
OKI『TONKORI

■出典
アイヌ民族の星座は、末岡外美夫さんによる2冊の本に詳しく書かれています。投影にもこの資料を使用しました。

書籍 人間達のみた星座と伝承 アイヌタリ末岡外美夫(すえおかとみお)著
『アイヌの星』1979
『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』2009
国会図書館(デジタルコレクション)国立天文台、各地の県立図書館や大学図書館、そして御徒町にあるアイヌ文化交流センター等で閲覧できます。現在市販はなく、古書もあまり流通しません。
なお、投影内での星座名や発音は、専門家のご意見をもとに一部変更しています。

また、以下の書籍も参考になります。
中川裕著『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』 (2019 集英社)
雑誌『天文ガイド』内「ノチウ ─アイヌの星座をたずねて─(2023年4月号・6月号・8月号・10月号)」誠文堂新光社

それでは皆様、スイ ウヌカㇻアン ロ!

<全編生解説プラネタリウム「ノチウ」web連載@ロクトリポート>(リンクはご自由に)
vol.0 番組紹介            「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」/アイヌ民族の星座
vol.1 星座 北斗七星①    ウㇷ゚シノカ・ノチウ/クットコノカ・ノチウ/北斗七星/恒星カムイ
vol.2 星座 金星            金星/疱瘡のカムイ/フレケタ/セレマックル/ベテルギウス
vol.3 星座 北斗七星②    シアラサルシカムイノカ・ノチウ(尾の長い熊)/弓矢/舟
vol.4 星座 月と太陽       月/アムキリクル(月の知人)/三角星/鯨/イナウ/ひしゃく
vol.5 星座 四つ星          かたつむり/船/レラ・チャロ(風の吹き出し口)
vol.6 星座 天体と季節    月の形/朝昼夜/季節
vol.7 星座 めぐる星       追われる娘たち/蛇/踊る娘たち
vol.8 星座 動物たち      狐/貂/ホロケウ・ノチウ(狼)
vol.9 星座 さそり①      龍
vol.10 星座 さそり②    ザリガニ/カンナカムイ(雷[龍]のカムイ)
vol.11 番外編              関連webサイト紹介
vol.12 星座 ねずみの倉  ねずみの倉/疱瘡のカムイ/日食
展示紹介                    アイヌ民族の着物を展示中!
「ノチウ」投影開始! プラネタリウム「ノチウ」2021年4月に再登場
電子顕微鏡で・・・  電子顕微鏡でクマの毛を見てみました!
ノチウ 講演会Q&A①    中川先生講演会Q&A アイヌ語/物語
ノチウ 講演会Q&A②    中川先生講演会Q&A カムイ
ノチウ 講演会Q&A③    中川先生講演会Q&A 習慣/星/その他
1/19と2/16に再投影! [2022 冬]再投影/方位/四季の日出点と日没点
ノチウ秋投影&知里幸恵 10/9,10「ノチウ」再投影!& 知里幸恵の見た星空
ノチウ 投影レポート  2023年6月の投影内容/2030年6月1日金環日食